五大組織 編
第12話 アイロキア
アモス島ではアモンの即位日が決まり遂に彼は
島内全域で
神皇に即位したアモンが最初に行ったのは島内各地の巡察だった。半年という月日をかけて国内の様々な地域を訪れ各種、整備の
役職人事は全て魔導士や魔法士達に任せている為に彼は巡察の行程で様々な地域の民達から聞いた諸問題に取りかかった。
内務を担当する魔導士や彼らに協力する
そうして内政面が落ち着き、様々な社会基盤もある程度、整った頃を見計らってアイロキア皇国として各国に外交使節団を送りたい旨の書簡を送った。ソレは国家ではないタルタロス島の有力者達にも送られた・・・
※
別名〝闇の島〟とも呼ばれるタルタロス島は実質的に五つの
現在でも
船で東に三日ほど行った場所にある別名〝魔の島〟と呼ばれるアモス島が国家宣言を行ったのである。しかも、島内の一部の種族が国を興した訳ではなく、島全体が統一意思の下に独立してしまった。これはタルタロス島の各組織にとって青天の
「・・・アモス島が国とやらになっちまった訳だが・・・お前さん達の処にも送られて来たんだろ。コイツがよ」
と、円卓に並ぶ四人の男達の前に壮年の男が一通の手紙を放り投げた。全員がチラリとそれを見やる。
「どうやら五つの組織、全てに送られて来ている様だな。
「コイツを運んで来たのは郵便か?」
「いや、ウチは
「オレの処もそうだ。アッチ側と繋がってる事は間違いないだろう」
「不思議な事じゃない。数十年前まで組合を仕切ってたのはマーリンだ。この島を出て行ったと思ったらアモス島に渡って今じゃあの国の要人。ちゃっかり
「でぇ・・・どうするよ?」
「どうするとは?」
「とぼけるんじゃねぇよマルセロ。どう対処するのか聞いてるんだ」
「どうするも、こうするも、こっちが何かしなきゃいけねぇ事なんて何もないだろう。手紙の内容は
「・・・この島を侵略する気だったらどうする?」
一同の視線が発言者であるローラン・フェディーニに集まった。一瞬の静寂の後、
「国王・・・じゃなかった。
「向こうが何かを仕掛けて来ない限り放っておくしかないだろう」
「仕掛けて来た時はどうする?」
「その時は戦うしかあるまい」
今度は交戦を唱えた発言者であるタイガ・ハナビシを皆が見た。
「おいおい、ちょっと待てハナビシよ。
「では、黙ってやられろと言うのか?ガンビーノ」
両者の視線が空中でぶつかる。タイガ・ハナビシとロドリゴ・ガンビーノの組織はタルタロス島の北西と南西で
「それはそうとフェディーニ。お前さん、いつも護衛として同行させていたレザリオを連れて来てないみたいだがどうしてだ?」
「・・・今回の議題と何の関係がある」
ジロリと今度はローラン・フェディーニがイーヴォ・アルデーニを見やる。数年前まで、こちらも
「おいおい、そう
「アイツには他の仕事をやらせてる。他人の組織の事に首を突っ込んで来るんじゃねぇ」
「判った、判った。もう言わねーよ」
両手を挙げてアルデーニが降参の姿勢を見せた。今回、彼らが会議をしている場所はタルタロス島の中心にあるコロセウム近くにあるホテルだった。この場所は何処の組織にも所属しない
過去にこの地を狙って組織同士の間で血みどろの争いが繰り広げられ、余りにも多くの血が流れた末に何処の組織も疲弊し、最終的に五つの組織の間で不可侵の約定が結ばれた。島の中心である四方50キロ圏内は何処の組織にも所属しない取り決めが交わされていた。
「オレは戦争はしねーよ。やっても勝てる見込みはねぇしな」
「マルセロ、相手が仕掛けて来ても、とっとと白旗を挙げるって事か?」
「その時は向こうの条件次第だな。全面戦争する事だけが戦いって訳じゃあない」
アルデーニに答えたマルセロの発言の中身は他の者達にも理解できた。国家の軍隊に対して正面切って戦うのは只の自殺行為だ。上手く立ち回れば自身の組織を維持したまま何事も無く事を勧める事は出来る。例え相手国の傘下に
「それに、だ、もし戦争するとしても、こちらの組織同士で纏まって事にあたるなんて事が本気で出来ると思ってる奴はまさかいないよな?」
全員が押し黙った。全員で一致団結して国と対峙する等という事が出来る間柄ではない。
「マルセロ、では何の為に今日、
タイガ・ハナビシに鋭い視線を向けられたジョニー・マルセロは薄い笑みを浮かべた。
「まぁ、なんだ・・・お前さん達の
場に集まった四人の視線がマルセロに集中する。
「間違ってもオレの
念を押す様にジョニー・マルセロはそれだけを告げた。
※
タルタロス島の中心に存在するコロセウム、その直下にある地下深くの祭儀場。そこでは今、祭壇と思われる台座に炎が灯り、その下には何者かが座る為の立派な玉座が設置されていた。周囲にはドーリア式
