弁当友達ボランティアの探偵
伊藤テル
【01 夢小説】
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・【01 夢小説】
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喧騒の教室。相変わらず道化たちがデカい声で笑っている。
特にこの巨乳の、金井郁恵は本当にオーバーアクションで、手を叩いて喚き散らしている。
巨乳はバカと相場が決まっているので、本当に頭のネジが一本抜けてらっしゃるんだと思う。
私は睨むようにそちらを見ると、なんと金井郁恵と目が合ってしまい、こっちへ笑顔を向けられてしまった。
こういうのマジで最悪。
私のような若干クラスメイトからハブられている人間からすると、ああやって嫌いじゃないよ的な好意を振り舞いてくるヤツは一番の敵だ。
情けをかけられることが一番情けない。凶器であり、狂気だ。
あーぁ、気分が落ちてしまった、今日は確認すること止めようかな。
でもこんな時こそ、と奮い立たせて私は自分の夢小説のサイトを開いた。
管理人名はできるだけ表示させないように、閲覧数チェック。
何故なら小五からやっているので、ハンドルネームが絵色と本名なのだ。
あの頃はネットリテラシーよりも自己顕示欲だったので、名前はそのまんま、界隈で長くやっているという理由だけで若干有名になったので、もう名前は変えられなくなった。まあ気に入っている名前だからいいけども。
私がいる界隈は優しい人がたくさんで、私のような描写が弱い、良いところが平易しかない可読性だけでやっている夢小説サイトでも読みに来てくれる人がいる。
またご本尊運営も分かっている運営で、このボタニカルなクリアファイルはキャラクターのマークが一切無く、本当に獅童玄應様が漫画内で使っている柄を販売してくれるのだ。
だからこそのこんなゼブラ模様のシャープペンシルという、何の工夫も無い、マジのシャープペンシルも売り出すわけだけども。マジ過ぎて田舎の文房具屋になってる。何か醤油も売っているような、打って出ている文房具屋になってしまっている。
でもそれも買っちゃう、私は獅童玄應様が大好きなので、何でも買い揃えてしまう。私の心の中にはずっと獅童玄應様が、否、私は獅童玄應様と同棲しているんだから。
そそそっ、脳内で興奮し過ぎちゃったけども、今は昨日あげた夢小説の閲覧数をチェックと、おっ、コメントがついてる。しかも新規ぃっ? ここにきて新規でコメントくれるとか神かよ。
『金井郁恵:意外と面白かった!』
……はぁ? えっ、ちょっ、待て、何か、典型的な慌てるオタクになっちゃってるけども、金井郁恵って金井郁恵か?
あのバカ巨乳の、金井郁恵か? いやいやいや! 同姓同名だよなぁ! なぁ! 誰に言ってんだ私! 脳内で!
いやいやいやいや! あんなバカが”オリオンの演劇カフェ”の良さが分かるはずねぇだろ! いい加減にしろ!
絶対同姓同名だ! こんな同姓同名見たことないけども! 世の中は広いから! 絶対に広いからなぁぁああああああああああああ!
スマホはすぐに閉じた。
机に突っ伏すと、視覚を失うため、周りの声がより聞こえるようになる。
「はぁ? バッカじゃねぇの?」
うるせぇ、オマエがバカだろ、デカい声でさ。
「ウケる~」
いや笑ってねぇじゃん、オマエは走るぅとか言いながらスタートラインから動かないのかよ。
「どこで売ってた?」
ググれカス。
「で、彼氏とどこまでいったん?」
キモ。そういうこと校内で口外すんな。公害だ。
「キンタマブロックぅ!」
ジャップオスは死ね。こういうジャップオスは要らない。
「そこは守るべき場所だろ」
キンタマブロックと会話すな。ジャップオスは単語を言い合え。
はぁぁぁああ、会話レベルが合わない。猿と人間みたいだ。勿論私が人間、獅童玄應様側だ。
中三の時が一番夢小説を熱心に書いていた時期で、そのせいで受験する高校のレベルを二段階落としてしまった。
その結果が今の体たらく。私は、本当はもっと上のランクなのに。
今は他人様の夢小説を読むことに夢中。他人様の作品も素晴らしいよね、って多様性が生まれた。この語彙いいね、多用していこう的な学ぶことは正義。
まあ夢小説は一旦忘れよう。気絶しよう。何か良くない妄想が浮かんでしまうから。どうせ同姓同名だろ。まあいいや。本当にまあいい。
次の三限目の現国が終わったら、四限目は理科だから移動教室か。最速の移動教室かまして、他の夢小説のアクセス確認しようっと。
そこからはまあ現国の先生による授業&授業で、試合終了、とりま作者の思いを暗記して、理科の教科書とノートを手に持って、廊下にGO。
その時だった。
私の隣に立ったまだ教科書もノートも持っていない、じゃあどこへ行こうとしてんだよ的な敵、金井郁恵から耳元でボソッとこう言われた。
「夢小説書いてる?」
凍った背筋と反比例するかのように、脳内はアツアツになっていき、思考が留めなく溢れてきた。今、夢小説って言ったか? 聞き返すか? いやいやこんなところで私が夢小説という言葉を放つのは危険だ。今、私の周りに人はあんまりいない。多分他の人には聞こえていないだろう。だが私にはハッキリ聞こえた。夢小説って。いや夢小説って高校の廊下で言う単語じゃないだろ。いい加減にしろ。というかえっ? やっぱり金井郁恵ってコイツのこと? どういうこと? どういうレベルのネットリテラシーなの? もしかするとストーカー? 逆上されたらダメだ。ここで夢小説と連呼されたら分かる人には分かる? というか金井郁恵って夢小説とか知ってるほうの人間か? そんなようには思えないけども。いやいやそこは今重要じゃない。今はとにかくキレさせないこと。これに尽きる。いやキレそうなのはこっちだけどもさ。いやいや合ってんのか? 本当の対処はどうすればいいんだ。教えてくれ。教示してくれ。凶事が起きたらどうやればいい? いやいや沈黙長過ぎるのはダメだ、までおよそ零点二秒。
「黙ってくれ」
私はそう言い残して、そそくさと、逃げ切った、あとに、気付いた。いやその場に残って、夢小説と言いふらしていないかどうか確認するべきだったか? そもそも顔の確認もできていなかった。どんな顔で言っていたのだろうか。声から察するに、そんな嫌味な感じではなかった。何か妙に気軽だった。フラットだった。まるで友達みたいな扱いだった。それが怖かった。本当に怖かった。人との境界が無いほうのサイコパスなのだろうか。そういうストーカーなのか。全くもって判断不可能だが、一つだけ言えることがある。それは私が”持っていない”人間ということだ。まさかこんなことが起きてしまうような人間だったとは。終わった。詰んだし、積んだ、いや業は背負うものか、賽の河原みたいに言ってしまった。でもこれから終わらない不幸が続くかもしれない。私は静かな理科室で震えるしかできなかった。
その後、金井郁恵は私と接触してこなかったので、幾分思考が整備できたけども、果たしてこれからどうなってしまうのだろうか。
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