『ちょっとふしぎな まいにち』シリーズ

ばこ。

さかさま町のひみつ

 「おはよう」と言ったら、「おやすみ」と返ってきた。


 ぼくは、目をぱちくりさせた。

 ここは、昨日まで住んでいた町とはちがう。今日から住む「さかさま町」だ。


 はじめての朝、学校に行こうとしたら、お母さんが言った。

 「ランドセルは前にしょってね。転んだときに、クッションになるから」

 「......え?」


 くつは左右逆に並べてあるし、信号の青は「とまれ」だし、雨がふってきたときにかさを開いたら、

 「だめだめ! ぬれちゃうよ!」と近所の子に言われた。

 この町では、かさはさかさまに持って、雨をバケツみたいに集めるために使うんだって。


 へんなの。へんなの。ぜんぶ、へんだ。

 ぼくは、口をとがらせて、毎日をすごした。


 でも、一週間たったころ。

 「おやすみ」って言われると、なんだか、ちょっとわらっちゃうようになった。

 ランドセルを前にしょって走ると、ちょっとヒーローみたいで楽しい。

 かさで雨をあつめるのも、あとで花にあげるんだと思えば、けっこういいかも。


 ある日、クラスの子が言った。

 「ぼくたち、ふつうだよ。ふつうって、場所でかわるんだって、しってる?」

 ぼくは、うなずいた。たしかに、ここでは、これが「ふつう」なのかもしれない。


 町じゅうが、ぼくの“あたりまえ”を、ゆっくりひっくり返していく。

 でも、それがなんだか、おもしろくなってきた。


 それからぼくは、もっともっと、へんなことを見つけるのが楽しみになった。


 そしてきょうも、にこにこしながらあいさつをする。


 「おやすみ!」



 ◇あとがき

 あたりまえって、なんだろう。

 それは、いつのまにか自分の中でできあがった「かたち」かもしれません。

 でも、場所が変わると、それはちがって見えることもある。


 もしあなたが、ちがう考えに出会ったとき――すぐに否定しなくてもいい。

「へえ、そうなんだ」って、いちど心のドアを開けてみてください。

 そうすれば、きっと世界は、すこし広く、楽しくなります。

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