第41話 消えたバッグと、誇れる国
高速道路を使って、V-maxで埼玉県内の現場へ向かっていた。
圏央道がまだ開通していなかったころで、外環道まで行ってから、さいたま新都心線を戻るルートを選んだ。
最後のトイレ休憩を三芳PAで取ることにし、バイク用の駐輪場にV-maxを止めた。さてトイレへ──と思った瞬間、背筋が凍った。
後部座席に括りつけていたはずのデイバッグが、影も形もない。ゴム紐ごと消えている。
一気にパニック。「冷静に、冷静に」と言い聞かせるが、焦りは募るばかり。
まずはスマホで現場に連絡。幸い、今日は重要な打ち合わせもないとのことで、ひとまず安堵。
次は落とした荷物。後続車が事故を起こしていなければいいが……と不安がよぎる。
PAのインフォメーションにいた女性に事情を説明すると、
「どこまで荷物がありましたか?」「どんなバッグですか?」と丁寧に聞いてくれた。
「センターに確認しますので、少しお待ちください」と電話をかけてくれたが、結果は──見つからず。
「自分の荷物で事故とか起きていなければ…」と伝えると、「今のところ事故の報告はありません」との返答。
少しだけ胸を撫でおろした。
トイレに行き、水分補給。
バッグにはキャッシュカードやクレジットカードが入っていたので、スマホで即座に停止手続きを行った。
1時間ほど経ち、もう一度インフォメーションへ行くと「まだ出ていません。見つかり次第ご連絡します」とのこと。
やむなく三芳PA上りスマートインターから一度降り(当時はPA利用後でも降りられた)、ぐるっと回って下りスマートインターから再乗車。
がっかりしながら帰路へ。
今度はガソリンが心もとない。高坂SAで入れようにも、カードも現金も無い。当時のiPhone6s Plusにはお財布機能もなかった。
この残量では藤岡ICどころか上里SAも難しい。
年に一度使えるガス欠サポートはあるが、わかっていて使うのは気が引けた。
花園ICで降り、すぐのスタンドで給油する作戦に。
とにかく低燃費走行に徹する。
高坂SAから妻に電話。
高速を運転したことがない妻だったが、「下道で行くよ」と言ってくれた。
花園IC近くのスタンドで合流。妻が持ってきてくれた現金には手をつけず、スマホに残っていたVポイントだけでなんとか給油完了。
そのことは、妻には言わなかった。
──そして翌日。
バッグは鶴ヶ島JCTの工事現場に“置かれていた”という。
鉄道警察隊の話では、「落ちた感じではなく、誰かがそっと置いたような状態だった」とのこと。
拾ってくださった方には、十分とは言えないが感謝の気持ちを送った。
財布の中身も手つかずで戻ってきた。
──日本って、やっぱりすごい国だと思った。
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