広場の中央には魔法陣が描かれ周囲にはこの島に在住する数多くの
彼らは組織ではない。月々、金を払ってお互いを助け合う組合だ。だからこの地に本部を置いても問題はない。と、各組織と交渉したのだ。最初は全ての組織が反対した。『組合と言いつつ
彼らはソレを盾に交渉してコロセウムの地下に本部を置く事を全ての組織に了承させたのだった。そうして、この場所に本部が置かれて既に数十年もの歳月が流れていた。当時、
この日、この場所に来ている
「ようこそおいで下さいましたッ!我らが盟主たるマーリン様、そして我らが主、アモン神皇陛下ッ!」
「皆の者、出迎えご苦労。
この時、顔をあげた
「滅相も御座いません。我らの方こそ至らぬ処があろうかと思いますが、全ての力を持って仕えさせて頂きます。何かご入用の際には何なりとお申し付け下さいませ」
「ダミアン、部屋の用意は出来ているか?」
アモンの背後に控えていた宰相となったマーリンの声に
「はい。お越し頂きました四名の皆さまのお部屋は既に用意して御座います。直ぐにでもご案内させて頂きます」
「では、頼む」
「はッ!シモーヌ、オリヴァ」
ダミアンの後ろから彼の横に二名の男女が膝を付いたまま進み出た。
「この者達は明日からのご案内にも就かせて頂く予定で御座います。まだまだ未熟者
「そうか、シモーヌとオリヴァだったな。明日からの事、よろしく頼む」
アモンから直接、声を掛けられ二人は「はっ!」と返事をすると再び
彼ら一行を出迎える式典が速やかに終わり、アモンは貴賓室へ、供の者達も隣室の部屋に案内された後、ダミアンの私室にマーリンが訪れた。
彼を案内したオリヴァが下がって扉を閉めるとダミアンは両手を広げてマーリンを出迎えた。
「ようこそおいでくださいました。マーリン様。本日、アモン様に
「いや、出迎えご苦労だった。
ダミアンが真面目な顔で頷いた。マーリンに応接用の長椅子を勧めて彼が着席すると同時にノックが鳴ってシモーヌが紅茶と菓子を
「すまんな。シモーヌ」
「いえ、とんでも御座いません。御世話役に任じられた事、光栄に思っております」
と、彼女は若干、高揚した話し方で答えた。二人に給仕を終えると頭を下げて部屋を退出した。
「あの娘・・・オリヴァという男もそうだが、いつ頃、
「そうですね・・・共にニ年ほど前になります。シモーヌは大陸で親が商売に行き詰った挙句に破産して一家離散となり、この島に流れ着いたそうです。オリヴァの方は孤児院で育ったそうですが、幾つかの国々を放浪しながら日銭を稼ぐ毎日を送っていたそうです。島に来た後、二人共に同じ時期に
「最近は
「ふぅむ・・・」
「・・・何かご不審な点でも?」
「いや、国を追われた訳でもないのに自らこの島へ流れて来たのが気になってな。島外から流れつく連中というのは多かれ少なかれ
マーリンが自嘲気味な笑みを浮かべた。
「あの者達の行動を調べますか?」
「何かトラブルを起こしたり怪しい動きをしていない限りは放っておけ。ふと疑問に思っただけだ。気にするな」
「ところでマーリン様、三年前、儀式を行っている最中に私は何者かの巨大な〝波動〟を感じ取る事が出来ました。その瞬間にアモン様が誕生されたのだと、今日、お会いして実感いたしました。お渡しする品は必ずやアモン様の今後にお役に立てるはずと信じております」
そう言うとダミアンは立ち上がり執務机の後ろの壁の一部に手を触れた。すると小さな魔法陣が浮かび上がり壁が横に滑った。隠し扉だったのである。扉の後ろは部屋になっており、中に入ると直ぐに彼は大切そうに両手の上に箱を乗せて戻って来た。それをマーリンの前に置く。
「5000入っております。コレで1ユニット。ご要望とあらば、まだ数は増やせますが?」
「そうだな。後、2000ばかり追加で頼む」
「お任せください。補助で、もう1ユニット制作させて頂きます」
「明日の予定ですが、どうされますか?」
「アモン様の希望でガリア地区を見て見たいという事だ」
「ガリア地区・・・ローラン・フェディーノの縄張りですね」
ダミアンの表情が引き締まった。暗殺未遂事件に関しては直後にマーリンがダミアンにも知らせていた。彼は
そもそも、事件の情報を何処からか得た
「・・・今度こそアモン様を始末しようと手を出して来るのではありませんか?」
ダミアンが真剣な表情で彼らの行動を
「そうなったら、そうなったで構わん。こちらは、ようやく準備も整ったのでな」
「判りました。その時には目に物を見せてくれましょう」
ダミアンの瞳にも
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