勇者パーティに途中で参加した魔法使いの少女。魔王討伐後にパーティ解散したら、いつも喧嘩ばかりの天才少女から何故かプロポーズされたんだが?

tataku

第1話

 魔王が、討伐された。


 私はその瞬間を、目にしたのだ。


 だって私――勇者パーティの一員だったから。


 あの時の興奮は、今でも忘れられない。


 それはきっと、この生涯を終えるまで決して忘れることのない――そんな、特別なもの。




 * * *




 勇者パーティーが王都で結成され、魔王討伐できたのはその3年後のお話。


 ただ、私が参加したのは魔王討伐の1年前であり、途中でパーティーに加入したのは、私ひとりだけ。


 私がパーティーに参加したときにはもう、既にチームは完成されていた。だって彼らは、パーティーを結成するよりもずっと前からの付き合い。


 つまり――私ひとりだけが、異邦人。


 私、本当に必要? と思ったほどに。


 だけど皆、そんなことないよと言ってくれた。(ひとりを除いては)


 私以外のチームメンバーは、なんの言葉も必要なく、連携された動き。


 私は邪魔にならないよう必死に頑張った。


 そんな私を皆は評価してくれたし、優しくしてくれた。(ひとりを除いては)

 

 皆、本当に優しかった。



 うん、と私は頷く。



 そう――ひとりを除いてはね!


 

 そのひとりとは、とっても意地悪な少女。そして、私のほうが一ヶ月ちょっとお姉さんだ。



 因みに、その子の名前は――フローラ=セリアル(17)


 

 魔法使いの最高峰である賢者に史上最年少で選ばれた――稀代の天才少女。


 彼女の左手の甲には青く輝く水晶がついている。


 人はそれを、女神の石と呼ぶ。


 それは彼女が生まれながらにして与えられた奇跡。


 それにより、神代文字を理解し、人では理解できない魔法の数々を使いこなす。


 私も魔法使いの端くれ。


 だから、彼女に憧れていた。

 


 そう――実際に会うまではね!

 


 あの子はまず、何より口が悪いのだ。


 言い方が良くない。


 ねちねちと言ってくるあれは、まじでだめだと思う。


 しかも、自分が正しいと信じて疑わない。


 まぁ……私に関しての言い分は、確かに正しい――のかも、しれないけどさぁー。


 いつも何だか納得いかないんだよねぇー。

 



 * * *

 

 


 魔王を倒し、王都への帰還の途中。だけど私たちは比較的ゆっくりと旅路を楽しんでいる。


 旅先で依頼を引き受けたり、未踏のダンジョンに挑戦したりもした。


 急げば2カ月の旅路が、もう6カ月目に突入。だから、私が彼らと知り合ってもう1年半が経つ。



 そして今――私たち、勇者パーティは荷馬車の中。

 


 御者席には勇者であるアルトさん(19)が腰掛け、革の手綱をしっかりと握っており、その隣には、純白の聖衣をまとった聖女ウルカさん(21)が優雅に座している。


 荷馬車は、簡単な枠をつけて幌をかぶせたもので、あまり乗り心地がいいものではないけども、とても広々としている。

 そんな、5人はゆっくりとくつろげる荷馬車の奥には、ガタイのいい戦士ゼクスさん(28)がいびきをかきながら寝こけている。


 まだ昼を少し過ぎたあたりだが、午前中はずっと馬車の手綱を握っていたのは彼なのだから、いびきをかいてしまうのは仕方がない話だ。

 そして、その寝息の音があまりにも大きく響くため、私が運転席側に移動するのもまた、仕方がない話だと思う。


 そして、私の目の前には、フローラ。彼女も私と同じくこちらへと避難してきた側の人間だ。


 この荷馬車には勇者パーティーしかおらず、私を含め全員で5名。


 フローラは馬車の側面に寄りかかり、胡座をかいては、膝の上に乗せた大きな本を読み進めている。


 そんな彼女を、私は両膝を抱えながら眺めていた。

 


 フローラは乱暴で、男勝りだが、おとなしくしていればとてもお上品なお嬢様に見える。――まぁ、座り方に目をつぶれば、だけど。

 


 綺麗な銀髪の髪は腰までスラリと伸び、小さなピンク色のリボンは可愛らしいアクセントとなっている。そして、かなりの小顔で、私なんかと比べられないぐらい腰も足も――何もかもが細い。身長は155cmの私よりも少し高いぐらいだ。

 

 目はつり目がちだが、青く透き通った瞳は――息を呑むほどの美しさ。


 青緑をベースにしたワンピースドレス。さりげないフリルは可愛らしくも上品さを演出。しかも魔法の加護まで付与された優れもの。


 見た目だけなら貴族のお嬢様――っていうか、彼女はまごうことなき大貴族のご令嬢である。言葉づかいからはまったく想像できないけどね!


