カラメルソースとロリポップ

緋之元夜空

第1話 お嬢様高校に運だけで勝利した女、それがわたし

玲陵高等学校、そこはいわゆる由緒正しきお嬢様学校。

家庭が裕福で、学問の神の寵愛を受けたかのような成績を持つ一部の女子のみが通うことを許される超エリート高校。


そんな学園に、「親がFXで大勝ちして、そのお金で大株主になって収入が安定したから」「記念受験の予定だったけどなんか受かったから」通っている一般人がこのわたし、藤野優香トウノユウカだ。


そんなだから、毎日勉強についていくのに必死で心に余裕がないし、その上に親が遊び歩くようになって家事全部やらないといけなくなったから疲れるし。

わたしが相当幸運なのはわかってるけど、それでも愚痴をこぼさずにはいられない。


でも、そんなわたしにも日々の癒やしはいくつかある。

それはネットショッピングと、かんたんなスイーツ作りと。


…あとは、今教室のアリーナ席で先生の話をメモに取りながら、ふわふわとした雰囲気をまとっている我が推しのお嬢様を眺めること。


名前は天乃舞アマノマイ。この高校の中でもかなりの上位に入る家柄の持ち主。

そして、150cmあるかないかくらいの背丈に大きな瞳。腰くらいまである黒髪ロングのストレートと、かなり可愛らしい容姿を持っていて。


それなのに飾らず威張らない表裏のなさそうな振る舞いにわりと人気が集まっていて。

それは入学三日目にして、初対面から間もないはずのクラスメイト達が次々と取り巻きと化すほどだった。

そして、その勢いのまま彼女は学級委員に祀り上げられた。

…ご愁傷さまです、なむなむ。


入学から半年経ち、葉も赤く色づき始めた今となってはその人気も少しおとなしくなったように見えるが、実際は影でファンクラブが設立されており、噂によると会員たちはその序列を争い日々血で血を洗う戦いを繰り広げているとかいないとか。


わたしは物騒なのはいやなのでファンクラブからの勧誘をことごとく断り、でも言動や所作が幼くってかわいいから、遠目から眺めているのだ。

ちなみに、まだ事務的な会話を除いて話したことはない。


だって、こんな庶民が話し相手になったところで悪影響しか及ぼさないでしょ。

まあ、ファンクラブの皆さまが天乃さんに良い影響を与えているとも思わないけど。


そんなわたしの配慮が天乃さんにとっては大して親しくもない人に眺められるっていう結果に繋がっちゃってるっていうのは有名税ってことで。


なんてことを考えていたら、どうやら終礼が終わったらしい。

日直の「きりーつ」という声に慌てて立ち上がり、ここ半年で板についたお上品なお辞儀をかます。


最初の頃は勝手がわからずに恥をかいたものの、今となっては昔のことよ。

わたしは日々進化しているのだ。


そうだ、なんか気分もいいし明日はお小遣いの日だから今日はちょっと贅沢して、夕御飯は外で食べちゃおう。


「あのっすみません。」


どこがいいかなぁ、ハンバーガー屋は最近高いし、かと言ってス◯バに行くようなおしゃれさは兼ね備えてないし。

そうなってくるとクラスメイトが行くようなオシャレな店も論外だけど、ここらへんっておしゃれカフェばっかりだし。

う〜ん。


「…あのっ!」


「あれ?もしかしてわたしに声かけてる?…って、天乃さん!?」


「えっと、そうです。藤野さんに少し個人的な頼みがあって、申し訳ないのですが、放課後の時間を少しお借りしたいのです。」


あれぇええ!?個人的な頼みぃ!?

なんで、なんでわたしに?

ここ半年を通して事務的な言葉しか交わしてないはずなのに!

っていうかわたしよりクラスカーストが圧倒的に上なのにめっちゃ丁寧でかわいい!ちっちゃい!

おちおおち、おちつけたわし、落ち着け、わたし。


別にわたしがこの半年天乃さんを眺めていたことは犯罪ではない…ハズだし、実はそれがばれてて、呼び出されて責められたとしてもファンクラブの皆様に血祭りにされるくらいで済むはず、そうだよね?


…一応月乃さんの背後をちらりと見てみると、そこには野生のクマでさえ素手で撲殺しそうな目つきのクラスメイトがちらほらいた。


『アレ、ダレ?ドコノ馬ノ骨?』

『放課後ニフタリキリッテコト?…許サナイ』

という怨嗟の声が聞こえてくるようである。


うん、既に血祭りじゃ済まなさそう。


なんか、動揺してまともに返事出来なさそうだったのが今ので冷静になれた。

わたしが今いくら甘い汁を啜れど、その報いを受けることになるなら安心だね。

…ほんとに安心かな?


「えっと、個人的な頼みってどうしたの?天乃さん。」


すると、天乃さんはおもむろに後ろを確認して、わたしの制服の袖をひっぱる。

促されるままに屈むと天乃さんは私に耳打ちして、


「あのですね、私、クラスメイトと食べ歩きなるものを経験してみたいのです。」


と小声で、恥ずかしそうに言った。

…うん?

天乃さんが袖を離す様子がないので、そのまま小声で話す。


「えっと、ほんとにわたしでいいの?」

「はい、私はあなたがいいのです。よろしいですか?」

「っ!?全然いいよ!よろしくね、天乃さん。」


私がそう言うと、天乃さんはわたしの袖を離してへにゃりとはにかんだ。かわいい。

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