世界に“リュカ・フォーマット”が導入された
今朝、外部広報部の人が、妙にぴしっとしたスーツ姿で支部にやってきた。
普段、広報部の人は「親しみやすさ」とか「柔らかさ」とかを全身からにじませてくるタイプが多いんだけど、今日の人は違った。
背筋が折れそうなくらいまっすぐで、ファイルの束は分厚く、髪の分け目も完璧だった。歩くテンプレートみたいな人だった。
「これは……たぶん、お堅い話だな」と直感が囁いたので、私も背中を10%くらいしゃんとさせてみた。気持ちだけ真面目モード。
どうやら「リュカ式勤務指針」なるものが、最近になってこの国の行政機関や軍部、教育機関の一部に採用され始めているらしい。
……すごい。
一国家が、私を参考にしている。
ついにここまで来てしまったか。これはもう、事実上この国の王と言っても過言ではない。
あまりにもスケールが大きすぎて、一瞬「誰かの冗談かな?」と脳が処理を放棄しかけたけれど、広報の人の表情は真顔だった。しかも資料の紙質が、明らかに“本気出してる”系。角もぴしっと揃っていた。信頼は紙の角に宿る。
「リュカさんの行動ログをもとに、マニュアルを作ったんですよ」
「へぇ、それ便利そうですね」
「……反応、軽っ!」
私としては結構な衝撃だったんだけど、相手が期待してたのはたぶん、もっとこう「えっ、私の行動が!? えぇぇ!?」みたいな、華やかなリアクションだったらしい。
ごめんなさい、そういうのはケイ担当なんです。私は日常の中でじわじわ感動するタイプです。
⸻
あとから詳しく聞いた話によると、私の行動は「世界規模で再現性が高く、かつ無害」という最高評価だったらしい。
たとえば──
・出勤ルート:人通りと安全性のバランスが絶妙で、ついでに花の咲き具合も良好
・日報の構成:余白多め、文章短め、要点スパッと。読む側にやさしい
・昼寝のタイミング:職場内の疲労分散に貢献。“局地的時間最適化”という謎の専門用語が出ていた
・挨拶の頻度と質:程よくフレンドリーで、相手の心理安定に作用する(らしい)
つまり、私は意識せずに世界に優しい働き方をしていたわけだ。溢れる才能を隠しきれない私、最高。
「……お前の行動が、マニュアルに?」
ケイが隣の机からぬっと顔を出してきて、書類の山の隙間から私を見つめていた。
表情は真顔だったけど、目の奥がちょっと泣きそうだった。感動しちゃったのかな、やっぱり。
「よかったですね。大好きな私の行動を、ついに真似できるんですよ」
「しない。断じて真似などしない」
「照れてる……」
「照れてない」
とてもわかりにくいけど、たぶん本当に照れてる。すごく冷たい目で睨まれたけど。いつもツンデレ気味だし、わかりにくい褒め方しかしない人なので、私はそれを好意として受け取ることにしている。自衛。
広報部の人には「いずれ特別講演とかお願いするかもです!」って言われたけど、前に勇者学校で講演した時は結構疲れたから、遠慮したい。
⸻
そういえば、支部長がぼそっと言っていた。
「公式文書のテンプレートが、“リュカフォーマット”に統一されるらしいぞ」
なるほど。
最近、報告書のレイアウトが妙に見覚えあると思ったら、あれ私の“白くてスカスカなやつ”だったか。効率重視の賜物なんだけど、他の人にはちょっとスカスカすぎるらしい。
その報告を聞いた瞬間、ケイが「うぐっ……」と呻いて、手に持っていたペンを握りつぶしかけていた。
「ってことは……俺、あれに合わせないといけないのか……?」
彼のペンがプルプルと震えていたので、そっと予備のペンを差し出しておいた。
ペンは大事。備品を守れる人材、それが真の社会人である。
⸻
今日の昼は、外回りの人に頼まれて、五人分の書類をまとめて処理した。
「すごいですね、早い!」って言われたけど、それよりもお弁当の卵焼きがふわふわで絶品だったことのほうが嬉しかった。
しっかり甘くて、ちゃんと出汁が効いてるやつ。口に入れた瞬間、疲れが少しだけ溶けていく気がした。
これぞ、手作りパワー。自己評価だけは高く持ちたい。
午後、倉庫のほこりを払っていたら、「異界の宝珠」とでっかく書かれた球体がコロコロと転がってきた。
名前の主張が強すぎて、反射的に道をあけてしまった。どうぞどうぞ、って気分になったのは生まれて初めてだ。
一応それっぽい棚に戻しておいたけど、あれは誰のものなんだろう。
あとで総務に報告しておこう……とは思っている。たぶん。きっと。おそらく。まあ忘れる気がする。
⸻
ということで、今日もだいたい平和。
明日もケイのメンタルと、ペンの命を守りつつ、いつもどおりのルートで出勤しようと思う。
世界が認めた再現性のある優秀な人材として。
あと、卵焼き。やっぱりまた作ろう。
今度はちょっと醤油を足して、甘じょっぱいやつに挑戦してみようかな。
魔王にも分けてあげるか。最中に続くお気に入りになってくれるといいんだけど。
ーーーー
次回は7月1日20:00更新予定
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます