第56話 香奈のご両親と話す(中)

「事実か……もし良かったらもう少し詳しく教えてくれないか?」

「そうだね。私も星斗君さえ良ければ、もうちょっと聞きたいかな……変わった理由とか心境の変化をね……」


 和樹さんと夏美さんはそう言った。


 確かに香奈は俺が昔とは変わったという事は話したらしいけど、その詳細までは話していないとの事。

 俺がどうして荒れていた理由だったり、変わった理由だったりな……


 勿論このことは聞かれると思っていたし、俺は元々香奈のご両親に隠す気はない。


「そうですね……それについては俺も話さないといけないと思ってました。ちょっと長くなるかも知れませんけど大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だ」

「もちろんよ」

「それではまず俺の過去についてなんですけど……」



 俺はそれから俺の過去を全て話した。

 話した内容は香奈に話した事と大体同じ。

 家族の事、変わらないとと思った理由、今後はどうしていきたいかを……初対面で全てを理解してもらうのは難しいだろうけどさ……


 そして二人は俺の話を黙って聞いていた。

 と言っても、今回は無表情とは行かなかったみたいだ。

 俺に親が居ない事とか、頼れる人が居なかったと聞いたときの二人は、凄く驚いていた。夏美さんに関してはちょっと泣きそうにもなっていた気がした。

 

 そんな中、俺は再び話し続ける。


「それでも香奈さんと出会ってからは、本当に自分でも驚くほど幸せを感じたんです……前までは感じた事すらなかった暖かさを感じて、香奈さんの笑顔を見ると俺も笑顔になれるんです……中学生までの俺がしていた事は決して良い事ではない事も自覚はしています……」


 自分が行った過去ではないけど、俺の事で間違いはない。

 それを背負って生きて行こうと決断はしたけど、やっぱりどこかで不安を抱えていたのかもしれない。

 過去の事はきっと大丈夫……そう自分に言い聞かせていただけなのかもしれない。


 それを証拠に、実際に香奈のご両親に話していると、不安が込みあがって来ていた。

 認めてもらえるんだろうかと……もし認めて貰えなかったら俺はどうすればいいのだろうか……

 自分の声がちょっと震えているのが分かる。油断してしまったらきっと涙が出ちゃうほど。

 

 俺自身がここまで弱気になるとは思っていなかった。

 予め考えていたセリフなんてもうどこかに行っている。


 香奈への想いはさっきも何回言ったけど、まだ言えていない事もある。

 いま全て自分の想いを伝えないと……


「そんな男に香奈さんを任せたくはない……お二人がそう思われるのも当然です……自分勝手かも知れませんが、それでも俺は……それでも俺は香奈さんを幸せに……香奈さんと幸せになりたいんです……」


 俺はそんな事を、その場で思っていた事を伝えた。

 本来だったらこんな感情任せで話さないで、もっと冷静に考えて話す予定だった。

 この一週間ずっと考えていて、嘘や誇張はなしでどう上手に伝えようかとか全てまとめていて、その通りに話す予定だった。

 でも出来なかった。自分でもびっくりするくらいそんな余裕はなかった。


 隣で香奈がすすりなく声が聞こえる。

 そんな香奈に釣られてか、俺は下を向きながら数滴涙が出ていた。

 泣くつもりなんてこれっぽっちもなかったのにな…… 


 そしてそんな俺を見てか、香奈は俺の手をぎゅっと握って来た。


 そして一分くらい無言が続いた後、和樹さんが言った。

 

「そうだな。本当だったらそう言った噂のある人に香奈を任せるのは本意ではない。いや、本意ではなかったと言うべきかな……でもそれは話を聞いていてそれは変わったよ」


 そう言う和樹さんの表情は先ほどよりも穏やかだった。

 それに続き、夏美さんも言う。


「そんな過去が……ずっと一人で辛かったんだね……」


 夏美さんは少し悲しそうだった。


「ふ、二人とも……それはどういう……」


 ずっと黙っていた香奈は、それを聞いて鼻をすすりながらそう尋ねた。


「香奈や美玖ちゃん達が凄く信用しているみたいだから、大丈夫だとは思いつつも、最初はやっぱり心配な気持ちもあったんだよね。でも星斗君の話を聞いていたら大丈夫だなって思ったんだよ。とてもじゃないけど嘘を言ってるようにも思えなかったし、なにより本当に香奈の事を好きでいてくれてるんだなって思ったからね……そうだよねお父さん?」


 夏美さんはそう和樹さんに尋ねる。


「まぁ、そうだな。まだ星斗君がどんな子なのか分かり切った訳ではないけどな……でも話してみた感じ、凄く良い子だなとは思ったよ」

「そ、それじゃあ……」

「うん。これからも香奈をよろしくね星斗君……」

「俺からもよろしくな……」

「い、良いんですか……」


 勿論嬉しい、嬉しいけど、二人と話していた時間はほとんどなかった。

 寧ろどれくらいの時間かは分からないけど、俺が長々と過去を語ったり、思っている事を言っていただけなのに、先ほどとは違って俺はちょっとびっくりしていた。さっきまでは二人とも真顔でちょっと不安だったし。

