第9話 〝王〟を狩る (その1)
現在、アモス島は建国に向けて活況を呈していた。〝国を
様々な地域で様々な事業が盛んに進められているが、最も活気づいているのは首都となる島の中央にある街ヴェルガであった。
しかし、そうした者達の多くが
現在、街の中心部にはコロセウムが建設中だった。様々な
建設後には、この国の〝
「どうだった?」
「駄目です。一通り北と西地区の宿屋や宿泊施設も周りましたが誰も来ていません」
しばらくすると、もう一人も帰還した。
「どうやら、お前も手ぶらの様だな」
「はい、来てません。もう、随分、経つというのに・・・」
彼らがこの街に来て既に六日が過ぎていた。二日おきに宿を変えながら自分達、以外の2チームを待ち続けていたのである。
「我々がこの島に到着した日数も含めれば既に十日だ。〝
「2チーム共ですか?この仕事に選ばれた程の連中です。それが全滅とは・・・」
「ならば何故、来ない?我々がこの島に到着した時、既に
「では、どうするんですか?」
「どうするか、か?我らだけでこなすしかあるまいよ」
「
「逆にお前らに聞きたい。『無理でした』と、帰還して言い訳をした処で無事に済むとでも思うのか?我らの仕事に後退はない。特に今回はそうだ。ルセリア王国からは既に相当の金が前金として
「・・・・・・」
「判りました」
※
「良く来てくれた。テオ」
「何、アンタに呼ばれちゃ嫌とは言えまいよ。ギルガメスからもアモン様の剣の完成には、まだまだ
「そうか、そちらはゆっくりと仕上げてくれれば良い。先に造ってもらっていた
マーリンが気さくに話しかけたテオとは本名をテオドールという
彼らは
「で、見てほしい品は
「これだ」
建築途中の城の一階にある作りかけの客間のテーブルの上に二つの懐中時計が置かれていた。
「どれ、しかしお前さんがワシを呼ぶとは只の懐中時計ではあるまい?」
「うむ。これは、この島にとある方法で侵入して来た
「判った、少し待て。今、ココで調べる」
そう言うやテオは懐から
「コイツの表面は只の懐中時計だが、裏の
「精霊力だと?しかし、
「精霊力と言ったがこいつは恐らく特定の精霊力を感知する様に仕組まれているのだろう。この仕組みはソレに反応する様に最初から造られたのだ」
「・・・・・・」
魔導士マーリンは考え込んだ。(特定の何かを探し出す目的で侵入者達はこれを持っていた。特定の何か・・・)その事が心の中で引っ掛かるのだ。
侵入者達の目的を考える。『恐らく工作目的で侵入した訳ではない』と、元は同じ組織に所属していたヴィーゴが話していた。何故なら建国途中のこの国で何かを工作する意味がないからだ。だとするとテロを起こす意味もない。そんな事をしても島から脱出する事は難しいし、現在、何処かの国と戦争状態に入っている訳でもない。残るのは暗殺くらいだ。何者かがこの国の建国を阻止する為に要人の暗殺を目論んだという事になる。この島の要人と言うと自分を含めた
〝精霊力を持つ特定の何か〟(そうだ・・・アレしかないではないかッ!ルセリア王国め、
「テオ、ありがとう。私は直ぐに動かねばならなくなった。礼は後でする。すまんがこれで失礼する。おっと、そうだッ!ところでその探知機は私でも
「いや、レンズにお前の位置を表示できる様にしなければドレだけの距離がこの光点と離れているのかまでは判らんだろうな」
「そうか、色々とありがとう。では、また」
言うやマーリンは扉を荒らしく開けて出て行ってしまった。閉じる事さへ忘れている。残されたテオはフッと一息つくと立ち上がった。
「やれやれ。何に気が付いたのか判らぬが、あ奴があれほど慌てるとは余程の事に違いあるまい。
それだけを呟くと彼は自身の道具を仕舞い始めた。
城の出入り口に立つ衛兵にアモンの行先を訊ねると思った通り「判りません」と、いう答えが返って来た。
「やはりか、これは手分けして探す他ないな。それはそうとアモン様は
「剣ですか?最近、お持ちになっている剣なら手にして出て行かれました」
アモンは出かける時に行き先を
「仕方がない、一人だけ連絡係を残して待機している衛兵、全てに声を掛けてアモン様を探すのだ。事は緊急を要する。私も心当たりのある場所を探すが随時、城には戻って来る。もし、見つけたら報告をするのだ。頼んだぞ」
