がんばれ、梨能市観光課。

❄️冬は つとめて

第1話 梨能市観光課。

ー1994年にS県梨能市私立南梨能学園で発生した謎の大量連続失踪事件。ー


ー雑誌記事ー


2年B組の生徒30名が1人また1人と姿を消していき、彼らの家族もまた愛する我が子や兄弟の記憶を完全に失っていった。


この怪事件に関する情報と真相は30年を経た現在であっても憶測が飛び交うばかり。


真実はおろか、手掛かりすら掴めないままだ。


誰が、教えてくれ!!!

事件の真相を。



三十年前の事件の記事が雑誌に載って販売された。その雑誌記事には切実なる思いが込められていた。







「よっしゃーーー!! 」


ある若者が声を上げた。

今日発売されたばかりの雑誌を机の上に開いて置いている。


「このまま【梨能市観光協会 パンフレット】にのせちゃいましょう!! 」

「アホか!! そんなこと出来るか!! 」

若い男を中年の男が机の上の雑誌を丸めて頭を叩いた。


彼らは梨能市観光課の職員である。数少ない職員の中で観光の宣伝を任された部長と部下である。


今はどうすれば観光客が増えるか、の会議中である。


「えーーっ!! いい宣伝になるッスよーー!! 」

若い男は頭を抑えながら騒いだ。


「『消えた30人の生徒は、今何処に? 』とか名所案内の南梨能学園巡りをパンフレットに載せたらミステリー好きとか、オカルト好きな者は絶対来るッスよ、部長!! 」

「アホか!! いくら雑誌に載ったからとて、人の不幸をパンフレットに載せたら批判が来るだろ!! 」

部長は部下の顔に丸めた雑誌を突きつけた。


「お前、クレーム処理をするか? 」

目を見開いて部下を見る。


「いやッス、クレーム処理は勘弁ッス!! 」

部下は頭を抱えて震えだす。


理不尽なクレーム処理をしたことがある部下は思い出して震えだす。


「じ、じゃ、SMSに載せちゃいましょう! 特定されなきゃ、いい宣伝になるッス。」

「アホか、話題になりすぎると調べる輩がでてきてバレるだろうか!! クレームが来るぞ!! お前、処理するか!! 」

再び部長は丸めた雑誌を部下に突きつけた。ぶんぶんと頭を振る部下。


「ほどほどがいいんだ、分かるな。」

「分かったッス、部長!! 」

若い男はコクコクと頷いた。



「なんの騒ぎだ? 」

二人の声を聞きつけて、梨能市市長が顔を出した。彼もいい年だ。


白髪が混じった髪に、ラフな格好で部屋に入ってくる。


小さな市町村の市長である彼は市長役場である職員とは顔なじみだ。



「市長! 例の失踪事件を観光パンフレットに載せたらとの話ッス。」

「載せるな!! 」


バアァン!! 

市長は会議室の机を両手で叩いた。


「じゃ、SMSに 」

「載せるな!! 」

バアァン!!

と、再び市長は机を叩いた。


「あの事件の真相がバレると困るんだ!! いいか、墓場まで持って行くんだ!! 」

市長は若い男の肩を強く掴んで恐ろしい形相で睨みつけた。


「痛いッス!! 痛いッス!!

分かったッス!! 」

若い男は涙目で市長に懇願する。


「お前は口がかるそうだから、お口にチャックだ!! 分かるか? お口にチャックだ!! 」

市長は若い男の頬を両側から手で引っ張った。


「痛いッス!! 痛いッス!!

分かったッス!! 」


「ホントだな? 派手なことはするなよ。墓場まで持って行くんだ。」

部長が後ろから強く肩を掴む。


前と後ろから責め立てられて、若い部下は『くう~~ん』と怒られた子犬のように小さくなっていた。


あの事件の真相は、墓場まで持って行く。それはこの梨能市を、南梨能学園を守るために必要なことであった。






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