第27話 写真は語る

「写真って、なんていうか……記憶の代弁みたいなところがあるんですよね」


悟の言葉に聡美は思わず聞いた。


「写ってるものそのものじゃなくて、そこから別の事を思い出す、ってことですか?」


「そうです。写ってないことまで、芋づる式に出てくる感じで。で、それが繋がっていくと、記憶の網の目がだんだん密になっていくんです」


「でも、そんなに写真撮ってない人もいるじゃないですか?」


「はい。でも一枚に詰まってる密度が濃ければ、それでもたくさんのエピソードが引き出されるみたいで。逆に、大事な場面でも写真がないと忘れてしまうこともあるって」


ふーん、と聡美は口の中でつぶやいた。


「あと、これも面白いんですけど……語る相手がいるかどうかでも違うらしくて」


「相手?」


「ええ。たとえば、母は父に話しかけてましたね。たぶん聞いてないんですけど」


思わず笑ってしまった。けれど、すぐに笑顔が曇る。


「うちは……そういうの、だんだんなくなっていった気がします」


「……」


「夫、帰りが遅かったんです。ずっと残業続きで。で、私も子供が大きくなってから仕事に戻って。子どもも部活で忙しくなってきて……だんだん、家に誰もいない時間が増えていって」


「……」


「気がついたら、会話って減ってたんですね。ご飯どうする?とか、そのくらいで」


聡美は少し間をおいて、続けた。


「私、バツイチなんです。今さら、ですけど」


悟は頷くだけで何も言わなかった。


「でも、あの頃におもいでばこがあったとしても……たぶん、誰とも喋らなかった気がします」


そう言うと、悟は首を横に振った。


「いえ、そうでもないらしいですよ?」

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