第5話「僕の幼馴染も可愛すぎるのでさらに部活を頑張りたいと思います。」

今日は、5月17日。昼休み。教室には友達同士の雑談が混ざり合っていた。


僕は、自分の机でぼんやりみんなが昼休みをエンジョイしている姿を見ていた。午前の授業なんて、まるで上の空だった。

なんか、最近先輩に会うたびに頭が痛くなるんだよな〜。なんでだろ…


「よーすけ!おーい、よーすけ!約束忘れてるよねー!」


バーンというドアの開く音と同時に、元気な声が飛んできた。振り返ると、髪を一つにまとめているめっちゃ美人な女子――谷川愛美が立っていた。


「ごめんごめん。」


「ったく。せっかく“今日は3人でお話しよーねー”って言ったのに。」


と言いながら、フロアにあるオープンスペースに片隅にある椅子に座った。


「あれ、洋平は?」


と僕が聞く。


「あんなやつ、しらね〜。」


「うわ、また喧嘩か?」


「嫌だね、あんなやつ。」


と愛美がいう。いや、こいつ可愛いんだが性格がなあ。高橋洋平という僕の1年からの友達がいるんだが、そいつと仲がいいんだが悪いんだがでいつも喧嘩をしている。


「そんなことよりさ!部活、今日もあるよね。もう正式入部とはいえ、課題多くない?」


「うん。トロンボーン、思ってたより難しくてさ。唇の力抜くのに変なとこ筋肉痛」


「はは、分かる。フルートの扱いが繊細すぎて大変なんだから」


そう。愛美も同じ吹奏楽部。僕とは洋平と同じ、小1からの幼なじみ的なやつで、音楽好き同士、気がつけば一緒に入部していた。


「でも、吹奏楽ってさ……合奏、絶対楽しいよね」


パンを頬張りながら、愛美がふとつぶやいた。


「ん?楽しいと思う?」


「うん、音が重なったときの感じ。なんか、昔から知ってるような安心感がある」


その言葉に、僕の脳裏にフルートの音がよぎった。あの春の日、音楽室で出会った先輩の音。


「……なんとなく分かる。俺も、吹いてるとき、どこか懐かしい気持ちになるんだよな」


「ね。……よーすけ、ちょっと変だよ。最近、そういうことよく言うし」


「変って?」


「うーん……でも、悪い意味じゃない。なんか、前よりちゃんと“音楽してる”って感じ」


愛美はそう言って、柔らかく笑った。


その笑顔を見て、僕は一瞬だけ胸がざわついた。今までずっと一緒にいたはずなのに、今日の彼女は少しだけ遠く見えた。


「……ありがとな」


「ん?」


「いや、愛美が一緒にいてくれて、助かってるってこと。」


「はぁあ?なにそれ!?急に気持ち悪っ。1m以上離れて。ソーシャルディスタンス!」


そう言いながらも、愛美の耳がわずかに赤くなっていた。


昼休みの時間は、もうすぐ終わる。

けれど、僕の心には、小さな音符がひとつ、生まれていた。


= = = = = = 次の日 = = = = = =


私は朝、自分の部屋でいつものようにノートを見る。


「今日は、フェス…か。和田くんは旅行…か。」


毎年1年に1回、5月の第2土曜日に、新利根駅前で開催される比較的大きな祭りがある。

地域住民にとっては結構大きいイベントだけど、その雰囲気はどこかアットホームで、地元ならではの温かさがある。出店やステージ、子ども向けの企画もあって、毎年多くの人で賑わう。


そのイベントで毎回、付近の中学校の吹奏楽部が演奏で呼ばれる。

今年も新利根中学校吹奏楽部が出演することになっている。1年生は演奏には出ないけれど、手伝いや拍手係として参加する。初めて「部の一員」として外に出る行事だった。


私は、この晴れ舞台を和田くんに見て欲しかった。

「すごかったよ」って、言ってくれたらどんなに嬉しかっただろう。

少しだけ、私を特別に思ってくれたかもしれない。

そんな、小さな期待を胸に抱いていたのに——


けれど、1回目の人生と同じように、今年のフェスは天気の都合で延期になった。第3土曜日に開催されることになり、ちょうど和田くんは家族旅行でいない日になってしまった。


「…あーあ、楽しいフェスなのになあ」


と呟く。風がカーテンを揺らし、まるで私のため息を外へ運んでいった。


ここで仲良くなるチャンスを掴めると思ったのに——

少しだけ勇気を出して、話しかけてみようと思ってたのに。


ふと、自分の手元のノートを見る。私は何を変えたくて、何を守りたいと思ったためにループをしているのか——そんなことを、ぼんやりと考えた。


「おーい、もうそろそろ出番だよ〜!」


「はーい。」


先輩たちに呼ばれ、私は舞台裏へと向かう。

これからみんなを元気にするための演奏をしに行くんだから!

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