アップデート・デイズ

 土曜の午前、曇り空。
 白葵はほんの少しだけ早く駅に着いて、駅ビルのガラスに映る自分をそっと見た。

 白のブラウスと、クローゼットをひっくり返して見つけ出した淡いグレーのスカート。どれも無難な範囲を出ていない。でも、これまでの自分なら絶対に手に取らなかったものだ。なのに清楚さではなく、ババ臭さとか幽霊みたいな感じになるのは何故だろう?
 少しだけ、変わろうとした結果。たぶん、それでいい。それでいい、だから何も言わないで、

 「おまたせー!」

 美晴が手を振りながら近づいてくる。ブレザーにカラーパンツを合わせたスタイル。色づかいもさりげない小物も、さすがだと思う。

私の出番は終わりだ。私は帰

 「……それ、今日のために選んだの?」
 「うん。バレた?」
 「てか、すごい似合ってる!なんか、柔らかい雰囲気っていうか。いい感じ」

 その言葉に、白葵はくすぐったさと嬉しさの入り混じったような笑みを浮かべた。
 褒められ慣れていない。けれど、それでも――悪くない気持ちだった。

 ー

雑居ビルの3階、アパレルショップの一角。

 

「……私が着たら、浮かないかな?」

 白葵の問いに、美晴はふっと笑った。


「そう思ってるの、白葵だけだよ。むしろ、こういうのすっごく似合う顔してる」

「……似合う顔って、なにそれ」


「んー……なんていうか、強く見えるけど、目が優しいっていうか。

 ちょっとした柔らかさを足すと、逆に色っぽくなるタイプ?」


 その言い回しに、白葵は言葉に詰まる。

 自分の顔をそんなふうに表現されたのは、初めてだった。


「それにね」

 美晴がブラウスを畳みながら、さらっと続ける。


「今日の白葵、明らかに“変わろうとしてる顔”してるから。今の顔に、この服がぴったりだよ」


 変わろうとしてる、なんて自分じゃ分からなかった。

 でも言われてみると、胸の奥にほんの少し火がついている気がした。

 燃えているというより、灯っている。小さな灯火のように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る