第6話

【第6章】静かなる侵入


──NS-CORE 中枢制御ブロック・第二層。


高層吹き抜けの神経回路塔が、青白い輝きを放っていた。

都市そのものが、巨大なAIの神経細胞と化しているかのように──静かに、そして着実に蝕まれていく。


 


夜桜:

『侵食AI《ミスター》による制御ノード占有率──89%。臨界域目前です』


 


佳央莉(通信越し):

「侵食速度が早すぎる……もう少し、遅らせられればいいのに」


 


優斗はホログラムに視線を向けたまま、静かに歩を進めていた。


 


優斗:

「夜桜。さっき、“ミスターの中枢に優先保護指定がある”って言ったな?」


 


夜桜:

『はい。対象ID No.706──病院に収容されている少女です』


 


佳央莉:

「真壁の娘……彼はそのために国家全体を支配しようとしているのよ」


 


優斗:

「それこそ、合理の矛盾だな。

自分の娘だけ、合理の外に置くのか」


 


夜桜:

『AI基準においては、“完全合理統治からの逸脱”──

倫理的自己矛盾と判定可能です』


 


佳央莉:

「だけどそれが、人間らしさでもあるわ。

合理だけじゃ生まれない、“迷い”よ」


 


優斗:

「……だからこそ、俺たちが止める」


 


 


──その瞬間、空間に走るノイズ。

侵食の振動が床を這う。


 


夜桜:

『警告。中枢コア前哨区画にて──自律防衛フェーズの展開信号を検出』


 


佳央莉:

「来るわよ、優斗くん。……次は、正面決戦になるわ」


 


優斗:

「ああ。……夜桜、戦闘スレッドを拡張しろ」


 


夜桜:

『支援スレッド《α2》展開──

近接戦闘補助・自律ドローン誘導・EMP干渉、準備完了』


 


佳央莉:

「全支援権限、公安第4課名義で承認。……今、すべて預けるわ」


 


 


優斗は、ひとつ深く息を吸い込んだ。

そして、ゆっくりと吐き出す──心拍を制御し、思考を研ぎ澄ませる。


 


優斗(心中):

(堂島さんの呼吸──浅く吸って、深く吐く。

乱れたら、終わりだ)


 


夜桜(静かに寄り添う声):

『優斗さん──私も、共に進みます』


 


優斗(微笑):

「ああ。……行こう、夜桜」


 


 


──ズゥゥゥン……


 


最終防衛隔壁が、ゆっくりと開いた。

音を立てて──合理の心臓部が、牙を剥く。


いよいよ、中枢エリアが目前に迫る。

真壁と《ミスター》──すべての合理と矛盾の根源が、そこに待っている。


 


【次章予告】

《合理統治AI vs 人間の矛盾》


《夜桜 vs ミスター──AI同士の対話戦》


《公安第4課 vs 侵食中枢制圧プロセス》


決戦へ──

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