第41話 リーダー
逃げ帰っていくゴブリンたち。
あれだけいたゴブリンもその数を半数以下にまで落としており、僕たちがどれだけの数を倒したのか、地面に転がる夥しい数の死体の山から見ても分かる。
優に三百体以上に上るだろうか。
一人頭三十七体前後の計算になる。
僕はその半分くらいだろうから、ポランくんやヴィリムくんはもしかしたら五十体くらい倒していてもおかしくないかもしれない。
いやいや、化け物だよほんと。
「バケモンだ」
崖上を守っていた子どもたちが口々にそう零す声が聞こえてきた。
うんうん。僕も激しく同意だよ。
やっぱりポランくんとヴィリムくんはこの年代の子たちの中でも頭ひとつ飛びぬけている。
「体を縦に真っ二つなんて……しかも剣ごと……」
うんうん。その通りだ。
横でも真っ二つなんて気分悪いのに、縦に半分なんてね。しかも剣の上からとかどんな馬鹿力かと……え?
僕は立ち上がり、左右に倒れた一体のホブゴブリンを興味津々に見つめる子どもたちの姿に固まった。
「え?……僕?」
────おぉ
そう口を開くと、みんなが僕を見てなぜか感嘆した。
なにこれ、怖い。
真っ二つの死体をしげしげと見つめる子どもたちという猟奇的なシーン。
その子たちが一斉に僕に振り返る光景は軽くホラーだ。
「ひぇっ」
思わず息が止まる。
「リオン!!お前すげぇな!!」
そう言ってポランくんが僕に肩を組んできた。
正直嬉しい。
「ポランくんも、たくさん倒したんだから、僕よりポランくんとヴィリムくんだよ」
謙遜ではない。
討伐数を戦績にするならば、圧倒的にこの二人の方が僕よりも上なのだから。
最後までゴブリンの侵攻を食い止めていたミシュランくんたちだって僕よりも多く倒しているはずだ。
僕なんか敵を引き付けて身を守っていただけにすぎない。
「なに謙遜してんだよ!お前がいなきゃ俺とヴィリムは駆けつけることもできなかったし、この崖上まで逃げることもできなかったんだぞ!」
ポランくんの真っすぐなその言葉には掛け値がないのが伝わる。
「へへへ。まぐれだよ」
尊敬している相手にそんなことを言われたら僕だって嬉しい。
顔がにやけてしまうのも許して欲しい。
「それに……あんなの見せられたらな」
ポランくんが僕の倒したホブゴブリンを見て、苦笑いを浮かべる。
僕も正直、ここまでやれるとは思っていなかった。
剣は破壊するつもりでいたが、まさか敵も真っ二つになるとは思ってもいなかった。
「ありゃ、俺でも無理だな。俺も循環系統に偏ってるが、ここまで極端じゃないからな」
「僕の場合は逆に放出系が適正0なんだけどね」
魔力を外に出すことのできない僕は反面、体の中での魔力操作及び伝導効率が極端に高い。
それは魔力を保持する筋繊維が関わってくるのだが、今は割愛しよう。
とにかく、僕の肉体強化は他の人とは一線を画すレベルの物ということだ。
とはいえ、全力の肉体強化は試したのはこれで二度目だが、やはり体がもたない。
幼い体が肉体強化の魔術の最大効力に追いついていないのだ。
正直、今また敵に攻め込まれたら、僕はただの足手まといにしかならないだろう。
終わってくれてほんとによかったよ。
「それこそ戦士として強くなりたい俺たちからしたら、羨ましい限りの悩みだがな」
ポランくんが僕の頬を拳でぐりぐりとする。
ちょっとだけ痛い。
でもちょっと嬉しい。これが陽キャのノリというやつだろうか。
そんな風に僕がだら~んとしていると、ヴィリムくんが僕をじっと見ていることに気付いた。
ヴィリムくんも陽キャのノリに入りたいのかな、と考えていると彼が真剣な面持ちで口を開いた。
「わるい、リオン。今までさ」
「どうしたの?急に」
彼が突然謝り始めた。
僕としてはなにがなんだかわからない。
確かにヴィリムくんの僕に対する態度はどこか冷たいものがあったが、謝られるほどのことだとも思わない。
「実は他のみんなにおまえを避けるように言ってたんだ……その、俺の……親父が」
「へ?」
突然の告解に目が白黒する。
あいつとは友達になるな───なんて子どもの間ではよくあることだし、その対象が僕なら別にそこまで怒るようなことはしないのだが……彼ではなく、彼の父親が僕に対して仲間外れにするよう仕向けたという。
