第12話「突然の再会」

「どうして、ここに……。それになんでアタシって……」


リューナは声の主を見つめ、呆然とする。俺も、まさかここで“この人”に再開するだなんて、思ってもみなかった。


「……勿論、あなたに会うためです。それに、いくら変装したからといって、見間違うはずがありません」


声の主は、リューナの目をしっかりと見つめる。そして――


「……あの時は魔獣の脅威から助けていただき、ありがとうございました」


声の主は――


“格好良い中年の男”は、リューナに深々と頭を下げた。その姿は忘れもしない。俺がリューナの右腕として転生した日、魔獣ジャガーノートに襲われていた所を俺達2人で助け出した中年の男。あの時の男が今、俺達の前に再び現れた。


「改めまして、私は商人を営んでおります。ラーゲン・モルセラと申します。あの時、あなたに助けていただいたおかけで、私は今もこうして商人を続けられているのです……」


中年の男改めラーゲンは、丁寧に自己紹介と感謝の言葉を述べる。商人というだけあって、物腰柔らかな人物だ。


「い、いえ!そんな全然!大したことじゃないですし」


リューナは顔の前に左手を出し、照れ臭そうにそう述べる。誰かから感謝の言葉を言われるとは思っていなかったのか、何処か動揺しているような素振りだ。


「いえいえ、謙遜しないでください。このご恩は一生忘れません……。もし、私に出来ることがあればいつでも力をお貸しします」


ラーゲンはそう言い、上品な笑みを浮かべた。


「……なぁ、リューナこの人なら何か知ってそうじゃないか?商人だし」


俺は声を潜め、リューナに耳打ちする。


「……確かに、協力もしてくれるみたいだし」


リューナも同じように声を潜め、そう返す。


「失礼。その右腕に嵌めている人形は一体……」


しかし、その素振りを不審に思ったのか、ラーゲンは素朴な疑問を投げかけてくる。


「あ、えっと……」


まさか突っ込まれるとは思っていなかったのか、リューナは言葉を詰まらせ、目を泳がせる。


「……おいおい、怪しまれない為のこの格好じゃなかったのかよ……」


俺は耳打ちのまま、リューナに突っ込む。


「し、仕方ないじゃん……。タカミチ、何かいい感じに誤魔化して!」


――おいおい、マジか。


あまりに人任せな無茶ぶりを、リューナは俺に押し付ける。何かいい感じと言われてもどうしろというのだ。


「……ハ、ハジメマシテ!使イ魔ノタカミチデス!」


咄嗟に裏声でそう喋る。咄嗟の判断とはいえ、いくら何でも酷すぎる。


「……なるほど、そうでしたか。すみません、変な質問を投げかけてしまって」


がしかし、ラーゲンは一切疑うこと無く、俺の言い分をあっさりと信じた。それ自体は非常にありがたいのだが、仮にも商人である人物が、こうもあっさりと人を信じて大丈夫なのだろうか。余計なお世話と分かりつつも、そんな心配を抱いてしまう。


「い、いえ大丈夫ですよ……。それよりも、ラーゲンさんにお願いがあるんです」


リューナは冷や汗を拭い、俺に目配せする。何を言いたいかは理解している。それについては、後で話せば良いだろう。


「是非、お話をお聞かせください」


そう言い、ラーゲンは柔らかな笑みを浮かべる。


「実は、例の盗賊団について知っていることがあれば教えて欲しいんです」


リューナは真っ直ぐな瞳と言葉で、ラーゲンに向き合う。


「おお、何と……!それならばきっと、あなたのお役に立てると思います!」


ラーゲンは目を丸くし、感激の声を上げる。


「……ッ!?ホントですか?!」


リューナも同じく目を丸くし、声にならない声を上げた。だが、そうなるのも当然だろう。ここに来て遂に、停滞していた状況が動き出したのだ。


「はい。実はあの日、あなたに出会う前です。私は偶然にも奴らのアジトを見つけたのです……。奴らは何かを運んでいる様子でした。恐らくは、各地で盗んだ金品や資源だと思われます……。息を潜めながら奴らの動向を観察していたのですが、その際に偶然襲いかかって来たジャガーノートに襲われ、その後は先程の通りです」


ラーゲンは、事の経緯を説明した。まさか、あの時近くに盗賊団のアジトがあったとは。その際は知らなかったとはいえ、なんという偶然だろうか。


「そうだったんですね……。それで、アジトはどこにあるんですか……?」


「はい。その場所は――」


※※※※※


「ねぇ、タカミチ。さっきは咄嗟に無茶言ってごめんね」


ラーゼンに教えられた盗賊団のアジトへと向かう為、俺達は再び空を飛び移動している。その道中、空の真上でリューナは不意に謝罪の言葉を述べた。


「まあ、結果何とかなったし無問題ってことで。てか、やっとパペット脱げたー!」


ここは都市を離れた空の上。変装の必要の無くなった俺は、パペットを脱ぎ漸く素手の状態に戻れた。視界が見えにくいのもそうだが、何よりも中はかなり蒸れた。故に、こうして久方振りに当たる外の風は、ヒンヤリと涼しく気持ちが良い。


「……それにしても、こんな偶然ってあるんだね。ホントびっくり」

 

リューナは肩を竦めながら、そう呟く。確かに、棚からぼたもち的な偶然だ。だが同時に、それは起こるべくして起こった必然では無いのかと思うのだ。


「……確かに偶然かもしれない。けど、それを引き寄せたのは間違いなくリューナの優しさだよ」


彼女の優しさが、真の意味での強さが、偶然と言う名の奇跡を必然に変えたのだ。俺はそう信じている。


「ふふっ……。流石に言い過ぎだって。でも、ありがと。そう言ってくれるの、嬉しい」


リューナは小さく笑いながら、答える。彼女も今は変装を解き、艶やかな銀髪と真紅の瞳が露わになっている。変装した時の黒髪姿もアレはアレで良かったが、やはり俺はこの銀色の髪が好きだ。


そう思いながら、俺は日の光に照らされるリューナの銀髪を眺めていた。


「……そう言えば、何でラーゲンさんはアジトの場所を衛兵に伝えなかったんだろう?」


不意に、リューナがそんな疑問を投げかけて来た。確かに、言われてみれば何故彼は真っ先にアジトの場所を衛兵に伝えなかったのだろうか。


「それは……。なんでだろうな?」


だが、結局考えたところで分からない話だ。そう思い、俺は思考を放棄した。


「……前から思ってたけど、タカミチって案外バカだよね……?」


そんな俺を、リューナは冷めた目で見つめた。

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