【tUbeRose】番を殺した運命のΩ

わじゅき

プロローグ

プロローグ

 最初、雨が降っているんだと思った。


 荒い息遣いが狭い物置部屋に響いく。酷く喉が乾き、視界が絶えずグラグラと揺れている。

 その雑音が自分の声だと気付いたのは、部屋に唯一ある小窓から月明かりが見えたからだった。


 ……綺麗だな。


 ぼんやりと光を見つめ、震える左手を伸ばす。床を照らしている淡い明かりに触れた。

 感触はない。温度もない……でも少しだけ、温かい気がする。


「よそ見か、余裕だな」


 ズンッ――と強く腰を打ち付けられ、男のペニスが身体の奥深くをこじ開けた。痛みに息を止める。ガクガクと体を震わせ、声にならない叫び声を上げた。

 落ちそうだった意識が一気に現実へ引き戻される。


 外された右肩がズキズキと痛んだ。

 血と、性と、男の匂いが部屋を埋めている。

 床に直接敷かれたシーツの上で、何度も何度も、男のそれが柔く敏感な中を叩きつけ肉を抉った。


「あ"ぁっ!や"め、っ 」

「俺を見ろ」


 大きな手のひらが細い首を締める。簡単に折れてしまいそうな首を、下からゆっくりと包み込んだ。

 獰猛な赤い瞳が、獲物を前にギラギラと熱を孕んでいる。


「……どうした、セヴェーロ。抵抗しねぇと、このまま――殺しちまうぞ」


 粘り気の強い水音が部屋に響く。自身の絶頂を求め男の動きが早くなり、首を握る手に力が入った。呼吸が出来ない口から只々唾液が流れ落ちる。


「ぁ"、な"せ……っ」


 手首を掴むも力が入らない。徐々に視界がぼやけ、意識が遠のいて行く。


「――チッ」


 男は突然舌を打つと、勢いよく自身のモノを引き抜いた。思ってもいなかった動きにビクッと大きく体が跳ねる。急に空になった身体の奥がきゅうっと収縮して甘く震えた。


「ヒッ、あ"っ 」


 白濁とした濃い性液を腹の上に掛けられる。それは胸の辺りまでドロドロと汚していった。

 内側に残る痺れを抑えるように、グッと重い身体を捻る。


 ……に、げないと……逃げないと。


 うつ伏せになり、動かない右手を引き摺りながら男から離れようとした。この暗く冷たい、性液と血の匂いが染みついた部屋から早く出たい。救いを求めて手を伸ばしたのは、先ほどの小さな月明かりだった。

 いつの間にか傾いた月の光は、もうほとんど小窓から入ってきていない。一握りだけ残った明かりは随分と遠い……。


 カチカチとライターを付ける音が後ろから聞こえ、甘いタバコと紙を焼く火の匂いが漂った。

 ふっと煙を吐いたかと思うと、さっきの手が首の上を強く押さえ付ける。


「動くなよ」


 男の息がうなじにかかった。舌が肌の上を滑り、まだ噛んでいない場所を探してゆっくりと歯を立てる。


「あ"ぁッ、やめッ――」


 鋭い犬歯がプツプツと肌に穴をあけた。食いちぎられそうな酷い痛みと恐怖にシーツを強く握りしめる。何度も噛まれた頸と肩には血が滲み、赤黒く色付いていた。


「お前は、俺の物だ」


 赤く染まった口元に笑みが浮かぶ。

 のしかかった男の体躯は重く、動かせない背に絶望が広がる。


 恐怖。怒り。悲しみ。

 俺は貴方にとって、使えない家畜でしか無かった。


「エ……デ、ィ」


 鮮血のように赤い瞳を、セヴェーロの真っ黒な眼差しが睨み返す。


「こ、ろして……やる」


 絞り出した声に、エディは煙草を咥えながら満足そうに笑った。

 硬い手に腰を掴まれる。再び当てがわられた重い欲の肉塊に、呻きながら冷たい床を爪で引っ掻いた。それでもこの身体は捩じ込まれる番の熱を受け入れようと、必死に後孔の中を濡らしている。


「ふっ、う"ぅっ……ッ」


 ゴツゴツと床に打ち付けられる度、耐えられない声を殺そうとシーツを噛んだ。

 前に垂れた首を、エディの手に後ろから握り上げられる。


 闇に覆われた部屋の中で、繰り返される行為に息を止めた。

 ――視線の先から、月明かりはゆっくりと見えなくなって行く。

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