第4話 リンナ
「次の方どうぞ……っと、あら珍しい。 クレイヴじゃない、今日はどうしたの? 」
診察室から出てきた冒険者とすれ違うようにして扉を開けると、モンスターの専門医であるリンナが意外そうな顔で出迎えた。
リンナには以前、依頼で追うことになった厄介なモンスターを仕留めるために医者としての知識を借りたことがあり、それ以来プライベートで出かけるようなことはないが偶然街中で顔を合わせれば軽く世間話をする程度の仲ではある。
「じゅらぁ……」
「その鞄……中身は? 」
「患者だ。 今日はコイツの治療をしてもらいたくてここに来たんだ」
担架代わりにタプーを入れてきた鞄の蓋を開け、リンナに具合を確認してもらう。
「これは……貴方の? 」
「……そうだ。 ここに連れてくるために、さっき契約した」
俺のモンスター嫌いを知るリンナからすれば、俄かに信じ難い状況だろう。
「そう……いろいろと聞きたいところだけれど、とにかく傷が酷いからすぐにこの子の治療に取り掛かりましょう」
「ああ、頼むぜ」
「じゅら……じゅらら……」
「大丈夫よ、あなたの傷を治すだけだから、ね」
放置できない程大き過ぎる傷口にリンナは瓶から取り出した滑り気のある薬を塗り込んでいく。
「そいつは? 」
「セイクリッドツリースライムの分泌液から作った軟膏よ。 私たち人間が使うポーションも一応この子たちに効果はあるのだけれど、同じスライム種から採れるものを材料に作った薬の方がより効果的なの」
「セイクリッドツリースライム……あの頭から木を生やしてるやつか」
「ええ、本当はあの木になる果実を食べさせてあげられたら一番いいんだけど……さすがに、今すぐ手に入れるのは難しいから……」
一通り必要な個所に軟膏を塗り終えると、リンナは机に置いたベルを鳴らし、やってきた看護師にセイクリッドツリースライムの葉を何枚か持ってくるよう頼んだ。
「よし、あとは葉でこの子を包んで安静にしておけば大丈夫よ」
「そうか……助かった、ありがとうリンナ」
「いいえ、忘れてるかもしれないけどこれが私の本職だもの。 あと、二日ほどで傷が塞がると思うけど、念のため数日したら様子を見せに来てちょうだい」
「了解した」
「リンナさん、セイクリッドツリースライムの葉を持ってきました」
「ありがとう。 さあ、それじゃあ巻いてくわよ~」
「じゅら……? 」
「ふふっ。 この子、小さくてかわいいから葉っぱが巻きやすくて助かるわ」
「じゅららぁ……」
一枚一枚が料理を盛り付ける大皿くらいのサイズであるセイクリッドツリーの葉で全身を覆われ、痛みが引いてきたのかタプーは次第に大人しくなり寝息をたてはじめた。
「あら、ふふっ、こうして静かにしてるとなんだか柏餅みたいね」
「カシワモチ? 聞いたことないな」
「私の故郷にあるお菓子なの。 柔らかくて弾力のある生地の中に甘い餡を入れてね、柏という木の葉で包むのよ」
「へえ、うまそうだな」
「でしょ? こっちじゃ売ってないだろうから、今度機会があったらご馳走するわ」
「本当か? 」
「ええもちろん、その時は貴方とこの子の話をもっと聞かせて頂戴ね。 今日は後がつかえているから、残念だけど長話は出来ないし」
「ああ、分かった。 それじゃあ」
「ええ、お大事にね」
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