7.どうしよう

教室のドアを開けた瞬間、寒さでこわばっていた体が一気にゆるむ。


 お〜、あったまる……。外は地獄みたいに寒かったけど、教室は暖房で天国だ。


 「たまちゃんおはよー!」

 「珠子おはよう」


 声の主は、私の前の席に座っている宮守 柚羽と、一緒にいた朝比奈 千紘で、二人とも私の友達だ。二人はバレー部で、私は帰宅部だけど、たまに助っ人で呼ばれたりする。部活終わりに駅前のクレープ屋でだべるのが最近の定番だ。私は二人と高校で知り合ったけど、柚羽と千紘は小学校からの幼馴染だ。

 

 「ん、おはよー。……ふぁあ」


 あくび混じりに返事をしながら席に向かうと、柚羽がそっと立ち上がって私の腕に絡んできた。


 「たまちゃん、ちょっと寝癖残ってるよ? んふふ……はい、なおった」


 「んお、ありがと……柚羽、あったかい……」


 「んふ、じゃあもっとくっついてあげる!」


 今度は正面からぎゅっと密着してくる柚羽。私より小柄で儚げな見た目で本当にお人形さんみたい。よって、抱き心地抜群なのだ。背が低いからバレーに向いてないんじゃ?と思うかもしれないが、実はとんでもない運動神経の持ち主だ。あ、いい匂い……。


 「ちょっと、くっつきすぎよ!柚羽は……私の、なんだからっ」


 そういって私から柚羽を引きはがした千紘は、ちょっと目元が潤んでいて、声がほんの少しだけ震えていた。


 背が高くてスタイル抜群。おまけに頭も良い。普段はしっかり者のお姉さんって感じだが、柚羽といると素が出て割とポンコツだ。あとおっぱいがデカい。よって私の敵!

 

 「えぇ~。私は誰のでもないよー……でも、強いて言えば……」


 柚羽さんや、なぜ私のほうを見てそれを言うんだい。そんなことしたら……


 「!?」


 ああ、ほら。千紘がちょっと泣きそうな顔でものすごくショックを受けちゃってるじゃん。


 「あー!冗談、冗談だよー。柚羽はー、ちーちゃんと、ずっーと一緒にいるよ」

 

 「ほ、ほんと?」


 「うん!ほんとほんと!だって…………」


 もう、ほとんどのクラスメイトが登校してきてるけど大丈夫か?千紘、素が出ちゃってるぞ……。


 いつもと変わらない日常。いつだって心のどこかで、これがずっと続けばいいのにって思ってる。


 けど――


 昨日のことを思い出す。もう、無視はできないと思う。あの時、あの女の子に腕を引かれたように、きっと向こうから接触してくるはずだ。……多分だけど、子ども頃は本当に見えるだけの力しかなかったんだと思う。手が光ることもなかったしね。昨日の誕生日、私が十六歳になるのが条件?だったのかな。力が覚醒だか進化だかをして、あいつらに私が『視えて』いることがバレたんだと思う。


 …………寂しい、のかもしれない……。


 私は窓の外に目をやる。空はどんより曇ってきていて、今にも雪が降りそうだ。天気予報で雪は午後からって言ってたのに……。

 

 あの女の子も、気味が悪い空間に飛ばされはしたけど、結局はかくれんぼをして遊びたかっただけみたいだったし。誰にも認知されず、話しかけても、まるで自分が見えていないかのように無視される。私だったらきっと耐えられない。片っ端から話しかけて一人も反応がないなか、私のような存在が現れたら……?


 やっぱり話しかけてみようかな。少なくとも、敵でなないと思ってもらえるんじゃないかな。昨日みたいな危険な目にも遭わなくても済むかもしれないし……。




 「おーい、席つけー。ホームルーム始めるぞー」

 

 担任の先生の声が教室に響く。ガヤガヤしていた教室が、自然と静かになっていく。窓の外の雪雲とは違って、教室の空気はあたたかくて、穏やかで……。昨日と、何ひとつ変わらないように見える、いつもの教室。


 私は椅子に腰掛け、目の前の柚羽の背中をぼんやり眺めながら、一旦考えるのをやめた。


 まだはっきり決めたわけじゃない。でも、次に会ったら……話しかけてみよう。怖くても、戸惑っても、次はちゃんと向き合ってみようと思う。

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