第42話 七島とのトラブル
――あれからあっと言う間に一週間が経ち、今日は月曜日。
咲の事件については、あの後犯人は結構あっさりと色々と吐いたみたいで、色々な事が分かったらしい。
まぁ、俺があらかた知っていた情報だったけど、それは晴美さんの方から俺の方にも連絡が来ていた。
データを盗んだ事も自白して、そのデータはは無事回収されたみたいだ。
と言っても犯人曰く他の誰にも共有はしていなかったらしいが、その辺の事実確認は難しいし、どうなのかは分からない。
その辺については今後も要注意って感じで最終的には落ち着いたみたいだ。
一応昨日、晴美さんそして学さん(父親)と咲と俺の四人でも会ったのだけど、学さんの方は凄く落ち込んでいたししなしなになっていた。
自分のせいで咲が危険にあったんだし、当然といえば当然だけどな。
仕事の方も忙しいから大丈夫かなって咲が心配していたな。まぁ俺が言える事かは分からないけど、今回の件は学さんの不注意でもあるし、咲の為にも反省はしっかりとして今後は同じ失敗は絶対にしないで欲しい。
とにかく何事もなく解決出来て本当に良かったな。
俺がそんなことを思いつつ席に座っていると、美玖と咲が教室に入って来たのだが……ちょっと、いや凄く様子が変だった。
咲は凄く疲れているようだし、美玖はあからさまに機嫌が良くない。
それから少しして七島も入って来たのだけど、七島も変で気がったっている様子だった。
……ていうか今俺睨まれたのか?
気のせいには思えなかったし、多分そうだよな?一瞬だったけどさ……
三人の様子からみて何かあったんだろうか?そんな事を思っていると、美玖に言われた。
「如月、今日の昼休みは私と咲があんたの所に行くわね。ちょっと言わないといけない事があるから」
「良いけど、言わないといけない事?」
「えぇ、今は時間がないから言えないけど、昼休みに説明するわ」
「分かった……」
美玖の感じから察するに結構重要な事なんだろうけど、マジでなんなんだろうか?
問題が起こってないと良いんだけど……正直良くない予感しかしない。
午前中の授業については、それが気になり過ぎてほぼ集中出来なかった。
◇
――昼休み、俺は言われた通り、美玖、咲の三人で座っていた。
今日は香奈はいないのだろうか?
「えっと、それで何かあったのか?ていうか香奈は?」
「ちょっとね……香奈ちゃんはその、今日は休んでるよ」
「まぁ、私の方から説明するわね……実は」
◇
●涼風美玖(side)
――今日の登校時の事。
私は香奈、咲、そして今日は翼も珍しく一緒に登校していた。
普段の翼は朝が弱いのでぎりぎりで登校するから、私達とは一緒に来てはいなかったけど、今日は珍しく早起きしたらしい。
そういえば中学生の頃は翼の寝起きが悪かったから、私や咲が家まで行っていたわね。何でかは分からないけど、私が行ったら翼が焦って起きて来たからね……まぁ、それも高校生になってからはしなくなったけどね。私たちもずっとそんな事をしてられないし、翼の成長にも繋がらないと思ったから。
と言っても起きられなかった原因は夜更かしほかならないんだろうけどね……翼はとにかくゲームが好きで夜遅くまでやるのが習慣って香奈が言ってたくらいにはね。
翼と香奈の両親も注意はしているけどあの二人はなんだかんだ言って、翼や香奈に凄く甘いから、結局注意だけしてそれで終わっちゃうのよね。
「なぁ、三人に聞きたいことがあるんだけどさ?」
私たちは特に会話もなく歩いていたのだけど、突然翼がそう言って来た。
「どうしたのかしら?」
「何かあったの?」
「聞きたい事って?」
「昨日香奈に聞こうと思ってたんだけど、折角だし三人が一緒に居る時に聞こうかなって思ったんだけどさ、俺の友達に先週の木曜日、三人があいつと一緒に帰っているってのを見た奴がいたらしいんだけど、どうなんだ?流石に見間違いだよな?」
翼は不機嫌そうにそう聞いてきた。
翼がアイツと呼ぶのは如月の事でしょうね……
咲は気まずそうにしているし、香奈は何とも言えない表情をしている。
まぁ、この話題については咲は答えにくいだろうし、香奈に任せると怒ってまずい方向にいきそうよね。
四人一緒に帰っていたんだし、バレる可能性を考慮していない訳もなかったので、こういう時の事はある程度話し合っていた。別に隠す必要はないとね。
それゆえに私は冷静に返答した。
