第5話
「そろそろ魔王様からの命令を話すな」
全員が朝食を食べ終わり、少しゆっくりとしたところで、俺は口を開いた。
「あっ、そういえば魔王様の命令を伝えに来たって言ってたね」
……忘れてたのか、フーラ。
それでもリナよりはマシだな。
魔王のことを呼び捨てにしようとしないし、とんでもない失言を口にしようともしてこないしな。
「魔王様はなんて?」
「勇者のところに行って、その街と勇者を滅ぼしてこいだってさ」
「……四天王最強だったあいつに勝った勇者を、私たちだけで……?」
「一応使役してある魔物だったり、俺たちより下っ端の魔族だったりは使ってもいいだろうけど、概ねそうだな」
勇者やその勇者の仲間たち相手にそんな奴らがいくら居たって同じだろうからな。
一応、街を滅ぼせという命令もあるわけだし、勇者を殺すということ以外には役に立ちそうだけど……あ、そうか。
そんな気はなかったけど、魔物、連れて行くか? 適当に魔物達を勇者がいるという街に放って……あー、いや、ダメだな。
魔物たちに知性なんてものは無いし、街に誘導しようにも1人はそれを指揮する者が必要になってしまう。
俺たちがそれをやろうものなら、勇者に勘付かれてしまいそうだし、だからといって俺たち以外の魔族を呼んで魔物達を指揮させたとしても、その間に俺たちは逃げようとしてるわけだから、その魔族と一緒に居ることは出来ない。
……その間何をしてるんだって話だよな。
どう考えても、裏切りがバレる時間が早くなるだけだわ。
俺たちより下っ端の魔族とはいえ、何でも盲目的に従ってくれる訳じゃないし。
……魔王の命令だったら、盲目的に従うくせにな。
まぁ、それは当たり前なんだけどさ。
俺たちだってそんな下っ端魔族に比べまれば強いけど、魔王と比べたら、な。
「まぁでも、俺たちなら大丈夫だろ」
どこに目や耳があるか分からないから、俺はわざとらしくそう言った。
「ほ、ほんと!? あ、あたしたち、勝てるの!?」
……名演技、なんだよな?
「わ、私たち、死なない? ほんと? 勝てる?」
……信じてるからな?
昨日の話をもう忘れたわけでは無いもんな?
リナに関してはさっきその件に関しての失言をしかけてたんだから、そんなわけないもんな?
こいつらの正直な思いを聞くためにリナに固有魔法を使って欲しいところだが、昨日とは違って今このタイミングは流石に怪しまれるから、そこから俺は「玄関で待ってるから、準備をしたら早く来いよ」とだけ伝えて、玄関に向かって歩き出した。
そんな俺の様子を見たリナとフーラは2人で頷いて、慌てて各々の部屋に戻り、準備を始めているようだった。
……幸先から不安だ。
ただ、それと同時に、あの2人を見てると、何となく大丈夫なんじゃないかと思えてくるのも確かだ。
「……ま、なるようになるよな」
俺もあの2人のように、今だけは気楽でいよう。
気を張りすぎていても、いい事なんて無いしな。
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