白虎ちゃんはあの狐がお気に入り
火蛍
白虎ちゃん
第1話 転校生は絶対強者
私立アステリア高等学校。
そこは生徒の個性を尊重する学風で知られる高校である。
学びを尊ぶ者、部活動に打ち込む者、それ以外に勤しむ者と生徒たちの在籍理由も様々であった。
そんなアステリア高等学校の新年度の始業式の日、そこに新入生の他にも新たな顔が一つあった。
今日から転校生がやってくることになったのである。
「おはようございまーす!」
一人の少女が大きな声で挨拶すると同時に校門を風のように通り抜けた。
少女のスカートの上から伸びた白と黒の縞模様を描いた太く長い尻尾の先端に結ばれた赤いリボンが通りかかった生徒たちの目を引いた。
彼女こそが噂の転校生であった。
アステリア高等学校二年三組の教室は噂話で持ち切りであった。
教室の入り口に張り出された生徒の名簿の中に去年はなかった生徒の名が記されていたためである。
アステリア高等学校はクラスが一貫しており、三年通してクラス担任とクラスメイトの顔ぶれが変わることがない。
そのため新しい生徒がやってくると盛り上がりを見せるのである。
(転校生、フウさんっていうのか)
大きな丸眼鏡をかけた黒毛のキツネ族の少女が教室の入り口に張り出された名簿を一瞥するとそのまま教室に入り、自分の席に着いて静かに読書を始めた。
彼女の名はイナ、大人しく平穏を望む性格の少女である。
(前の机が空いてる……ってことはここが転校生の席か)
イナはふと自分の前の席が一人分空いていることに気づいた。
転校生が自分の前に来ることが確定しているようなものである。
「はい着席を」
チャイムが鳴り、フクロウ族の男が教室に入ってきた。
彼はウィズ、三組を担任する数学の教諭であった。
「今日はまず皆さんに転校生を紹介します。では自己紹介をどうぞ」
ウィズは教卓の前に立つと生徒たちの前に転校生を呼び出した。
すると勢いよく教室のドアが開き、トラ族の少女が堂々と入ってきた。
少女はチョークを手に取ると黒板にデカデカと自分の名前を書きだした。
名前を書き終えるとチョークを置いて手を払い、正面に向き直ると自信満々に胸を張って腰に手を当てる。
「ウチは今日からこの学園に通うことになったフウ!見ての通り、白毛のトラ族!」
少女は教室全体に響くほどの声で自己紹介をした。
その声は教室どころか廊下を通じて他の教室にもうっすらと聞こえるほどであった。
フウの自己紹介に教室はざわついた。
というのも、生徒たちの中ではトラ族は赤茶色と黒の二色の毛色と黄色の瞳というのが一般認識であるのに対してフウの容姿は白と黒の二色の毛色にライトブルーの瞳をしており、その認識から完全に外れていたからであった。
「ウチの特技は運動することと大きな声を出すこと!みんなよろしく!」
フウはプロフィールを簡潔に語って自己紹介を締め括った。
彼女のライトブルーの瞳は燦々と輝き、その後ろでは赤いリボンのついた太く長い尻尾がゆらゆらと揺れている。
自己紹介を終え、教室内でまばらに拍手が飛んだ。
(ひえぇ……すごい子が来たなぁ)
イナは早くも及び腰であった。
トラ族といえば昔から強さの象徴として語られる存在である。
そんなトラ族のフウが自分の目の前に来るのは非常に不安であった。
「フウさんの席はそこの空いてるところになります。この学校についてわからないことも多いでしょうからみなさんも何かあったら積極的に教えてあげてください」
ウィズは静かにそういうとフウは案内されるままにイナの前の席まで移動してそこに着席した。
その時、イナがふと顔を上げるとそこに向かっていたフウと偶然ばっちり視線が合った。
(あっ、ヤバい)
(この子は……)
イナが萎縮する一方、フウはイナに何かを感じていた。
しかしここでは特に言葉を交わすでもなく、二人は無言であった。
(怖い子じゃありませんように怖い子じゃありませんように怖い子じゃありませんように……)
睨まれたと思い込んでいたイナは前の席に座っているフウが不良でないことを祈るばかりであった。
初日のホームルームが終わり、下校時間となった。
時刻は昼前、イナは早々に帰ろうとする。
「ねえねえ、そこのキミ!」
家に帰ろうと席を立ったイナをフウが背後から呼び止めた。
トラ族特有の大声にイナは驚いて思わず足を止め、小さな背筋を伸び上がらせた。
「な、なんでしょう……?」
「うーん……やっぱりそうだ!」
イナが恐る恐る振り返るとフウはジロジロとイナのことを見まわした。
そして何か確証を持ったように言い放つ。
「さっき一目見た時からキミにはキラキラを感じたんだ!ウチはキラキラしたものが好き!」
「キラキラ?なんのことですか!?」
フウの発言はイナには理解不能であった。
イナは意図的に目立たないように振る舞っているつもりである。
そんな自分のどこにフウが『キラキラ』を見出したのかが全くもってわからなかった。
「キミはもっとキラキラになれる!ウチの目に狂いはない!」
フウはイナの疑問を無視して強引に話を進めた。
こうしてフウに早くも目をつけられ、イナは平穏な学園生活が遠のくことに不安を覚えるのであった。
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