「如月の事?」
「そうだ」
「いたわよ」
私は嘘をつかずはっきりとそう言った。
「はぁ?いたのか?」
「そうね」
「意味わからないんだけどなんでだよ??アイツとは話すなっていっただろ??関わって良い事なんてないんだろうが!」
「ちょっ!!……」
香奈が怒って何かを言おうとしていたけど、私はそれを止めて言った。
難しいかも知れないけど、穏便に済むならそれに越した事はない。
「木曜日の事だったら説明するわよ。良い?咲?」
「う、うん……」
「えっと……」
私は今回の件についてを説明した。
「ほんとなのかそれ?」
「本当よ、嘘つく意味ないでしょ?」
「じゃあ、何で俺に言わないんだよ??それによりにもよってあいつに頼るとか馬鹿なのか???」
翼は相変わらず機嫌悪そうにそう言って来た。
最初に出る言葉が咲の心配じゃないのね……私が最初に結論から言って無事だったと言ったのも原因かもしれないけど、説明中も咲を心配する素振りもなく、如月の名前を言うたびに不機嫌そうにしていた。
私はその事実にがっかりしていた。
「馬鹿じゃないわよ。大体翼に言ったら如月と協力出来たのかしら?」
「しなくていいだろ?如月は関係ないんだから、俺がいればいいだろ?」
俺が居れば良いなんて自信はどこからくるのだろうか?
普段からの行動を見ても如月と翼だとどっちが安心かなんて明らかだけど、取り敢えず今はその事は良いとして……
「さっきも言ったけど、如月と咲、そして晴美さんが話し合った結果如月を頼るってなったんだから、それは元々決まってた事なのよ。寧ろ私や香奈が知る前から如月はその事を知っていたのよ」
「だからってアイツは違うだろって!!」
翼は更にヒートアップしてそう言う。
「違うって何が違うのよ……大体翼に言わなかったのも前から如月の事を悪く言っているから、余計なトラブルにならない様にってだけなのよ?如月の方は大丈夫だと思うけど、翼は如月と仲良く出来た??」
これは当然だけど、もし翼が如月の事を嫌っていなかったとしたら、咲は翼にも言っていたと思う。それは咲が決める事だけど、多分そうなっていたとは思う。
仮に翼が咲の異変に自分で気付いたんだとしても、その時は正直に話していたとは思うけどね。
「はぁ……じゃあいいや。でもこれからは如月とは話すなよ?アイツといるとお前らも悪いように言われるって絶対。それに悪い噂も多いんだからさ……」
「それは約束できないわね。これは私もそうだけど、香奈も咲もね」
「はぁ?何言ってんだ??マジで言ってんのか?咲、香奈???」
翼がそう言って咲や香奈の方を見た。
香奈は勿論と言いたいかの様に頷いて、咲は気まずそうに頷いた。
「お前ら何言ってんだよマジでさ!!!???」
「大体今回助けられたんだし、話さないはむりでしょ?」
「いくら助けられたって言ってもアイツなんだし下心があっての事に決まってるだろ!!??あいつが一緒に帰るって言ったのも良くない理由があるに決まってるだろ!!??あいつが善意からなんて考える方がおかしいだろう???」
「そ、そんな訳ないじゃん!!!!!!!!」
はぁ……私がどにかしてこの場を収めようと頑張って見たけど、無理だったみたいね。
我慢の限界になっていた香奈が黙っているなんて無理だったらしい。
感情的になった香奈がそう叫んでしまった。
「そんな訳あるだろ!お前らだって噂は聞いてるだろ!!??あいつが女好きだってさ!!!」
「噂なんてただの噂じゃん!!!どうして何も知らないのに悪口ばっかり言うの!!??」
「見た人も居るんだし本当だろ??」
「だとしても変わったかも知れないじゃん!!最近はそんな噂も聞かなくなったでしょ!!」
それは間違いない。
最近の如月は噂を聞くことはなくなっていた。勿論昔の噂が多少残っているとはいえ、ほとんどはね。
現に如月がクラスメイト達に必要以上に避けられていたりしたのも、最初の一月ちょっとくらいまでだった。学校にもちゃんと行ってるし、授業もちゃんと受けているから、そう言った事が大きな理由でしょう。
とはいってもまだ多少は怖がっている人はいるけどね。
「……だとしても、直ぐにまた聞くようになるに決まってるだろ??大体香奈が怒る意味がマジで分んないんだけど??あいつの事を庇い過ぎじゃね??まだ漫画どうこうとか思ってんのか??」