「おい」


 と、フローラが声をかけてきた。

 魔導書から目を逸らすことなく。


「何?」


 と、私は舐められないよう、声を低くだした。


「もうすぐ、王都に着く」

「え? あぁ、そうらしいね」

「そしたら――お前、どーすんだよ」

「どうするって?」


 私がそう言うと、フローラは魔導書から私の方へと目線を向け、睨みつけてきた。

 だけどそれはほんの一瞬のことで、すぐにまた本の方へと視線を落とす。


 そして盛大なため息を吐きやがった。


「な、なによ」


 や、やんのか?


 やる気なのか?


 私はいつでもやれるよう、ファイティングポーズの構えを取った。

 

「お前って、本当――バカだよなぁ」


 その声、あまりにも実感がこもっており、流石にイラッとした。


「一体、何が言いたいのよ」


 そう言って、私は奴に指をビシッと突きつける。


 そしたら、フローラは再びため息を吐きやがった。


「気にしてんの、俺だけかよ……」


 と、そんなわけの分からないことをぽつりと呟いた。


 そして急に頭を掻きむしると、魔導書を膝の上で閉じ、私の方へと視線を向ける。


 わりと真剣な目で見つめてくるもんだから、不覚にも、ドキッとしてしまったじゃないか。


「王都へ着いたら、俺たちの旅は終わる」

「えっと――そう、だね」


 それは多分、良いことだ。


 だって、私たちは魔王を倒すために旅を続けてきたのだから。


 つまり、私たちの旅が終わる、と言うことは――平和になったことの証明でもある。


「そして王都に着いたら、俺たちのパーティーは解散だ」

「……」


 それは、分かっている。

 分かっていたはずなのに、それを直接言われた私は――動揺し始めている。


 嫌だ。

 嫌だと、そう思った。


 だけど、そんなの――仕方がない。

 だって皆には、それぞれの人生があるのだから。

 

「そしたら、お前――どうすんだよ」


 どうする?


 そんなの、分かる訳がない。


 分からなくて、自然と――視線がゆっくりと落ちていく。

 

「それなりの褒賞金が貰えるわけだから、当分は遊んで暮らせる。とは言え、いつまでもそのままってわけにもいかねぇだろ? だから、まぁ――なんだ? お前が良ければっていうか、これはもう決定事項な話な訳だが――――」


 ……。


 実は私、王都へ行くのは初めてだ。

 私は少数民族で、深い森の中でずっと生きてきた。

 私は比較的、近くの町まで出ることが多かったから、ある程度は世間というものを知っていた。――つもりだったけど、皆と旅をして思った。


 私はとんでもない、世間知らずの子供だったってことが。


 ずっと憧れていた王都に行けるのは嬉しい。だけど――私が生きていく場所ではないような気がする。


 暫く王都で過ごしたら、多分――


「私は、私の生まれた場所に帰ると思う」


 そう言って、私は顔を上げた。

 

「……はぁ?」


 と、フローラは声を出す。


 そしてなんか、放心したような顔。


 こんな表情、初めて見た。


「えっと――その、大丈夫?」


 なんか、反応がない。


 だから、流石にちょっと心配になってくる。


「フローラ?」


 私は腰を浮かすと、彼女の顔を覗き込んだ。


 すると、フローラは正気に戻ったのか、私の顔を見て睨みつけてきた。


「お前――もしかして、ひとりで帰るつもりだったのかよ」

「え? そんなの、当たり前じゃん」

「……帰って、どーすんだよ」

「どーするって、しばらくはのんびり暮らすんじゃない?」


 そしていつかは、少し旅に出たいとは思うけど。

 

「あ? ふざけろよ」


 と、悪態をつき、眉根を寄せてきた。


 なんか――わりと本気で切れてる? そんな気がして、私は戸惑ってしまう。


 フローラとの言い争いなんて、いつものこと。


 だけど今回は、そんないつもの感じじゃなくて――私は困惑するしかなかった。

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