第13話 迎えに行く影
——迎えに行く。
その言葉が、頭の奥で何度も反響していた。
差出人不明の手紙。筆跡は、間違いなくお母さんのもの。
「次は私が迎えに行く」
それは単なるメッセージじゃない。生きている証拠。
私は息を整え、スマホを握りしめた。
放課後、学校近くのカフェ。
一真、柚月、成瀬さんと集まった。
「……本当に、お母さんから?」
一真が問いかける。
「……うん。筆跡も、言葉の癖も、全部そう」
私は震える声で答える。
柚月は腕を組み、真剣な表情。
「でも、どうやって? いままで一度も連絡なかったのに、急に?」
「そこなんだよ」
成瀬さんがテーブルに肘をつき、小さく息を吐く。
「颯太の行動がおかしい。昨日から大学の後輩たちにも連絡取ってるけど、何をしてるか分からないらしい」
「……颯太が動いてる?」
私は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「このままじゃ、まずい。私、今夜お母さんに会いに行く」
「……俺も行く」
一真が即答した。
「一真……」
「お前、これ以上一人で背負うな。ずっと見てきたけど、もう無理してんの分かってるから」
胸が、ぎゅっと締めつけられた。
夜。部屋の中。
「……行くの?」
颯太がリビングのソファからこちらを見ていた。
「どこに?」
私は平静を装って答える。
「駅前の時計塔……お母さんに会いに行くんだろ?」
心臓が止まりそうになった。
「……なんで、それを……」
「美羽。君はまだ、分かってないんだ」
颯太はゆっくり立ち上がり、笑顔のまま近づいてきた。
「お母さんは、君を守れる存在じゃない。僕だけが、君を守れるんだ」
「やめて……」
「ねえ、信じてよ。ずっと、そばにいるのは僕だっただろ?」
「やめて!」
私は玄関に走り、靴を履いた。
「待って、行かないで!」
颯太の叫ぶ声が背中に突き刺さった。
駅前。
時計塔の下で、私は待っていた。
スマホが震えた。非通知。
「……もしもし?」
『美羽……』
「お母さん?」
『……近くにいる。でも、颯太も……近づいてる……』
「……どうして今まで、連絡くれなかったの?」
『……ごめん、ごめんね。あなたを守るため……』
途切れ途切れの声。その奥に、かすかな嗚咽が混じる。
「お母さん、どこにいるの?」
『……もう少しで——』
そのとき、スマホを取り上げられた。
振り向くと、颯太が立っていた。
「……どうして?」
「どうしてって、そんなの……」
颯太は笑っていた。
「君を守りたかったからに決まってるじゃないか」
「離れて!」
私は叫び、一歩下がった。
「美羽!」
駆け寄る足音。
一真が飛び込んできて、私の腕を掴んだ。
「大丈夫か!?」
「一真……」
「お前、何考えてんだよ、ひとりで来るとか……!」
「ごめん……でも、お母さんが——」
「知ってる。全部知ってる。でもな、ひとりで抱え込むな!」
その後ろで、柚月と成瀬さんが駆けつけてきた。
「間に合った!」
「無事か、美羽ちゃん?」
「……どうして……どうして皆……」
「お前が黙ってても、分かるわけ!」
柚月が涙目で叫んだ。
「一人で戦うなよ……!」
颯太がゆっくりと笑った。
「へえ……ずいぶん、賑やかだね」
「颯太!」
成瀬さんが前に出た。
「……やめよう。美羽ちゃんをこれ以上巻き込むな」
「……成瀬くん。君がそこにいるのは、ちょっと意外だったな」
「……どういう意味だ」
「僕はね、ただ、家族を守りたかっただけなんだよ」
颯太の笑顔が、ゆっくりと歪む。
「だけど、家族って、簡単に裏切るよね。お母さんも、お父さんも……そして——」
彼の目が、美羽をまっすぐ射抜く。
「——君も、裏切るの?」
「……颯太……」
「やめろ、颯太!」
一真が前に出た。
「もうやめろ……美羽を解放してやれ!」
そのとき、背後の影が動いた。
「……お母さん……?」
振り返った瞬間、遠くの街灯の下に、人影が立っていた。
女の人。
ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「……お母さん?」
足が震える。
本当に、そこにいるの?
それとも、これは罠?
一真がそっと私の肩を抱く。
「行こう、美羽」
私は小さく頷いた。
颯太は、その場に立ち尽くしていた。
「……やめてくれ」
呟きのような声。
「僕を、置いて行かないで」
私は涙を流しながら、振り返った。
「ごめんね、颯太。でも、私——」
「もう、前に進むから」
街灯の下、女の人が立っていた。
その瞳が、私をまっすぐ見つめていた。
——お母さん。
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