「漫画なんて知らないよ!!!私は星斗先輩の事が好きだもん!!!!!」
香奈は勢いに任せてそう言ってしまった。
「は?冗談だよな???」
「ホントだよ!!」
「……」
翼はさっきよりも更に怒っているような感じになってしまった。
「ちょっと二人ともおちつき……」
「美玖は黙ってろ!!!おい香奈!!俺はずっとあいつには近づくなって言ってただろ!!!」
これはまずいと思い、言ったのだけど途中で口を挟まれた。
翼はそう怒鳴りながら香奈の腕を掴んだ。
「いたっ!!離してよ!!!それは聞いてたけど、昔の話なんだよ!!!今の星斗先輩は凄く優しいんだって!!!」
香奈は翼の腕を振り払ってそう言い返した。
「んな訳ないだろ!!それが本当だとしても絶対に裏があるに決まってるだろ!!少しは人を疑えよ!!!そんなんじゃ直ぐ人に騙されるぞ?今回みたいにさ!!!」
「そう……もういいや」
翼がそう怒鳴ると香奈はあきらめたようにそう言った。
「ちょっと香奈?」
「美玖ねぇ、咲ねぇ……私今日は帰る……」
そう言って立ち去る香奈を、私と咲は止めなかった。
付き合っているとは言えなかったみたいだけど、好きって事は言ってしまった。
それを完全に否定されたんだし、香奈もちょっと考える時間は欲しいわよね……他人ならまだしも香奈に関しては翼と義とはいえ家族なんだものね……
「ねぇ翼?どうしてあんたは必要以上に如月の事を嫌ってるの?別に自分が何かをされたって訳でもないんでしょ?」
これはずっと疑問に思っていた事。
不良が嫌いって言っていたけど、如月にだけは過剰な気もしなくもない。
「さっきも言っただろ??アイツは女癖が悪いって聞いてるから、お前らが心配なだけだって!!!」
「その気持ちは分かったけどね、私も如月と話したけど、そんな感じじゃなかったわよ?あんたもちょっとは如月の事知ってみたら分かるわよきっと……一回冷静になって知る機会を作っても良いんじゃない?」
「そんな必要ないだろ!それよりも関わらなければ良いだけの話だろうが!!何考えてるんだよお前たちはさ!!!」
「お願いだから、ちょっとは如月がどんな人かを確かめてくれない?翼自信の目でさ……考えが変わるかもしれないし……」
「わ、私からもお願い翼君……」
私は可能性があればとわずかな可能性にかけてそうお願いしたら、咲も一緒にそう言った。
しかし翼の返事は私たちが欲しい返事ではなかった。
「だから関わらなけばいいだろって何度も言わせるなって!大体咲も美玖も男とは関わろうとしていなかったのに、今更どうしたんだよ!?今まで通りでいいじゃん!!」
今まで通りね……それは私や咲は望んでいない。
寧ろ私は最近ようやく過去の呪縛から抜け出せて、咲も変わりたいと言っていた。私の過去の事は翼には話せていなかったけど、だからと言ってその言葉はちょっと悲しい……
それにしてもこれは何を言っても駄目そうね……本当にどうしてこんなに否定するのかしら……
少しくらいは自分で確かめればいいのに。
「少しは確かめてみても良いんじゃない?如月の事をね。話してみてら如月もきっとちゃんと話してくれるわよ?」
「だからずっと言ってるだろ!!??俺は不良が嫌いだし、美玖たちも関わるなってさ!!!そうすればいいだけの話だろ!!!お前たちの方が考えを改めるべきだって!!そうしないといずれ絶対後悔するって!!何度も言わせるなって!!!!!」
翼は怒りつつも必死にそう言って来た。
分からない……私達がここまで言ってるのに考える様子もなくそう言ってくる意味が分からない。
最近は如月の事を怖がっている人もかなり減っているし、挨拶をされている姿も多少は見る。間違いなく以前とは皆からの印象は変わっているのに。翼はそれに目を向けようともしない。
はぁ……まぁ翼もかなり感情的になっているし、今はこれ以上話しても意味無さそうね。学校にも早く行かないとだしね。
「取り敢えず学校に行くわよ。これ以上話していると遅刻するわ……」
「そ、そうだね……」
「とにかく二人も考えを改めろよ??良いな?」
私と咲はそれに対しては返事をしないで歩いた。
そんな約束は出来るはずないものね。大体如月と関わらないつもりは全くない。
それは香奈は当然、咲も一緒のはず。
その後は会話は一切なかった。
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