僕にそんなことをする理由が分からなかった。
「俺の親父がみんなに『あいつは気味が悪いから近づくな』とか『この村に相応しくない落ちこぼれだ』とか言いふらしててさ……それで今までおまえは」
確かに他の子たちから素っ気なくされてはいたが、僕だって積極的に関わろうとはしていなかったわけだから、その点は別にいい。
だけど、
「なんでヴィリムくんのお父さんが?」
「……それは分からない」
心当たりがありそうな反応だった。
しかしまぁ、自分の父親だし肩を持ちたくなる気持ちもわかる。
これ以上追及するのも可哀想だ。
「別に気にしてないよ。今はヴィリムくんとも仲良くなれたし」
「は!?俺と──!?」
「え?違うの?」
そっちの方がショックなんだけど。
だとしたら僕を省いたことを誠心誠意親父さんの代わりに謝ってほしい。
「……べ、べつに仲良くなんて……」
「僕たち友達じゃないの?」
きらきらうるうる。
僕はあざとく目元に涙を浮かべた。
「う……と、友達じゃない……とは言ってない」
顔を逸らしたヴィリムくんの顔が赤く染まっていたことを僕の目が見逃さなかった。
よし!言質取った!
僕が満足げにムフーッと笑っていると、ヴィリムくんは勢いよく立ち上がって僕を指さして怒り始めた。
「変な顔するな!おまえは友達というよりもライバルだ!ポランとおまえは俺が倒す!」
目を三角にして地面を蹴りながら怒るヴィリムくんがなんだか可愛かった。
僕のそんな表情が透けてしまったのか、彼の怒りがさらにヒートアップしてしまった。
「そもそもあんな切り札今まで隠しやがって!年下のくせに生意気だ!」
彼が年功序列主義の日本の体育会系のような理念をもっているらしい。
そう言えば僕は年下だった。
敬語とか使った方がいいだろうか?
「ごめんなさい。これからは気を付けますヴィリムパイセン」
「敬語はやめろよ。別にそこまで本気で……いや、おまえ俺のこと全然敬ってないだろ」
僕との会話に疲れたようにパイセンが溜息を吐くと、彼はみんなを呼び集めた。
どうしたのだろうか。
僕たちの前に集まった五人。
その五人はみんな僕を見ていた。
「俺の親父から何か言われてるかもしれないが、みんな忘れてくれ。とは言っても、今更だと思うけど」
「?」
首を傾げる僕に、ヴィリムくんが教えてくれた。
「おまえは親父が言っていたみたい奴じゃないって。ここに居る奴は全員理解してるってことだよ」
みんなが口々に僕の戦いっぷりを誉めてくれた。
その中で少し気まずそうにしていたミシュランくんが、僕の前に一歩踏み出して頭を下げた。
「ごめんなさい」
ミシュランくんにも謝られるようなことはあまりされた覚えはないから、正直謝られても困る。
「俺は今までポランかヴィリムのどっちかが、俺たちのリーダーになるべきだって思ってて、それでお前にきつく当たった……」
確かに言葉はキツかったような……いや別にそこまででもなくない?
二人のどっちかがリーダーには僕としても賛同しかないし。
因みにポランくん推しです。
「でも、今日ので分かった。反対意見はない。みんな同じ気持ちだ!」
え?なにが?
どうしてみんな僕に期待の眼差しを向けるの?
……嫌な予感がする。
「だな!俺もヴィリムも賛成だ。な、ヴィリム」
「ふん。腑抜けたらそっこー俺が引きずり降ろしてやるけどな」
すごい。
みんなは話の主語もなしに会話を成立させてる。
いや……僕もだんだんと何を話しているのか想像が……
「そういうわけだリオン!みんなお前を俺たちのトップとして受け入れた!」
「まって」
「今日からお前が俺らのリーダーだ!よろしくな!」
ポランくんに背中を強く叩かれる。
言葉の意味と状況を遅れて理解した僕は青空を見上げて────そして叫んだ。
「どうしてこうなるのぉおお!?」
僕は今日、ひとつ年上の蛮族たちのリーダーになってしまったようです。
聞いてないよ……
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