第五節 それぞれの夢、ひとつのチーム
夕暮れ時。
リンのトレーニングルームは、柔らかなオレンジの光に包まれていた。
トレーニングと柔軟を終えた四人は、マットの上で汗をぬぐいながら水を飲んでいた。
自然と、静かな空気が流れていた。
「……ねえ、リン」
ハルがふと声をかける。
「ん? なに?」
「リンって……日本に、いつまでいるの?」
その問いに、ユキとさちも目を向ける。
リンは少しだけ目を瞬かせ、やがて落ち着いた声で答えた。
「うちの家族は転勤でいろんな国に行くけど……今は、日本の会社に長くいる予定だよ」
「そうなんだ。でも、ずっと日本にいるわけじゃないんだよね?」
リンは小さくうなずいた。
「うん。高校卒業までは日本にいるよ。中学も、日本の学校に通う。でも、高校を卒業したら……アメリカの大学に進学するつもり」
「そっか……」
さちがつぶやく。
「ってことは、あと……6年くらい?」
「うん。でも、たぶん、あっという間だと思う」
リンはまっすぐ三人の目を見て、言った。
「だから、そのあいだに、できるだけたくさんのことを一緒にやりたい。もっと強くなって、もっと仲良くなって……。大人になって離れても、remember forever な関係になりたいの」
「……リンらしいね」
ユキが優しく笑う。
ハルが立ち上がって、ホワイトボードの前に向かう。
「それなら、“日本にいる間”の目標、みんなで立てようよ。それぞれの夢も書いてさ。でも、チームの目標もひとつにしよう」
マーカーを手にしたハルに、ユキが言った。
「まずは、個人の目標から書こう。ね、さちから」
「えっ!? 私から?」
「だって、さちがいちばん成長してきたもん」
少し照れくさそうに、でも誇らしげに、さちは言った。
「私は……中学で50メートルを楽に泳げるようになって、大会で決勝に残れるようになりたい。あとは……身体をもっと柔らかくして、怪我しない強い体をつくる!」
続けてユキが口を開く。
「私は、100メートル自由形で1分切りを目指す。あと、スポーツ推薦で高校進学できるくらい、記録を出せる選手になりたいな」
ハルも頷いて言う。
「私は、大会で表彰台に立ちたい。全国じゃなくてもいい。どこかの大会で、“自分のベストで勝てた”って思える結果を出したいな」
最後に、リンが静かに言った。
「私は……全日本ジュニア体操選手権に出ることが夢。でも、それだけじゃなくて、日本で“友達と一緒にがんばった日々”を、わたしの誇りにしたい」
ハルがマーカーを走らせる。
⸻
【4人の目標】
• 中学のあいだに、チームで何かひとつ達成する(大会、演技会、合同発表など)
• 年に1回、記録会 or パフォーマンス発表の場を自分たちでつくる
• 柔軟・筋力・持久力――3つの力をバランスよく伸ばす
• 卒業までに、“一緒に鍛えてきた証”を残す(記録ノート、映像、記念など)
⸻
「うわぁ……なんか、ほんとにやれそうな気がしてきた」
「うん。この四人なら、絶対できる」
「Team “キズナ・トレーニングノート”だもんね!」
「トレノだよ、トレノ!」
四人は声をそろえて笑った。
夕焼けのなか、マットの上で肩を寄せ合いながら――
それぞれの目標に向かう決意は、確かにひとつになっていた。
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