第12話 生徒会室にて
夏の罰ゲームが決まった日の放課後、俺は悩み事をしていた。
実に、実に実に悩ましいことだ。
「うーん…」
「どしたの怜奈ー?」
爆睡をかましていた張本人が話しかけてきた。
「悩み事よ」
「そりゃ見たら分かるよ」
ですよね。
頬杖ついて唸り声を上げてたら分かりますよね。
「何を悩んでるのか聞いてるんじゃん」
「このあと生徒会室をチラ見しに行こうか行かないかで迷ってるの。ほら、生徒会って堅苦しそうじゃない?気軽に立ち寄って良いのかなぁって疑問でね」
「あー、そゆことね。けど良いんじゃない?会長優しいし問題ないと思うよ?それにこの前『いつでも入会大歓迎』みたいなこと言ってたし。人手足りてないみたいよ」
「ヒトデ?」
「人手!海にいる方じゃないから!」
「あはは、分かってるわよ。じゃあ行ってみようかしら、生徒会室」
「うん!考えるより行ってみたほうが色々分かると思うし、迷ってるくらいなら行くべきだと思うね」
「そうね、そうよね。珍しくさくらがマトモな事言ってた気がするわ。ありがと」
「一言余計なんですよ怜奈さん。じゃ、あたくしはお先に帰らせてもらいますわよ〜。オホホホ」
「また明日ー」
手のひらを扇子に見立てて顔を扇ぐさくらとは教室でバイバイし、俺は支度を終わらせてから遅れて教室を出た。
ちなみに美香と凛華は用事があるみたいで、放課後になった瞬間速攻で帰宅してしまった。
だから俺は今1人。最近はみんなとずっと一緒にいたから少し新鮮な気分だ。
と言っても、寂しいということではなく、かといって満足感もない、何とも形容し難い複雑な気分だ。
ま、何だって良いさ。俺には生徒会室に向かうという重大な任務があるのだから!
「さてさて、どこかしら〜?」
俺は生徒手帳にある校内図と睨めっこし、生徒会室の場所を特定する。
そのままそこを目指して校内を歩き、数分後、何事もなく生徒会室の前に着いた。
「ここが……」
流石私立高校と言うべきか、やたらと重厚感のある扉である。
濃い茶色の両開き木製扉なのだが、凝った装飾が彫られていて、でもって分厚いのが伝わってくる豪華な扉だ。開けた時の擬音はゴゴゴゴだろう。
更に、防音性能もバッチリなのか、中から音も聞こえてこない。
誰もいないだけかもしれないけど…。
まあ、なんだ。臆せずとりあえず入ってみよう!
覚悟を決め、俺は扉をノックしながら声をかけてみる。
「一年の東雲です。誰かいますかー?」
しかし、返答はない。
「あのー、誰もいないですかー?いなかったら返事してくださーい」
やはり、返答はない。
「おい!誰かいるかって聞いてんだよぉぉ!!」
勿論返答はない。
「……。困ったなぁ」
やっぱり誰もいないのかもしれない。
じゃあ無駄足だったってこと!?
けど、誰もいないなら勝手に入るわけにも行かないからなぁ。うん、日を改めて来ることにしよう。
俺は虚しい気持ちで生徒会室から去ろうと踵を返した。
その時、曲がり角から1人の人間が現れた。
「あ」
「あ」
生物室の妖精、
「な、何で先輩がここに!?」
「君こそ!おちびちゃんが生徒会室に何の要件だ?」
「え、もしかして…」
この反応、もしや…?
「もしかして、先輩って生徒会に所属してたりします?」
「うむ」
「え!!生物部じゃなかったんですか?」
「生物部にも入っているが?兼部のようなものさ。忙しいけれども」
「そ、そうだったんですね…」
この人、変人なことを除けば結構すごい人なのかもな。部活と生徒会の両立とか、俺には絶対できそうにない。入るなら生徒会だけだ。
少しこの人のことを見直したぜ。
でもって、これは都合がいい。
先輩が生徒会役員なら一緒に生徒会室に入れるだろう。やったぜ!
「で、君は何の用なんだ、おちびちゃん?」
「東雲です。私は生徒会に入りたくて話を聞きにきたというか、見学をしにきたというか、とにかくそんな感じです」
「ほほう、君が生徒会にねぇ…」
西園寺先輩は俺の全身を舐め回すように上から下までジロジロ見た後、「ふん」と鼻を鳴らして生徒会室の扉に手を掛けた。
「いいだろう。入りたまえ」
「え、今の何だったんですか?」
「ん?何の意味もないぞ」
「えぇ…」
俺怖いよ!!やっぱこの人異常だよ!!
という俺の心の叫びには気づかず、西園寺先輩は扉を開けて生徒会室に入室した。
中は校長室のような豪華な造りになっている。
灰色のカーペットが敷き詰められた部屋の奥には大きな机が入り口の方を向いて1つ置いてあり、その手前に細長い机が向かい合うように2つ並んでいる。
あれだ。会社の部長デスクと部下デスクのような並びだ。T字になっているあれだ。
そして部屋の横にあるガラス張りの棚には賞状やらトロフィーやらが飾られていて、マジで校長室にしか見えない。
これで歴代生徒会長の顔写真でも貼られていたらもう校長室だ。
…いや、校長室にはこんなに机が並んでないか。
って、そんなことはどうでもいい。
もっと重要なことがあるじゃないか!
「西園寺先輩、あの人は?」
いるじゃん!人が!!
1番奥の大きな机、多分生徒会長の席なのだろうが、その席で机に突っ伏して寝ている人がいた。
「生徒会長だぞ」
「その人が…」
ですよねー。まあ、そんな気がしてました。
けど、あれだけ何度も声をかけたのに起きなかったとは凄まじい睡眠没入度だ。もしくは扉の防音性能がやっぱりエグいのか。
なんにせよ、生徒会長がこの場にいるというのは好都合だ。色々と説明してくれるだろう。
そう思っていると、西園寺先輩は会長の方にトコトコ歩いて行った。
それを見つつ、俺も「お邪魔しまーす」と小さく言いながら入室した。
ちょっと良い香りがする。
「会長。会長。かいちょー!!」
「はっ!?耳元で叫ばないでくれミヤっち!」
西園寺先輩に無理やり起こされた会長は相当眠いのか、俺と目があっても何度も両目をパチクリするだけでピンときていない様子だ。
ここは自分から挨拶しよう。
「どうも初めまして。一年生の東雲怜奈です。今日は生徒会のことを色々と聞きたくて来たんですけど、丁度西園寺先輩と会って…」
「んー?」
むむ。これは未だに眠くてピンときてないな?
と、思ったら…
「……ああ!!なるほどね!!」
突然理解してくれた。
良かった良かった。
「どーもどーも。見学?それとも説明を聞きにきただけかな?」
「どちらでも。生徒会のことが分かれば何でも大丈夫です」
「そっかそっか!じゃあ生徒会に入ってくれることについては前向きなのかな?」
「はい」
「OKOK!そりゃありがたいね。まあ、くつろいじゃって!そこに荷物は置いてくれて良いからさ」
「ありがとうごさいます」
言われた通りに長テーブルに荷物を置き、そのまま椅子に座る。
すると、会長は席を立って俺の対面の席に移動してくれた。
「では改めて。ボクは生徒会長の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます