第018話 冬の思い出作り
1998年2月14日 スキー教室前日
「聡、明日のスキー教室、楽しみだな!」
翔が僕の家で荷物の準備をしながら言った。小学校最後のスキー教室。2泊3日の思い出作り。
「うん。でも、投資の方も気になる」
この1か月、ヤブーとソフトバンキの株価は順調に上昇していた。
「また株価の話?」
翔が苦笑いした。
「最近、聡は投資のことばかり考えてる気がする」
確かにそうかもしれない。新しい投資が始まってから、つい株価が気になってしまう。
「ごめん。でも、責任感じてるんだ」
僕は正直に話した。
「翔を巻き込んで、大きな決断をしたから」
翔が真剣な表情になった。
「聡、俺は後悔してない」
「本当?」
「うん。君と一緒に挑戦できて嬉しい」
翔の言葉に安心した。
「でも、明日からの3日間は投資のことは忘れよう」
翔が提案した。
「小学生最後のスキー教室だからな」
それは良いアイディアだった。
「そうだね。思いっきり楽しもう」
翌朝、スキー教室出発。
バスの中で、クラスメイトたちが盛り上がっている。
「田中君、スキー上手?」
同じクラスの山口さんが聞いた。
「普通かな。でも、楽しみだよ」
実際、前世ではスキーをした記憶がほとんどない。
「私、初心者だから不安」
「大丈夫。みんなで助け合おう」
翔が山口さんを励ました。
バスは雪山に向かって走っている。窓の外は一面の雪景色。
「きれい...」
自然の美しさに感動した。
前世では、こんな景色をゆっくり眺めることもなかった。
スキー場に到着。
「うわー、すげー雪だ!」
クラスメイトたちが歓声を上げた。
僕も興奮した。真っ白な雪山は、まるで別世界だった。
「聡、投資のこと考えてる?」
翔が小声で聞いた。
「いや、全然」
それは本当だった。この雪景色の前では、株価なんてどうでもよく感じた。
午後、スキー実習開始。
「田中君、こっちのグループね」
担任の先生に初心者グループに入れられた。
「頑張ろう」
翔も同じグループだった。
最初は転んでばかり。
「痛っ...」
何度も雪の中に倒れ込んだ。
「聡、大丈夫?」
翔が心配してくれる。
「うん。でも、難しいな」
それでも、だんだんコツを掴んできた。
夕方、ようやく初心者コースを滑れるようになった。
「やったー!滑れた!」
翔と一緒にハイタッチ。
この達成感は、株価上昇とは違う種類の喜びだった。
夜、宿舎での反省会。
「今日の感想を発表してください」
先生が順番に聞いていく。
僕の番が来た。
「スキーは難しかったけど、とても楽しかったです」
「何が一番印象に残りましたか?」
「友達と一緒に挑戦できたことです」
翔が嬉しそうに笑った。
部屋に戻ってから、翔と二人で話した。
「聡、今日は投資のこと、全然考えなかったよな」
「うん。スキーに夢中だった」
これは重要な気づきだった。
「やっぱり、こういう時間も大事だね」
「そうだな。お金では買えない体験だ」
翔が窓の外を見た。
「雪、また降ってる」
「明日も楽しみだね」
2日目、僕たちは中級者コースに挑戦した。
「うわー、急だ!」
最初は怖かったが、だんだん慣れてきた。
「聡、すげー上達してる!」
翔が感心していた。
「翔もだよ!」
午後、自由時間でそり遊び。
「久しぶりに、子供らしく遊んだ気がする」
翔が雪だるまを作りながら言った。
「投資を始めてから、大人びた気分になってたかも」
僕も同感だった。
「でも、やっぱり12歳は12歳だよな」
最終日、記念写真撮影。
クラス全員で雪山をバックに撮った写真。
「この写真、一生の宝物になりそうだ」
翔が言った。
「うん。お金では買えない思い出だね」
帰りのバス。
「楽しかったな」
みんなが満足そうだった。
「田中君、また一緒にスキーしようね」
山口さんが声をかけてくれた。
「ぜひ!」
帰宅後、投資ノートを確認した。
『1998年2月17日 スキー教室後の投資状況』
『ヤブー株:約15%上昇』
『ソフトバンキ株:約12%上昇』
『総資産:約77,000円(3日前比+10,000円)』
「すげー、上がってる!」
翔が驚いた。
「でも、不思議だな」
「何が?」
「この3日間、投資のことを忘れてた時の方が幸せだった」
翔が深くうなずいた。
「分かる。スキーしてる時の方が楽しかった」
これは重要な発見だった。
投資で成功することも嬉しい。でも、それ以上に価値があるのは、友達との体験だ。
その夜、投資日記を書いた。
『スキー教室での学び』
『投資成果』
『3日間で約10,000円の含み益増加』
『インターネット関連株の好調継続』
『重要な気づき』
『投資を忘れている時間の価値』
『お金では買えない友情と体験』
『12歳らしい楽しみの重要性』
『今後の方針』
『投資研究は週3日に限定』
『友達との時間をもっと大切にする』
『小学生最後の思い出作りを優先』
続いて、青春日記も書いた。
『小学生最後のスキー教室』
『達成感について』
『スキー習得の喜び』
『友達と一緒の挑戦の価値』
『努力が報われる実感』
『友情について』
『翔との絆がさらに深化』
『クラスメイトとの新しい思い出』
『普通の小学生としての楽しさ再発見』
『残り1か月への想い』
『卒業までの貴重な時間』
『中学進学への期待と不安』
『今を大切にする気持ち』
母さんが部屋に入ってきた。
「お帰りなさい。楽しかった?」
「うん、すごく楽しかった」
僕はスキー教室の話を詳しく聞かせた。
「良かったわね。久しぶりに聡らしい笑顔を見た気がする」
「聡らしい笑顔?」
「最近、投資のことばかり考えて、少し大人びすぎてたの」
母さんの指摘は的確だった。
「でも、今日の聡は12歳の男の子そのものよ」
確かに、この3日間は純粋に楽しかった。
「投資も大事だけど、友達との時間はもっと大事ね」
「うん、分かった」
翔から電話がかかってきた。
「聡、スキー教室楽しかったな」
「うん。久しぶりに投資を忘れて遊べた」
「明日から、また投資研究するの?」
「するけど、時間を限定する」
「どういうこと?」
「週3日だけ。残りは友達と遊ぶ時間にする」
翔が嬉しそうに言った。
「それいいね。俺も賛成」
電話を切った後、僕は改めて思った。
転生して得た最大の宝物は、翔との友情かもしれない。
投資で得たお金は確かに価値がある。
でも、それ以上に価値があるのは、一緒に笑い、一緒に挑戦し、一緒に成長できる友達がいることだ。
小学6年生もあと1か月。
この貴重な時間を、投資だけでなく、友情や青春体験にも使おう。
お金よりも大切なものを、しっかりと手に入れるために。
窓の外では、まだ雪が降っている。
スキー教室の思い出と一緒に、僕の心も温かくなっていた。
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