45話 押し通る
【シアンの視点】
魔導士15人による乱れ無い横一線の法撃により、世界が一変した。
その雷撃と火炎と氷塊の嵐は、真っ暗だった林の中に太陽が落ちたかのような閃光をはなった。
間髪入れずにアンネリースさんの伝想が入る。
『魔殻兵隊! 突貫!!』
前列のアンネリースさん達の魔殻兵10人のゾアライト機関が、
彼女たちは、敵陣に狂った矢のように襲いかかる。そのゾアライト機関の光が、蒸気の中で軌跡を描いた。
マリナさんの伝想が続く。
『後列! 魔核兵隊を援護しろ!! 広域結界を展開する!!』
それを合図に銃火器の炸裂音が、一気に充満した。
同時にマリナさんは滑宙を辞め、小走りにヒールで地面に降りる。
マリナさんは正面に手をかざす。
——【Extended Aegis / Aeron】
(広域結界 / 風術)
マリナさんの広域結界が伸長する。
それはアデルとボクを包み、援護射撃をする後列を包み、林の半分とアンネリースさんたちを覆った。
ボクの横にいたサロメが呟く。
「200mの広域結界が、まさかの1秒で展開……。アンネリース三姉妹だけで無く、隊長のマリナも化け物ね」
しかしボクは、返事ができない。
なぜなら後列の魔導士隊が、ふたたび横一列の法撃を放ったからだ。
空間が歪むような一斉法撃の衝撃波が、ボクを襲う。
ボクの華奢な体は、それだけでふらついた。
アンネリースさんからの戦況報告が、入る。
『神権軍最前線、壊滅! マリナ様。指示を!』
マリナさんは命令する。
『魔殻兵隊は、突貫を続けて! 中段以下は、射撃を続けながら200m上がれ!! アデル伍長は、私の広域結界の先端で広域結界を発動! 予定どおりこのまま神権軍本隊まで食い込む!!』
ボクとマリナさん以外の全員が
マリナさんも広域結界を発動させたまま、早足で歩き始める。
ほうぼうから爆炎が立ち上り続けていた。
それを瞳の奥に写しながら、マリナさんは言う。
「行くわよ。シアン……」
答える。
「は、はい!」
ボクは小走りに彼女に続いた。
———
————
——
【アンネリースの視点】
自分の固有結界の向こう側で、左右に聳えていた丘が徐々に消えていく。
スポットライトの中でミズナラの影がいくつか見えたが、遮蔽物は少ない。
私の後ろの上空で、敵の照明弾がいくつも上がった。
第一魔導士強襲隊の前衛の全員の姿が、闇夜に浮かぶ。
私たちの位置が、敵から完全に見えた。
敵の射線が、先鋒の私に収束する。
私の固有結界が、無数の火花に包まれた。
しかし、私はさらに魔力を燃やし、速力を上げる。小刻みに旋回する。
半身を翻し、2発の爆術弾を避けた。
ラケルが現れて、告げる。
「神権軍中枢まであと2000m。これより敵兵密集しております! 加えて、敵魔殻兵隊級接近中です! 接敵まで34秒!!」
私を狙う敵の射線が、視界の隅々まで覆われつつあった。
やはり神権軍は我々がリュカ様に達する前に、包囲殲滅するつもりだ。
そうはさせない。
私は、部下達に伝想する。
『ネリと私を先頭に狭い二列縦隊!
全員が大きく弧を描きながら、陣形を整える。
私も先頭を維持しながら、自分の位置を調整する。
滑宙の進行方向を変えたことで私の髪が頬をかすめ、唇に触れた。
……唐突に、シアンとの口付けが脳裏をよぎった。
“彼女”の唇の儚さが、胸を締めつける。
彼女の味は、どこまでも甘かった。
しかしその甘い思い出は、シーカ・ラザロの陰に引きちぎられる。
痛みが甘さを、無慈悲に上書きする。
その痛みは、私の心の奥底を貫通し、戦闘の間も片時も消えなかった。
思考の断片が、押し寄せる。
——裁翼衛士シーカ・ラザロとはどういう人物なのか……。
——彼女とシアンはどういう関係なのか……。
——そして何より、私とシアンはどうなるのか……。
それらの欠片は一向にまとまることは無く、ただ私の心をいたずらにかき乱していた。
頭を振って、意識を戦場に戻す。
神権軍の本体に近づくにつれ、ほうぼうに散らばった死体が目に付いていた。
それらは、通常の刃物や兵器ではあり得ないほど直線的に切断されている。
そういう『殺戮』を行える人物を私は知っていた。
——神権軍 大法将 熾天 リュカ・アルシエル……。
彼の『公理の聖剣』は、『死』という現象として戦場に顕現する。その前では、どんな屈強な兵でも無力だった。
そんなリュカ様とシアンがこのあと対峙する……。
その事を想像するだけで、背筋が凍り、絶望すら感じた。
なぜなら……シアンが傷付き、死ぬことだけは想像したく無かったからだった。
敵の魔道砲が火を吹き、私の3m前の草原に大きな穴を抉った。
土煙が爆散する。私は土砂を被った。
しかし、速度を緩めず進み続ける。
土煙を掻い潜った私に、アデルが告げる。
『敵先鋒の
だから私は、悩みや逡巡を断ち切った。
そう。迷っている場合じゃ無い。
なぜなら、私はシアンを愛しているから……。
なぜなら私は、命を賭してでも彼を守ると、決めたから……。
だから私は、叫ぶように全員に伝想した。
『押し通るッ!!』
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