バイクのある日常
VmarutaX
第1話 不細工な自分がモデルになった日
自分が普段バイクで出かけるのは、ヤマハのV-max。どこにいても目立つ、重厚で無骨なフォルム。そして「直線番長」と呼ばれるほどの加速力が魅力だ。だが、もっと目を引くのは──自分の頭だ。
ヘルメットはプレデター風のカスタム。シールドを上げると、中にはゴム製の牙付きマスクが鎮座している。初対面の人には、たいていぎょっとされる。子どもが泣くか、大人が写真を撮るか、そのどちらかだ。
この日は、道の駅おおたで“ちょっとした祭り”があった。普段見ているバイク系チャンネルの撮影会が行われていて、自分としてはそれだけでもテンションが上がっていた。特別な存在──というほどではないにしても、動画を通じてバイクの魅力を再発見させてくれた人たちだ。
高崎から太田までは、かつては遠い町だったが、今では354バイパスと東関東道のおかげでひとっ走り。高速を使えばもっと早いけど……5分のためにお金を払うより、バイクで道を楽しむ方を選んだ。
道の駅では、YouTuberとの交流、バイク談義、そして記念写真。まだ昼過ぎではあったが、いつまでも独り占めしているわけにもいかず、名残惜しさと満足感を背に帰路についた。
──そして、それは帰り道で起きた。
空気が少し冷たくなりはじめた夕暮れの交差点。信号で停まったV-maxの横に、真紅のユーノス・ロードスターRFがスッと並ぶ。現行車で一番かっこいいと思っている車だ。
ふと視線をやると、助手席には黒髪のロングヘアーを揺らした、品のある女性が座っていた。斜め横顔だけでも伝わる整った輪郭と、大人の落ち着き。彼女は自分の顔──いや、ヘルメットを見て、ぎょっとした表情を浮かべたあと、運転席のシルバーグレーの男性に小声で何か話しかけた。
やがて男性もこちらを振り返る。そこで自分は、ヘルメットのシールドを持ち上げ、牙マスクのまま話しかけた。「RFですね。最高のデザインですよね。2000ccでしたっけ?」
男性は目を丸くして、「ええっ……」と一言。そして、少し間をおいて──「すごいヘルメットですね!」
その横で、助手席の女性は慌ててスマホを取り出し、こちらを向けて言った。「撮っていいですか?」
──ほんの数秒のやりとりだったけれど、あの交差点で交わした笑いと驚きは、確かに自分の中に残った。ただの帰り道が、少しだけ特別な時間になった。
そしてたぶん──あの写真は今も、誰かのスマホの中や、ひっそりとしたインスタの一角に、「謎の牙ヘルメットライダー」としてアップされているのかもしれない。
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