捨てられ傭兵モンスターを拾ってたら最強軍団になってました
猫鍋まるい
第1話 傭兵モンスター
子供の頃、どうして冒険者は冒険者というのかと父親に聞いたことがあった。
すると父さんは、人々のために危険を冒す……すなわち冒険するから冒険者というんだよと、読み聞かせていた本を置いて布団にくるまる俺に教えてくれた。
人々を襲う恐ろしいモンスターと戦い、叡智を求め危険に満ちた未踏の領域を探索する。
それが冒険者ギルドに所属する冒険者の役目であり、彼らが冒険者と呼ばれる理由なのだ。
「わぁ……! これはまた、凄い量ですね~」
紐で閉じた布袋をカウンターに載せると、顔馴染みのギルド嬢ミーナはそうやって大げさに驚いてみせた。
新人ならともかく、ある程度長いことギルドに所属している冒険者なら彼女らのリアクションが冒険者を喜ばせモチベーションを保つためのものだと理解しているが、お世辞だとしてもそれはそれで嬉しいものだ。
「えっとぉ……今日はどうしましょう~? 」
「現金に換えてくれ」
「全部ですか~? 」
「ああ、全部だ。 よろしく頼む」
「はーいっ、了解しました~」
袋の中には、モンスターを殺した際に討伐の証として持ち帰るモンスターストーンと呼ばれる石が詰められている。
モンスターストーンは指先で摘まめるほど小さなものから岩のように巨大なものまで様々なサイズがあるが、その大小に関わらず魔力が固形化した物質であるためさまざまな場で重宝され安定した市場価格を保っている。
つまりモンスターストーンは俺たち冒険者の主な収入源というわけだ。
「おまたせしました~、こちらが今回の買取価格ですぅ。 クリスタル判定のモンスターストーンがあったのでだいぶいい値がつきましたよ~、よかったですねぇクレイヴさん」
「おおっ、ついてるな」
「それではまたぁ、明日も待ってますよ~」
「おう、また明日な」
石に含まれる魔力の質が高く一定の水準を満たしているモンスターストーンはクリスタルと呼ばれ、同じサイズでも通常のモンスターストーンの数倍、元となったモンスターによっては数十倍の値段が付くお宝だ。
クリスタル判定のモンスターストーンにはここしばらくお目に掛かれていなかったが、今日は思わぬ臨時収入を手にすることが出来た。
「うわっ、なんだこいつ! こら、まとわりつくなってっ」
「じゅらぁ! じゅらじゅらぁ! 」
(ん……? )
今朝よりもずいぶんと量の増した財布の重みに、ホクホク顔で帰路についていると。
冒険者と思しき若者たちが道端でなにやら騒いでいる姿が目に付いた。
「離れろってっ、しっしっ。 ほら、あっち行った」
「じゅらぁ……」
(なんだ、またアイツか)
騒ぎを起こした犯人は、最近よく街中で見かけるようになった小さなスライム種の傭兵モンスターだった。
傭兵モンスターは討伐対象となる狂暴なモンスターと違い、生まれた時から人族に対し友好的で俺たち冒険者の仲間となって共に戦ってくれる心強い存在として知られている。
傭兵モンスターは前述したとおり人間を襲わないので街への出入りも許可されているが、それはあくまで傭兵モンスターと契約を結んだ冒険者がセットの場合だ。
「じゅら! じゅらぁっ! 」
「おい、あんまりしつこいと守衛士を呼んで追っ払ってもらうぞ」
「じゅら!? じゅららぁ……」
ちゃんと確認したわけではないが、見たところあのスライムは冒険者に契約を解除され捨てられてしまった傭兵モンスターのようだ。
元が傭兵モンスターということもあり、多少大目に見られているがあまり問題を起こせばああいう未契約のモンスターは街の治安を維持するのが役目の守衛士に捕まり街から追い出されてしまう。
あのスライムは冒険者との再契約を夢見て、連日道行く冒険者にまとまりついているのだが、毎度ああして追い払われてしまっているのだ。
(まあ、傭兵モンスターを食わせていくのにも金は掛かるし仕方ないよな)
傭兵モンスターも人間と同じように飲み食いはするし寝床もいる、稀に食事を必要としなかったり実体をもたないから場所をとらないモンスターも存在するが、そういったモンスターは数が少ないだけじゃなく強力な存在であることが多いので冒険者から引く手数多の人気者になれる。
あのスライムはこういっちゃなんだが、とても強そうには見えないし体格も小さいので荷物を運んでもらうわけにもいかなさそうだ。
冒険者に捨てられてしまった境遇には少し同情するが、あの様子では再び契約を結んで傭兵モンスターに返り咲くのはなかなか厳しいだろう。
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