猫は異世界でもチャンピオン

くるたる

今日の終わり

「今日はこちらで業務終了となります。お疲れ様です。」


「お疲れ様です!」




私は大杓 彩子おおしゃく まこ。

21歳だけど、大学に入らず高校卒業後すぐに経営コンサルタントに就職した。

理由は分析や提案など頭を使った作業を使って早く就職したかったから。

進路については大学で特に学びたいものもなかったし、そこそこいい給料ももらえるから後悔はしていない。

むしろ、他企業の課題を徹底的に分析し、提案によって実際に成果が出たときにこそ、生きがいを実感できる。

この仕事にこそやりがいを感じているから、辞めるという選択肢は考えられない。




今日の仕事は終わり、電車の中でつり革と共に揺れている。

毎日見ているが、18時くらいの夕日が沈む風景がいつも壮麗である。




駅に着いたらいつものスーパーに寄る。

スーパーに入ったら、いつも通りサラダの総菜を、すぐそばでちょうど肉類が値引きされていたので鶏むね肉を買い物かごに入れた。

ふと「醤油が切れてたかも」と思ったのでそれも買い物かごに入れて、会計を待った。




そして、少し重たいエコバックをもちながらいつもの帰り道を歩く。

本来なら少し虚しい帰り道だが、私には楽しみがある。

その楽しみとは、家で待っている愛猫のムギのことだ。

駅近なので買い物をしたらすぐ会いにいける。




「ムギちゃん!帰ったよー!!」


と玄関の扉をあけながら、近所迷惑にならない程度で叫ぶ。

ここはアパートなのでより声の大きさを押さえなければならない。



そんなことを思っていたら、大きな毛玉がゆっくりと歩いてきた。

ムギはあまり鳴かないし大人しいから、アパートでも飼いやすい。

まぁ、私がさっき叫んだけど。

近所迷惑になっていなければセーフ。




そうして私はすぐ夕飯の準備をした。

今日は醤油を買ったのでてりやきを作る。

てりやきを焼いている間に昨日余ったごはんを冷凍していたのでそれをレンジで温め、味噌汁の具材を切って入れた。

さらにその間にムギにエサをあげた。




ムギを撫でている間に夕飯が出来上がったので鶏肉は平皿に、味噌汁は汁椀に、ごはんは茶碗についだ。

そして食卓まで持っていった。



ごはんを食べようとしたその時、エサを食べ終わったムギが見に来た。

テーブルに飛び乗った影響で猫の毛が舞って味噌汁についたが、猫飼いはそんなこと気にしていられない。

むしろありがたく思いたい。




食べ終わったので、次はムギのお世話をする。

お世話の内容はトイレ掃除とブラッシング。

特にムギは長毛種なので、念入りにブラッシングする。




トイレ掃除を終わらせて頭からブラッシングを始めると、気持ちよさそうに転がった。




一通りのお世話が終わり一息ついてSNSを見たとき、フォロワーが20万人を超そうとする瞬間だった。

私が目を丸くしたとき、一緒にムギも見に来た。




そう、実は日本の美しい猫が集まる「ジャパンキャットショー」という品評会でチャンピオンになり、一躍有名になったのだ。

ムギは穏やかで、自立心があり、愛情深いという猫の理想像だったため、審査員も見に来た人も全会一致だったんだとか。

しかもチャンピオンになったのはつい一か月前。

なので、ムギという猫の知名度がどんどん上昇し、今一番有名な猫になっている。

友人から勧められただけだが、それでもチャンピオンになってしまうムギがすごい、と毎回思う。




「行きそうだね!ムギ!」


私は胸を躍らせた。

数字が変わるまで何度も再読み込みをつづけた。

そうして20万人まであと一人。


「来る...」


萎縮した私はつい目を瞑ってしまった。




にゃぁーん




なぜあまり鳴かないムギが?一緒に喜んでくれたのかな?

そう思いゆっくりと目を開けた。

すると___


「ここは...?」


そこには、見慣れない草原と妙に明るい青空が広がっていた。

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