英雄になった猫

あの敵を倒した後、ムギは満足したらしく私たちは来た道を戻って森から出た。

草原に出た時、森との明るさが違うかったからムギと私はまぶしくなり、少しだけ目を瞼で隠した。


なんとなく海風を浴びたいという理由で、私たちは一度ヴェーラ国に戻った。

道中でもムギはスライムなどを流れ作業のように倒した。

おそらく、今日だけで敵を50匹ほど倒しているだろう。


そうしてそのまま道をたどって国へ戻った。

やはり、海風は心地よい。


「あ!英雄さんこんにちは!」


国の入口を通り私は陽気な主婦の雰囲気をした人に話しかけられた。

そのうえ、いきなり英雄と言われてとても困惑した。


「えっと、えいゆうですか?」


「あ、ごめんなさいね。少し喜びすぎてしまったわ。あなたたち、リエールの魔王である『キングリエール』を倒したでしょう?」


森ということはさっきの大きな敵だろうか。

魔王というとすべての敵の中で頂点みたいなイメージだが、この世界では敵の種類ごとにいるらしい。


「まぁ、そうですけど……。あのツタの敵が魔王ですか?」


「そうです!認識していないのに討伐なんて流石です!いままであった魔王の反応が消えて……あなたたちがレベルチャンピオンになるかもしれないと噂のムギさんですか?」


まさかレベルカードを作ってさらにレベルチャンピオンになるとは言ってないのに2日足らずで噂になるとは。


「私じゃないです!こちらがムギです!」


私はそう言ってムギを指した。

心なしかムギがドヤ顔しているように見えた。


「あら!こんなにかわいい子が!見たことない犬種ですね~!」


「かわいいでしょう!犬ではなくて猫ですけど!」


「ねこ……ですか?聞いたことない名前ですね。珍しい個体で?」


彼女は首を傾げて言った。

まさか、この世界に猫という生物はいないのだろうか。

あるいはこの人の言う通り珍しいのだろうか。


「多分そうですね~。この個体はムギ以外見たことがないので!」


ということにしておいた。


「あ、そうそう。英雄の方々にお礼をお渡ししますのでここに立っていてください。」


そういって一歩歩いて私の前まで来た。


「では、これを。」


薄茶の光玉を取り出すと、私の肩にそっと近づき触れた瞬間に私の体へと溶け込んだ。


「今のは……?」


「これは私の能力ですよ。『クレアーレ』って言って物をいつでもどこでも作ることができるんです!」


どうやら能力は人から人に譲渡できるらしい。


「そんな便利な能力を私にお渡ししてよろしいのですか?」


「いいんですよ!それに私の息子の能力と被っているので!」


彼女は微笑み、少し気がよさそうに言った。


「ありがとうございます!大切に使わせていただきます!」


私は深くお辞儀をした。

ムギもお辞儀のように頭を少しだけ下げた。


「せっかくでしたらレベルチャンピオンなど目指してみてはいかがですか?今のレベルであれば余裕でチャンピオンですよ!」


「そうですね……出るのは私ではなくペットのムギなので嫌がらないかどうか……」


と思いムギを見つめた瞬間、曇りなき眼で頷いていた。

いやがっていないみたいだし、硬くやらずに一度やってみることにしよう。


「喜んでいるようじゃない!強制はしませんがおすすめですよ、と私のほうで言わせていただきます!」


「わかりました!機会があれば参加します!」


「では私はこれで失礼します。」


私は改めて「ありがとうございました!」とお礼を言った。




私は一度ヴェーラ国を出てから南に進んだ。

最初の草原の方が西側だから新たな道だ。


なぜ西や南がわかるかというとレベルカードを作ってもらった案内所から地図とコンパスを渡されたからだ。

これで道に迷うことなく旅ができる。

せっかく異世界ここは楽しいしみんな明るくて優しいから、これから国の旅をしつつレベルチャンピオンも視野に入れて堪能しようと思う。

そう考えた私は胸を躍らせて、さっそく新たな道を早歩きで駆けた。

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