それだけを指示してマーリンは〝
※
その頃、
「探知機を見る限り目と鼻の先まで来ているはずだ。今日は取り合えず姿を確認出来れば良しとする」
レザリオがそう言いながら手の中にある懐中時計式の探知機を見ていると自身を示す白い
「見に行くか」
彼らは後方の
レザリオは違和感を覚えた。彼らは皆、笑顔だったが、それだけではなく種族問わずに表情が
自分達が住む島ではその様な者達は薬物に溺れているか狂信的に何かを信じ込んでいるかのどちらかだった。特に種族問わずに、と、いう処に違和感があった。
種族が違えば当然、主義、文化、信条、好み、が違う物だ。特に性的な興奮などは特殊性癖の持ち主でも無ければ覚える事もない。又、その様な性癖の持ち主だと判明すれば下手をすると種族や部族の恥だとして処分されてしまう可能性さへある。
人だかりから離れて歩き出した後も皆はうっとりとした視線で、やはり、種族問わず男女問わずに去り行く姿を目線が追いかけていた。レザリオは違和感を抱えたまま、ある程度の距離を開けて後を追って歩き始めた。
「左の腰に下げていたのが恐らく
「その通りでしたね・・・種族が違うのに
「さすがに気づいたか」
「はい。オレも気づきました」
もう一人の
「何か変なクスリでもやらされているのかとも考えたが、誰も彼もとなるとさすがに不可能だ。先の連中を見れば多かれ少なかれ、あの男の前では、この島の者達はあんな症状になるのかも知れんな」
「ギーク、リーノ。今日はこのまま何処に向かうのかを確かめる。隙があれば仕事に掛かるが事を急ぎ過ぎるなよ。あくまでも今日の目的は確認だ」
「はい」
「判ってます」
アモンは建設途中のコロセウムから離れると北に向かって歩き続けてやがて街を出た。そのまま小高い丘を登って行くと頂上付近でふいに振り返った。この場所は街が一望できる場所だった。穏やかな表情でしばらく眺めていたが、やがて気が済んだのか今度は丘を降りて街の右の地区に進んで行った。当然、三人は付かず離れずの距離をつけて来ていたのだが、街を離れて人通りが少なくなった辺りからはレザリオの魔法で透明化していたので物音を立てない限り気づかれる心配は無かった。降りて来るアモンを道の両側に別れて息を潜めて見送ると彼らはホッと息を吐いた。
「なんだ?どう見ても自然体なのに妙な
「あぁ、お前もか。レザリオさんはどうでした?」
「・・・一筋縄でも行かないかも知れんな」
レザリオの表情は
今まで様々な裏の仕事をこなして来た彼はどんな種族や強敵に対してもこの様な感想を抱いた事などなかった。それが小さな不安として彼の心に
「行くぞ」
彼らのリーダーである自分が不安を
結局、アモンを手分けして探していたマーリン達は城に帰って来た彼を出迎える事で胸を撫で下ろした。彼からすると島内の者達がアモンを傷つける事など出来ないという確は持っていたがタルタロス島の者達については判断が難しかった。
タルタロス島にはマーリン自身も長年、住んでいたのだが、あの島で
「アモン様、どうか賊の討伐が終わるまでは城の中でご
マーリンからアモンの行動を制約する様な事を話したのはこれが初めてであった。しかし―——
「面白いな。
「・・・・・・」
「城に引き篭っている事は好かん。それに事が片付くまでは
「・・・心得ました」
マーリンは
アモンが話した事が
アモンの身辺警護と命令を直接受け取る『
「火は使えんし寒くない事が唯一の救いか」
既に陽は落ちており、レザリオの言葉に「はい」「えぇ」という短い返事と共に部下二人が頷いた。
彼らが今いる場所は街の宿屋ではない。既に引き払って先にアモンが訪れた街の北方にある丘の近くで野宿していた。街中で
「明日、仕掛ける。仕事が終わると同時に速やかに撤収する」
部下であるギークとリーノの両名の顔に緊張が
「状況に応じて臨機応変さも必要になるが、お前達にやってもらう事は僅かな足止めだ。一分・・・そう。一分の足止めを任せる。作戦は―——」
彼らが暗殺計画を練っている頃、マーリンは一人の人物を城に呼びよせていた。
「お話があるという事で参上しました。マーリン様」
城内にあるマーリンの私室に現れたのは十日前まで監視任務に
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