第19話 真実はいつも1つで~す

「も~、あんまり見ないでくださいよ~。恥ずかしいです〜」


 周囲からの注目に、まんざらでもなさそうにニヤける三森。うん、これは期待できなそうだ。


「どうしてそう思うの? 三森ちゃん」


 佐藤さんが尋ねると、三森は「ふっふっふっ」と意味ありげに笑う。


「いいですか? そもそもこの犯行は、先週末の2日間にしかありえないんですよ」

「そうなの?」

「はい! まずとーまくんは金曜日、あたしと一緒に完全下校時刻まで図書室で勉強してました。とーまくんが学校を出てすぐ、施錠担当の先生が鍵をかけるところもばっちり確認済み。よって金曜日の犯行は不可能です!」


 そういえばそうだった。たしかにあの日は、俺たちが最後に玄関を出たはずだ。

 まあ一つ訂正をするならば、三森は俺と勉強してたんじゃなくて、横で突っ伏して寝てたんだけどね。


「でも犯人がどこかに潜んでいて、笹原くんが下校したのを確認してから、下駄箱に例の紙を入れた後、別の場所から出た可能性はないのかな。裏口とか」

「あっ。隠し通路はミステリー的にタブーなのでだめです」

「そっかぁ」


 いや裏口は隠し通路じゃないし。というか別にこれミステリーではないし。

 けどまあ、そんな脱出ルートがあったらセキュリティ的に大問題だからあり得ないか。


「そして昨日! 真面目なあたしたちは勉強のため、朝一番で学校に来ました。よって月曜日も犯行は不可能。つまり事件はその間、土曜日と日曜日しかありえません!!!」

「「「おー」」」


 まったく期待してなかったけど、思ったよりはちゃんとした推理だ。勉強にもこれくらい頭を使えばいいのに。


「なるほど……つまり犯人は休日学校に入ることのできた人物、土日に活動していた3つの部活に絞られるというわけね」

「ちょっと~花守先輩! あたしの名推理を横取りしないでくださいよ~」


 陽菜の理解が速すぎることに、口を尖らせる三森。

 ちなみに、うちの学校はテスト一週間前から原則部活動禁止だが、例外もある。学校から強化指定を受けている部活は、テスト前最後の休日まで練習が認められるのだ。それが最初に三森の挙げた、吹奏楽部、バドミントン部、陸上部ということになる。


「コホンッ。つまりこの3つの部活のいずれかに所属し、かつとーまくんに恨みを持つ人間と言えば……あなたしかありえません!!!」


 ビシッと三森が指したその先には──


「お、俺ですか!?」

「そうですよ~? 犯人は桐谷さんで~す」

「違いますって! 俺じゃありません!」

「往生際が悪いですね~、かつ丼食べますか?」

「か、かつ丼……?」

「そもそもとーまくんは、友だちが少なくて影も薄いので、恨みを持ちうる人間自体が稀少なんですよ。これでも言い逃れできます???」

「いや、そんな。めちゃくちゃですよ!」


 三森のやつ……途中まで割と良かったのに。最後の詰めが適当すぎる。俺の影が薄いのは完全に三森の主観だろ。ミステリーの土俵にすら上がれていない。

 まあ、俺に友だちが少ないのは事実だが。


「……たぶん……バド部は……無理」


 寡黙な氷護先輩が珍しく口を開く。きっとふざけた女に可愛い後輩が濡れ衣を着せられるのが許せないのだろう。ガツンと言ってやって欲しい。


「な、なんでですか」

「……バド部は休日は……体育館横の出口……使ってるから……正面玄関……行かない」

「れ、練習中に抜け出したんじゃないですか~? 休憩くらいありますもんね~」

「うーん。それは現実的じゃないかも。休日は校舎側に繋がるドアが閉まってるんだよね」

「そんなぁ……」


 エースとマネージャーの活躍で、無事に桐谷くんの冤罪が晴れた。あからさまにがっかりしながら、その場にへにゃりと座り込む三森。

 いや、まずは桐谷くんに謝れよ。いつもおもちゃにされて可哀想に。


「それにたぶん陸上部も無いと思う。基本的にずっと外で練習してるから」

「となると怪しいのは吹奏楽部かしら」

「そうなるよね。でも休日学校に入る時は必ず顧問の目があるし、笹原くんの下駄箱は見晴らしの良い位置だから、怪しい動きをしたらすぐにばれるんじゃないかな」


 推理を放棄した名探偵を置き、陽菜と佐藤さんが犯人を絞っていく。


「じゃあ犯人は斗真と下駄箱が近い人間……同じクラスの可能性が高いわね」

「そうだね。それも男の子」

「わっかりました~!」


 三森はピョンっと立ち上がり、またも「ふっふっふっ」とわざとらしく笑いながら、ゆっくりと部室の中を歩き出した。


「……また冤罪を生むなよ」

「生みませんよ~。今度は自信あります!」

「ほんとか?」


 すると三森はピタッと止まり、どや顔で人差し指をピンっと立てた。


「真実はいつも1つで~す」

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