君想う故に私在り
連星霊
ギター狂想曲~光のお嬢様/闇のお姫様~
第一楽章【その日の始まり】
第1話【Dawn】
「──えっと、初めて見た時から気になってて…ッ!俺と!よかったらつ──」
「───ごめんなさい」
4回目だ。このセリフを言うのは。
「いや、あのっ!
「───幸せにするではなく。貴方自身を幸せにしてくれる人を選ぶべきですよ」
私はできるだけ柔らかい口調で、思っていることを伝えていく。
「いや、俺にとっては暁乃さんがそ───」
「───
───そう言って、私『
中学生活が始まって1ヶ月。私の大体の立ち位置は見えてきた。
自分で言うのもなのだが、私は容姿が良い。両親から受け継いだ、艶やかで綺麗なストレートの黒髪と黒い瞳。同年代の平均より少し高めの身長。白く柔らかな肌と、スレンダーな体型も、私自身の努力の賜物だと思っている。
私は私の自己満足のために綺麗でありたいと思っているだけなのだが、私はクラスメイトからは1目置かれ、女子からは羨望の眼差しを、男子からはいやらしい目を向けられることとなっていた。特に男子からの告白ラッシュはしつこく、誰も何も学んでいない現状には腹が立つ。
そもそも、何が「好き」だ。何も知らないくせに。
「───ただいま」
家に帰り、手洗いうがいをして、階段を上り自分の部屋へ。ドアを開けて中へ入り、内側に吸音材を貼り付けたドアを閉める。
部屋は女子の部屋と言うにはかなり味気ない色味。しかし、私はこのほんのりとクラシカルな質感を気に入っている。
棚の上には、好きなメロコア系のバンドのCDが並べて飾ってある。
ベッドのすぐ横には、青いギター。『Gibson ES-335』。ベッドと勉強机を挟んで部屋の奥側には、マーシャルのアンプが鎮座。
ES-335を手に取り、ストラップを肩にかけて、長い黒髪を払う。シールドを刺してアンプと繋ぎ、電源を入れる。
全弦解放。チューニングのズレは無し。
C、D、E、Aといった基本的なコードを掻き鳴らしていく。
鉄の軋む音が心地良すぎる。
ある程度準備運動のように弾いた後は、繊細なピッキングでメロディを作りながら徐々にスピードを上げてタッピングを繰り出し、最後またコード弾きで〆。
「………いつか……ライブをしてみたい……」
私には、夢がある。
ギタリストとして、大勢の前でライブがしたい。ライブハウスで、バンドでライブがしたい。ギターをやっているうちに、そう思うようになった。
強いて言うなら、私の恋人は音楽。
私が欲しているのは、私がギターを弾けるバンドなのだ。
◇◇◇
次の日。学校に行けば、ヒソヒソと話し声が聞こえてくる。
「
「ぇ~、やっぱもう彼氏いるんじゃない?別の学校のとか、先輩とか」
「いないと思うけどなぁ~。いや、あっちの可能性は?」
「なに?あっちって……」
いらない話ばかりが聞こえてくる。
私には分からない。人の気持ちも、何も。他人に興味が無い。気になるとか、そんな感情が無い。
ズレているのだろうか。
周りが特殊なだけだと思っていいのだろうか。私が普通ではないのか。
「ねぇ
「いません」
「欲しいとか思わないの?」
「思いません」
分からない。彼氏が欲しいだとか、そんなこと。思った試しがない。
がやがやとやかましい廊下を抜けて、教室に入る。
入学してから1ヶ月、席替えは行われておらず、私の頭文字が「あ」であるため私の出席番号は1番。それにより席は1番窓側の1番前。黒板の前を通り抜けて席まで行こうとするが、教卓付近に女子の数人のグループがいて通り抜けが難しい。
「………」
その中心にいる人物は、他人に興味の無い私でも覚えている。
『
「花葉さんまた告白こっぴどくフッたって聞いたけどどうなの?」
「フッたもなにも、あの殿方が自分で勝手に玉砕しただけです。
「興味無い、か。確かに、好きの反対は無関心って言うし」
「知りたいとも思いませんもの。………あら?」
「……!」
女子たちの隙間から、彼女と目が合った。
「…ごめんなさい、暁乃さん。道を塞いでしまっていましたね」
「いえ。別になんとも」
「どうぞお通りください」
花葉さんの周りにいた女子たちが道を開けてくれる。
「…ありがとうございます」
お礼を言って、私は自分の席を目指す。
少し意外だった。もしかしたら虐めでも始まるのかと思って身構えていたから。自分に自信のありそうな彼女にとって、無駄に男性人気の高い私は煙たい存在となっていると勝手に思い込んでいたので、優しくされるとは思っていなかった。
「さてと。そろそろ時間ですね。席に座っておきましょう」
時間も守る。中学1年生なんて、ついこの間まで小学生だった人間だ。どうして彼女はこんなにもしっかりしているのだろうか。
「………」
いや。どうでもいい。知ったところで、私は別に彼女と仲良くなりたい訳でもないし、実際、友達になることなんてきっと無い。見えてる景色も住んでる世界も違いすぎる。
私と仲良くしてくれる人が、私と仲良くしてくれればいい。
◇◇◇
休み時間。席に座ったままの私に、声をかけてくる女子が1人。
「暁乃さん。ちょっといい?」
「…なんですか?」
「放課後……少し……」
───放課後。
「………」
彼女はあれか。恋のキューピットにでもなるつもりか。男子に頼まれ、私を呼んでこい、なんて、そんなところだろう。
「……お断りします。すみませんが、放課後は用事があるので」
「あぁ………じゃぁ……」
「昼休みも勘弁を」
「……そっ……か。ごめんなさい…っ!」
「………いえ。私も申し訳な───」
────彼女は“悔しそうな顔”をして教室の外へ歩いていった。
「………」
成果を持ち帰れなかったからか。仲介役にさせられたのに可哀想ではあるが、私ももう正直付き合いきれない。
告白も、恋愛も全部茶番だ。なんの興味もない。
「はぁぁ……」
大きくため息をついて、無意識に筆箱に左手を伸ばす。
筆箱をネックに見立て、コードを切り替えながら右手を振る。
「……!」
途端に意識が戻ってやめる。
無意識に、私はまたストレスからギターに逃げていた。
「誰も見てないわよね……恥ずかしい………」
筆箱を机の隅に置いて、机につっ伏す。
どうか、誰にも見られていませんように。
───そんな
「───彼女、ギタリストですのね」
───クラスの『お嬢様』。『
……To be continued
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