第5話 影の軍団


 バステト様がとんでもない事をさらりと溢した


 ナイル河沿いに文明を築いたエジプトで、水中を進軍可能だと言う事は、誰にも気取られず敵地へ侵入可能だと言う事だ


「やはり頭が良いな、クレオは ♡」

 バステト様が風圧で乱れる私の髪を優しく押さえてくれる


「ありがとう …… 御座います」

 何だか恥ずかしくなって、まともにバステト様の顔を見れない


 すると、バステト様は私の身体を抱き寄せると、またしても口付けをして来た

 えぇ〜っ!?

 何?

 何故キスされてるの私?


 しかもバステト様って女性よね?

 神様だけど ……

 あ、駄目だ … なんだか頭がボーッとする


 たっぷり数分間そのままで、やっと顔を離したバステト様が言う

「驚かせて済まぬ、妾の力は " 信仰心 " に支えられて居るのだが、" 愛と女性と子供 " の守護神たる妾にとってはクレオとこうする事で、更なる力を取り戻す事が叶うのだ」


 何だか尤もらしい言葉を並べてるけど、神様の力の源が信仰心だと言うのは、なんとなく理解出来なくもない


「案ずるな、身体に害は無い。そもそも妾がクレオを害するなど、何故思うのだ ?」

 えっと、そう言うことでは無くて ……


 駄目だ

 何だかバステト様がイケメンに見えて来た


「うむ!身も心も妾に委ねよ、決して悪い様にはせぬゆえな ♡」

「あっ …… ♡」

 バステト様が揺れる船の上で私を押し倒す


「あぁっ、いけませんバステト様 …… ?」

「案ずるな、妾が責任を取る故、力を抜くのだ」

 だけど私は男性経験など無い

 ましてや女性経験も無ければ、神様相手にした事など有りはしない


 夕陽を浴びるナイルの上で、私はバステト様のご寵愛を一身に受ける事になった


 星空に虫たちの声が響く ……

 いつの間にか辺りはすっかり夜だ


 船はブバスティスのバステト神殿入り口に接舷されている


 クレオパトラは身体を起こすと、服を着た


 外で裸のまま寝ていたのかと思うと、急に恥ずかしくなって来る

 河を渡る夜風が汗ばんだ肌に心地良い


 バステト様とニャンドロイドは神殿の中へ入ったのだろうか

 暫く待っていると、誰かが近付いて来る気配がする


 バステト様 ?♡

 思わず声を出しそうに為ったが、何とか堪えて船上の物陰に身を潜める


 複数の足音が近付いて来るが、星明かりに見える人影は男性の物だ

 こんな夜更けに灯りも持たず、神殿に何の用が在ると言うのか

 考えられるのは、盗掘である


 つまり、彼等は盗賊の墓荒らしだ

 見つかったら、どんな目に合うか分らない

 殺されるか、良くて凌辱された上で奴隷として売られてしまうだろう


 冗談では無い

 花の乙女の純潔を盗賊如きに …… いや、もうバステト様に捧げてしまったが

 兎に角、そんな事に為るくらいならば、自ら死を選ぶ

 腰の後ろに隠している小型ナイフを取り出すと、自らの喉元にあてがう


 ナイフの刃先にはコブラから抽出した猛毒が塗られているから、苦しまずに死ねる

 痛いのは最初の一瞬だけだ


「おい見ろよ、船が在るぜ ?」

「誰か先客が居るのかもな」

「構う事ぁ無え、皆殺しにして全部奪うだけだ」


 盗賊共は物音を立てない様に静かに船に乗り込んで来た

 手には短剣を持っている

 弓を構えた者も岸辺で待機している

 荒事に慣れた連中らしい


 私は覚悟を決めざるを得なかった


 志半ばで、こんな所で命を散らすのは不本意だが、正当な王家の血筋を受け継ぐ者として、奴等の手にかかるくらいならば自決を選ぶ


 決意は固い筈なのに、いざ眼の前のナイフを見ると、自然と手が震える

 死を恐れるなんて!


「おい見ろよ、女が居やがるぜ ♪」


 見つかった

 私は目を閉じてナイフを見ない様にして、自分の喉に突き立てようとした


 ところが、近寄った男にあっさりとナイフを奪われてしまう

「あっ!?」


「へへ …… こんな上玉、中々居ねぇぜ ♡ 待ってな、直ぐヒイヒイ言わせてヤルからよ ♪」


 男が帯を解いてズボンを下ろそうとした時、聞いた事も無い乾いた大きな音が響き、男の頭が無くなった


「クレオ!大事無いか!?」

 

 

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