第7話 神の怒り


 500体ものニャンドロイド大隊と共に王都アレキサンドリアへ凱旋したクレオパトラ


 現王プトレマイオス13世( 7歳 )はクレオパトラを謀反人として軍に討伐命令をだすが、バステト様が海に向けて眼からビームを放ち、轟音を伴う水蒸気爆発を見ると、僅かな側近と奴隷のみを連れて大慌てで逃げ出した


「後顧の憂いを断つ為にも、奴には天罰が必要であるな」

 バステト様は私が頷くと弟の乗る船を、眼からビームで跡形もなく蒸発させた


 例えお父様の血が流れていようとも、可愛いだなんて思った事は1度も無い

 実の姉を孕ませるなんて常日頃から公言憚らない変態小僧は、さっさとこの世から引退して然るべきだわ

「その通りだ、に対して色気付くなど万死に値する」


 あの夜以来、私は " バステト様の物 " と為っているらしい

 良いんだけどね ♡

 なまじ変な欲望に塗れた男なんかより、私だけの事を最優先してくれるバステト様は、何より尊い存在だ


 とても暖かくて優しいし、ベッドの上でも常に未熟な私をリードして下さる ♡


 それはともかく、優秀な血筋を残す為と嘯き、愚弟と結婚を強制して来た神官共は、全員ニャンドロイドに拘束され、生きたまま全身の皮を剥がされる拷問を受けた後、バステト様に依り魂を永遠に喰らい続ける悪魔に差し出された


 古代エジプトでは、死後の魂は肉体と共に復活する物だと信じられて居たので、魂を喰われながらも死ぬ事すら許されない彼等は、深い絶望に囚われる事だろう


 自業自得よ


 何ヶ月か振りに玉座に座る

 眼の前にはバステト様率いる一個大隊のニャンドロイド軍団


 人間とは異なる異形の集団だが、バステト様が自らを神であり、私クレオパトラが神の復活を成し遂げたと宣言すると、街は大歓声に包まれる


「良いか、人間共よ!エジプト王朝の正当なる後継者、クレオパトラに忠誠を誓え!さすればこのバステトが永劫の祝福と勝利を王国に齎さん!神の名において宣言する!クレオパトラは永遠である!!」


 いやぁ、私は人間だし永遠とか言われても荷が重いわ


「ふふっ、謙遜せずとも良い ♪この妾が付いて居るのだ、約束通り世界をクレオに捧げて見せよう ♡」

 何ていうか、バステト様の口から語られると、荒唐無稽に見える野望も不思議と安心して聞く事が出来る


 なにより、普通の人間には理解不可能なニャンドロイド軍団と、バステト様の神の権能に逆らえる国など、世界に存在するとは考えられない


 バステト様と私によるド派手な政権簒奪劇は、他国の商人達と海賊団の手で瞬く間に世界に拡がったのだが、中には余りにも荒唐無稽な内容に「そんな馬鹿な話しが在るものか」と、まるで信じない国も有った


 ローマ共和国もその一つである


 この時代、未だキリスト教は存在して居らず、ローマ教皇と言うものも存在しない処か、ローマ帝国ですら無かった


 紀元前と言うのは、そんな時代だ

 因みに当時日本では卑弥呼様がブイブイ言わせていた


 プトレマイオス王朝も、元を辿ればマケドニア、ギリシャ系移民の出自であり、クレオパトラも純粋なエジプト人では無い


 ナイル河沿岸部以外は砂漠に覆われたエジプトは、その輸出入と外貨獲得手段の殆どを海運に頼っていた


 紅海を南下すれば遥かインドまで行ける事は知っていても、エジプトからインドへ冒険に出る様な物好きは誰も居ない


 およそ世界で唯一と言っても良い、天文学と算術に依る正確な時間と暦の概念を発達させたエジプト人は、航海術に於いても抜きん出ていたが、やはり母なるナイルから離れて暮らすと言うのは、彼等には辛かったのである


 それは世界最大の河川、ナイル以南の緑溢れる大地へは進出しようとしなかった歴史を見ても、エジプト人にとってナイルは神聖で特別な存在だったのである


かつては南スーダン、コンゴ共和国迄領土を

拡げたエジプト第19王朝も、ナイル河周辺に留まって居た

リュビア、ヌビア、パレスチナ、メソポタミアを手中に収めた栄華も今は昔である




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