第20話 貝瀬の思いを胸に

その日、自分は新潟の高校の同期会に参加する予定だった。転校後も声をかけてもらえたことが、本当にありがたかった。


宮田も同じ高校の同期だ。彼は沼田ICまで迎えに来てくれるという。「一緒に三国を越えよう」と言ってくれたその言葉が、妙にうれしかった。自分の中では、「貝瀬の思いを胸に、3人で走るつもりでいた」。貝瀬は、高校時代いちばん気の合ったツレだった。若くして、病気で亡くなってしまったけれど、今でも心の中では、一緒に走っている気がしてならない。


約束の時間ぴったりに、宮田はゼファー1100でやって来た──と思ったら、後ろに2台を従えている。

1台はKawasaki ZRX1200R。これは同期の白河のバイク。そしてもう1台はHONDA CB1300、守さんのバイクだった。


守さんとは不思議な縁がある。最初の出会いは飲み屋。隣のカウンターに座っていた彼が、CanonのEOS-1Dを持っていたことで話しかけた。そこから車やバイクの話で盛り上がり、Facebookの名刺をもらって友達申請。その後、白河とはスキー仲間だったことや、自分の柔道部の1学年上の先輩とも呑み仲間だったり、自分の同級生と家が近所だったりと、まるで糸で繋がっていたかのような縁が次々と明らかになった。

今では、宮田や白河のバイクの整備もプライベートで請け負っている。元バイク屋でもある。


その2人を引き連れて沼田まで来てくれたのだから、テンションは爆上がりだった。


駐車場でしばし談笑していたとき、守さんが声を上げた。

「おっ、ビス踏んでるぞ」

なんと、自分のバイクの後輪右側にビスが突き刺さっていた。


思わず手を伸ばすと、「抜くな!」と守さん。

唾を指につけて、刺さっている部分に塗って気泡の有無を確認する。

「まぁ、漏れてなさそうだな。このまま走っても大丈夫だ。ただ、激しく走らなければ、の話だけどな」

自動車整備士の免許を持つ宮田も、その判断に同意した。


そこからは自分が先頭で、川場を抜けてお気に入りの望郷ラインを経由し、三国峠を越えるルートをとった。

途中、宮田もまた唾をつけてチェック。「大丈夫そうだな」と念を押してくれた。


南魚沼の道の駅でいったん解散。宮田と白河は「同期会は人が多くて気を遣う」「5人以上集まると面倒」といった理由で参加しないのが恒例だ。


それでも13時から幹事の先行集合があると伝えると、「顔だけ出すよ」と白河は会場まで一緒に走ってくれた。


━━翌朝。

守さんや宮田の真似をして、ビス部分に唾をつけてチェック。漏れはなさそうだった。

それでも帰り道は高速道路。万が一バーストしたら命に関わる。

不安を抱えながらも、なんとか地元のバイク屋近くのICまで無事到着。


バイク屋は右前方。中央分離帯の関係で、手前の信号を右折して裏から入る方が早い。

その信号を右折したとき──


ぐにゅり。

後輪がつぶれたような、滑ったような、嫌な感触があった。

「あと50メートルなのに……」


幸い、バイク屋には無事たどり着いた。

外気温は40度を超えていた。そのせいでアスファルトが柔らかくなっていたようで、どうやらその“ぬかるみ”を踏んだだけだったらしい。


バイク屋で涼みながら、3人に「無事帰着」の連絡を入れた。

送信を終えて、ふと我に返る。


「貝瀬の思いを胸に」──そんな気持ち、正直どこかに飛んでいた。頭の中は、ずっとビスのことばかり。


貝瀬、また今度こそ、一緒に走ろうな。……それとも、あいつは天国で、「お前らだけで楽しめよ」なんて笑ってるかもしれないけどさ。

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