第11話 蒲郡の影、そして新たな刺客

 金賀一の仕掛けたネガティブキャンペーンが功を奏し、署長は追い詰められていた。しかし、署長もただではやられない。彼は、自身の最後の切り札として、裏社会の古参である**蒲郡がまごおり**に接触した。蒲郡は、かつて黒岩とも深い関係にあったとされる、裏社会の闇を知り尽くした男だ。

 署長は蒲郡に、金賀一の排除を依頼した。見返りは、署長が長年培ってきた裏社会とのコネクションと、多額の裏金だ。蒲郡は、金賀一が持つ裏帳簿の存在を知り、それが自身の組織にとっても危険なものとなることを察知していた。

「署長さんよ、金賀一を始末するのは骨が折れるぜ。あいつはただの守銭奴じゃねぇ、妙な勘が働くタチだからな」

 蒲郡は、署長の依頼を快諾したものの、金賀一の探偵としての能力を警戒していた。彼は、直接的な手出しではなく、金賀一を精神的に追い詰めるための狡猾な罠を仕掛けることを画策した。


 過去の亡霊

 ある夜、金賀一の事務所に、差出人不明の小包が届いた。中には、古ぼけた写真が一枚と、一枚の紙切れが入っていた。写真には、若き日の金賀一と、彼の探偵としての師匠、そして、黒岩竜二が写っていた。そして、紙切れには、たった一言、「お前の過去は、お前を蝕む」と記されていた。

 金賀一は、写真を見て息をのんだ。写真の隅には、うっすらとだが、蒲郡の姿も写っていたのだ。これは、蒲郡からのメッセージ。彼の過去、そして師匠の死の真相を掘り返すことで、金賀一の心を揺さぶろうという魂胆だった。金賀一の師匠は、数年前に不審な死を遂げていた。警察は事故として処理したが、金賀一はどこか納得がいかない部分があったのだ。


 金賀一の決意

 金賀一は、蒲郡の罠に気づいた。彼は、自分の過去に囚われることなく、この戦いを乗り越えなければならないと強く思った。師匠の死の真相は、いつか必ず暴く。しかし、今は署長の不正を暴き、この街の闇を打ち破ることに集中するべきだ。

「鮫島さん、蒲郡が動き出しました。俺の過去を弄んで、俺を潰そうとしている」

 金賀一は、小包の中身を鮫島に見せた。鮫島は、写真に写る蒲郡の顔を見て、表情を硬くした。

「蒲郡だと…奴は、黒岩とも深いつながりがあったはずだ。署長と蒲郡が組んだとなると、厄介なことになるぞ」

 しかし、金賀一の目は、すでに未来を見据えていた。

「ええ、だからこそ、やる意味がある。黒岩が命を懸けて託したこの金塊と裏帳簿は、この街の闇を打ち破るための希望だ。俺は、どんな手を使われても、この戦いをやり遂げる」

 金賀一は、金塊を手に取り、その重みを改めて感じた。蒲郡という新たな刺客の出現は、彼の戦いをさらに困難なものにしたが、同時に彼の決意をより一層固いものにした。署長と蒲郡が手を組んだ今、金賀一は、自身の命と、この街の未来を賭けた、壮絶な最終決戦へと挑むことを決意した。

 果たして、金賀一は、過去の亡霊と、蒲郡の巧妙な罠を乗り越え、この街の闇に終止符を打つことができるのだろうか?


 💀橘慎一郎

 橘 慎一郎:その生涯と探偵業への影響

 金賀一の探偵としての形成に決定的な影響を与えた人物、橘 慎一郎は、単なる師弟関係を超えた、金賀一の倫理的指針となる存在であった。


 警視庁捜査一課時代の功績

 橘 慎一郎は、かつて警視庁捜査一課において傑出した刑事としての評価を確立していた。彼の捜査手法は、微細な証拠も見逃さない類まれなる洞察力と、徹底した情報収集能力に裏打ちされており、これにより数々の難事件を解決へと導いてきた。その実績は彼を組織のエースたらしめ、周囲からの厚い信頼を獲得していた。

 しかしながら、組織内部に蔓延る不正や、権力構造に起因する腐敗が彼の正義感と相容れず、橘は警察官としての職務を辞任する決断を下した。退職後、彼は自身の長年の経験と知識を社会に還元すべく、私立探偵として新たな道を歩み始めた。


 探偵としての哲学と金賀一への指導

 橘の探偵としての活動は、華美な宣伝を伴うものではなかったが、その根底には揺るぎない正義感と、社会の弱者を保護しようとする強い意志が存在した。彼は人を見抜く才能に恵まれており、若き日の金賀一が抱える金銭への執着心の奥底に、真実を追求する純粋な探究心を見出した。橘は金賀一を弟子として迎え入れ、探偵としての技術のみならず、「真実の徹底した追求」の重要性、そして**「金銭的利益が探偵業の唯一の目的ではない」**という、職業倫理を懇切丁寧に教授した。橘の教えは、金賀一の金銭に対する価値観に、わずかながらも変容をもたらす契機となったのである。金賀一にとって橘は、単なる指導者に留まらず、精神的な支柱であり、彼の行動規範を形成する上で不可欠な存在であった。


 不審な死とその影響

 橘 慎一郎は、数年前、不審な状況下で死去した。警察当局はこれを事故として処理したが、金賀一は公式発表に対し一貫して疑念を抱き続けていた。彼の死の背景には、橘が当時追跡していた特定の事件、あるいは彼が暴こうとしていたより深層の「闇」が関与している可能性を金賀一は排除していなかった。

 黒岩竜二の遺書、そして署長の不正を追及する過程において、金賀一は橘の死の真相が、この街に深く根ざした「闇」と密接に結びついている可能性を強く感じている。金賀一の過去に潜む「亡霊」とは、他ならぬ師・橘慎一郎の不審な死、そしてその背後に隠された未解明の真実を指す。金賀一は、師の無念を晴らすためにも、この街の闇の全貌を解明することを固く決意している。

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