第19話 難しく考えない

登場人物:聡美、悟


「Wi-Fiって、難しいって思ってたけど……こうして見ると、意外とそうでもないのかな」


そう言いながら、聡美は目の前に並ぶ箱を見つめていた。


家電量販店のネットワーク機器コーナー。ずらりと並ぶルーターの箱には、「一戸建て3階建て対応」「マンション4LDK向け」「同時接続15台まで」など、用途別の説明が大きく書かれている。


「ルーターって、どれを選べばいいのかさっぱりだったんですけど、こうして“部屋の広さ”とか“使う人数”で見ればいいんですね」


「そうなんです。だから難しく考えなくて大丈夫です。外箱の説明を読んで、今のお住まいに合いそうなものを選べば問題ありませんよ」


悟はそう言って、バッファロー社の棚の前に立った。


「バッファローさんの製品は設定の手順もわかりやすいので、初めてでも扱いやすいです。最初にWi-Fiの名前とパスワードを入れる必要はありますけど、それさえ済めば安定してつながります」


「なるほど……」


聡美は、箱に印刷されたイラストや簡単な説明をひとつひとつ確かめながら、どれが自分の家に合いそうかを慎重に選んでいく。


(リビングと寝室で使うくらいだし、そんなに大きな部屋でもないし……)


最終的に、マンション向けと書かれた製品の中から、やや余裕のあるスペックのモデルを選んだ。


「これにします」


箱を抱えた聡美を見て、悟はにっこりとうなずいた。


「いい選び方です。これなら“おもいでばこ”もスマホも、快適につながりますよ」


そして、ふと思い出したように悟が声をかける。


「あと、無線LANルーターはテレビの近くにありますか? “おもいでばこ”はテレビの近くに置いていると思うので、有線LANでつないだほうが簡単かもしれません」


確かテレビの裏側にあった気がする。そう伝えると、


「じゃあ、これも買っておきましょう」


と、悟は棚からLANケーブルを選び、かごに入れた。


買い物を終えて駐車場に戻るとき、聡美はふと笑った。


「今まで“無線LAN”って聞くだけで身構えてたんです。でも、ちゃんと仕組みがわかって、自分で選べたってだけで、なんだかちょっと自信がついた気がします」


「最初の一歩って、そんなものなんですよ。難しく考えなければ、案外すんなりいくことも多いですから」


助手席に座り、箱とケーブルを膝に置いたまま、聡美は小さくうなずいた。


(あとは、家に帰って、ちゃんと繋げるだけ。……きっと、大丈夫)

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