 それに俺自身としても途中考えていた事が頭から飛んで、説明が下手だったかもしれないし、どこまで信じて貰えるかなんて事も分かんなかった訳だからさ……


「うん。だってもう分かったからね。それに何より星斗君が香奈の事を大切に思っているって事は凄く伝わって来たからね。寧ろそこが一番の決め手かな」

「そうだな……それは俺にも伝わったよ。きっと星斗君なら香奈を任せても大丈夫そうだなって」

「それになにより、香奈を幸せにするじゃなくて、香奈と幸せになりたいって言葉は凄く私には響いたかな……凄く本気さが伝わって来たよ」


 二人はそんな肯定する言葉をくれた。


「良かった……あ、ありがとうございます……」


 俺はそんな二人の言葉を聞いて、一気に体の力が抜けた。

 時間としてはそこまで長くはなかったけど、香奈の家に来てからはずっと緊張していた。不安だった。そんな思いから一気に解放された。


「あ、ありがとう二人ともっ!!!ありがとう星斗先輩っ!!!」


 そして香奈は香奈のご両親にありがとうと伝えた後、俺にも言いつつ抱き着いてきた。

 間違いなく喜んでいるけど、まだ香奈は泣いている。

 俺と同じく、不安だったんだろうな。


 香奈のご両親が見ている中、俺はそんな香奈の頭を優しくなでながら言う。


「俺の方こそありがとう香奈。これからもよろしくな」

「は、はいっ……よろしくっ……よろしくお願いしますっ……」


 それから、俺と香奈が落ち着いたころに来ると言って廊下に出ていった。



●七島夏美(side)


「凄く良い子だね……」

「まだ完全には分からないけど、何となくはそう感じたな……」

「でもやっぱり香奈への想い、いやお互いの想いはきっと本物だね」

「そうだな。それは疑う余地はないかもな……」


 そういう割にちょっと複雑そうに言っていた。

 まぁ、理由は分かってるから触れはしないけど、やっぱり香奈に彼氏が出来た寂しいからだろうね。


 実際、星斗君の話をする時の香奈は本当に必死で、今までにない位本気の目をしていた。和樹さんも言っていたけど、香奈が私たちにあそこまで必死に何かを伝えようとするのは初めてだった。だから香奈の想い、そこに疑いの余地はなかった。

 香奈に至っては、心の底から愛しているって言うのが痛い程伝わって来ていて、もし星斗君が悪い子だったとしても、反対出来たか分からないレベルだ。

 勿論親としては反対しないと行けないんだろうけど、それ思ってしまう位香奈はゾッコンだった。

 

 そして星斗君。彼に家族が居ないって事は凄くびっくりした。

 それに親戚もいなければ、小さい頃から一人でいるしかなかったと……そんな彼に思った事は、哀れみなどではなく、ただただ心配……そんな気持ちだった。勿論過去の事だけどそれでもね。

 それでも自分の意思で立ち直ろうとした星斗君は素直に凄いと思った。もし自分が同じ立場だとしたら、立ち直れたか?いや、難しいだろう。ていうかそれ以前に生きて行けたかも怪しいレベル。

 香奈もきっとそんな過去を聞いて力になりたいと思ったんだろうね。正直私もそれを聞いて荒れていた事実は、割とどうでも良くなっていた。変わったらなそれで良いじゃん、変わろとしているならそれで良いじゃん……寧ろ力になってあげたいとまで思っていた。

 やっぱり香奈は私の娘だね……


 私はそう思うけど、和樹さんはどうなんだろうか? 


「あなたは星斗君が荒れていた事はどう思う?」

「どうだろうな。星斗君がしていた事は本人も言っていたけど良い事ではないのは間違いないのかもしれない。でも彼の身の上や、今の彼を見ていたらそれを否定する気にもなれないかな……でも少なくとも今の彼なら大丈夫、そうは思えたかな。それになんて言ったってさっきも言ったけど、星斗君の目を見てればどれだけ香奈を好きなのかは分かるからな。同じ男としてそれは間違いないと思う」


 別に男じゃなくてもそれは伝わってはいた。


 何より星斗君が香奈を見る時の目は、まるで付き合い始めたばかりの時の和樹さんを彷彿とさせられた。きっとそんな所も星斗君が香奈の事を本気で思っていると思えた理由だと思う。


 昔を思い出した私は、懐かしさや嬉しさがこみ上げて来て笑って言った。


「ふふ、それじゃ安心そうだね」

「いったんはな。勿論香奈を悲しませるような事があれば、絶対に許しはしないがな」

「それじゃあ、そろそろ戻らないとね。星斗君の事をろくにおもてなしも出来ていなかったし」

「それもそうだな」


 そうして私たちは、星斗君と香奈がいる部屋へと戻った。

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