第4話かつて、正義の名のもとに

――10年前。


捜査一課、取調室。


タカシは机に拳をつき、目の前の男を見下ろしていた。

男は細身で小柄、30代半ば。児童福祉施設の職員だった。


「君が最後にアヤカ・ミナトちゃんを見たのは、何時だ?」

「21時過ぎには部屋にいました。朝には……いなくなってて」

「鍵は?」

「施錠されてました」

「じゃあ、どうやって外へ?」

「……それは、わかりません」


そのとき、取調室のドアが開いた。

スーツ姿の男――警視正の佐野が入ってくる。


「北原、もういい」

「まだ終わっていません」

「これは“事故”だ。親が迎えに来た。書類も揃っている」


「おかしいでしょ。目撃証言があるんです。女の子が夜中に泣いてたって」

「その証言は不正確と認定された」

「じゃあ、どうして監視カメラの映像が消えてるんだ!」

「――北原、お前は感情で捜査するタイプじゃなかったはずだろう」


佐野の声は冷たく、淡々としていた。

その数日後、タカシは捜査から外され、部署を異動。

半年後には懲戒処分を受け、現場を離れることになる。


きっかけは、不祥事とされた一件の“虚偽報告”――

だがタカシには、それを裏付ける証拠も、弁解の機会も与えられなかった。



現在。


カフェの奥、狭いストックルーム。

ミユは古ぼけたラジオをいじりながら、静かにタカシに尋ねた。


「おじさん、昔は刑事だったんでしょ?」

「……ああ」

「何でやめたの?」

「“辞めさせられた”が正しいな」

「どうして?」

「ある事件のせいだ。……お前と同じくらいの女の子が、ある日いなくなった。俺は信じてた。あの子は、誰かに消されたんだって」


タカシはラジオの音を少しだけ上げた。

「でも、証拠は全て“都合よく”なくなった。調書も、映像も、目撃者も」

「……それって」

「ああ。ミユ、お前の話を聞いたとき、俺はすぐわかった。これは“同じ種類の事件”だって」


ミユは、目を見開いて黙っていた。


そのとき、タカシのポケットの中のガラケーが震えた。

メールが1通だけ届いていた。


「ユウトの死体。口内に“番号札”あり。“08”。お前の推理は当たってる」

――佐野


タカシの目が鋭くなる。

佐野は警視正に昇進していた。いまだ現役、組織の中枢にいる。


「ミユ……お前の“ノート”と、俺の“事件ファイル”。照らし合わせてみよう」


どちらも、“消された子ども”たちの痕跡だった。

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