ふっ、だが奴は四天王の中でも最強……え? これからどうすんの?

シャルねる

第1話

 魔王が世界を滅ぼすために動き、勇者がそれを止めるために動いている。

 そんなありきたりな世界の中で、3人の魔族たちが集まり、密会を開いていた。



​───────​───────​───────



「ブラッドが死んだらしいな」


「ふっ、だが奴は我ら四天王の中でも最強……最、強……」


 こんな状況なのに、何故か格好つけた2人のお馬鹿ちゃんを俺は静かに見守ってから、口を開いた。


「君ら、状況わかってる? もっと真面目に考えようね? 本当にやばいから。今の状況」


 俺の言葉に黙り込むお馬鹿ちゃん2人。


「で、でもさ、正直あの人、怖かったし、むしろ清々するっていうか?」


 1人のお馬鹿ちゃん……緑色の髪を綺麗にツインテールに縛っていて、俺よりも身長が頭1個半分くらい小さい、左目が黒色で右目が赤色の女の子……こんなのでも四天王の仲間であるフーラが明らかに強がっている感じで俺から目を逸らしながらそう言ってくる。


「う、うん! 確かに、そうかも! 怖い人もいなくなったんだし、今日からはフランが四天王最強ってことにしちゃえば!?」


 そんな言葉にもう1人のお馬鹿ちゃん……肩に掛かるような長い緑色の髪をしていて、俺よりも頭1個半分くらい小さい右目が黒色で左目が赤色の女の子……こんなのでも四天王の仲間であるリナも双子の姉妹であるフーラ同様明らかに強がっている感じで俺から目を逸らしながら、そう言ってきた。


 ……俺は思わず出そうになったため息を必死に我慢した。

 俺が四天王最強ってことにしちゃえば? だと? そんなの、無理に決まってるだろう。

 そもそも、実力的に俺は四天王の中で最弱だし、それ以前に​──


「もう四天王じゃないだろ。1人死んだんだから」


「あっ」


「!」


 俺の言葉に今気がついたとばかりに目を見開く2人。

 ……頭が痛い。

 ブラッドが死んでさえなければ、この密会だって開かれてなんて無かったんだから、当たり前のことだろうが。


「後な? 確かにブラッドは怖かった。それは俺も分かる」


「で、でしょ!?」


「な、なら、いいじゃん! 後は私たちで頑張ろうよ!」


「でもな。ブラッドは俺たち四天王の中でも最強だったんだよ。俺たち3人が束になっても敵わないと思ってしまうくらいには、最強だったんだよ。そんな奴が勇者に為す術もなく殺されたんだぞ? ……確実に俺たちのことも襲ってくるであろう勇者に俺たちはどうやって対応するんだよ」


 黙り込んでしまう2人。

 ……そもそも、今日この密会を開いた理由が今後のことについてだったんだが……こいつら、本当にことの重要性を理解してなかったのかよ。

 本当に先が不安だ。

 こんな状況じゃなければ、デコピンを食らわせてやっているところだ。


「……せめて、ブラッドが致命傷を負わせられただけで、生きてさえいればな」


 俺たちだって四天王になってるくらいなんだから、弱いわけではない。

 内2人は頭が弱いみたいだが、実力は問題無い。

 だからこそ、4人がかりでなら、どうにかなったかもしれない。……ただ、もう無意味な想定か。


「ど、ど、ど、どうしよう!?」


「わ、私たち、まだ死にたくないよ!?」


 俺に泣きついてくるお馬鹿ちゃん2人。

 ……本当にこいつらは俺よりも強いんだろうか? という疑問が湧いて出てきてしまうが、それに関してはもう嫌という程分からされているから、何も言わない。

 別に俺が直接的に分からされた訳じゃなく……ただ、こいつらとは何度も一緒に仕事をした仲だからな。


「俺もだ。俺も死にたくなんてない。だから、考えてるんだろう」


「そ、そっか。な、何かいい案は浮かんだ?!」


 ……もう俺1人で考えた方が有意義な時間を過ごせたんじゃないのかな。


「まだだ。だから、一緒に考えような」


「う、うん、頑張る!」


「わ、私も! 死にたくないもん!」


 2人ともそれぞれの髪の毛を揺らしながら、元気よく頷いてくる。

 ……お馬鹿ちゃんなだけで、こういうところは素直なんだよな。……お馬鹿ちゃんだけど。


「あっ! あれとかはどう?」


「なんだ?」


「魔王様を裏切って逃げるの!」


「確かに! 勇者の狙いは魔王様だし、そうしたら私たちは死なないで済むよ!」


 ……そんな大声で魔王様を裏切る、なんて話をするなよ。

 ……いや、ここなら誰の目も耳もないし問題は無いんだけどさ。リナの固有魔法も発動してるし。


 それで、魔王様を裏切る、だったか。

 そんなこと、出来るわけ…………案外ありかもしれないな。

 いや、まずそもそもの話をするのなら、俺たちは別に魔王様の人柄に惚れ込んで従っている……なんて訳では全く無く、ただ強いから従っているのであって、その魔王様……いや、魔王よりも強いかもしれない存在が出てきたんだ。

 ……ありかもしれない。

 別にこれは俺たちが冷たい訳じゃなく、魔族なんてこんなものだ。

 魔王本人と俺たちの仲が良かったのなら、話は変わっていたんだろうが……別に俺たち、あの魔王と仲なんて全く良くないしな。悪い訳でもないけど。

 どっちかというと、仲が良かったのはブラッドの方だし。

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