26)出発とネコさん
ギルド緊急依頼の件から2日後、俺達は町を出るために早朝から宿を出て門へと歩いていた。
石川達は俺達が気絶させたあと拘束されて、町に運んだあと勾留されていたが、どうやら正式な裁判を行うために王都に移送されるらしい。
俺達は石川達と知り合いということで、その後は一切関わらせてもらえなかった。
ただ、ギルド緊急依頼の達成に大きく貢献した功績として、報酬金とパーティメンバー全員がDランクへと格上げされた。
【赤牙の狼】のオッサン達によると、Eランクを飛ばしての2段階アップは異例らしいが、自分達よりも俺達の方が強いと見てくれているようで納得だとのことだ。
「あーあ、何回思い返してもわからねぇなぁ、本当にあれでよかったのかなぁ、リン?」
レンは自分の手で石川達を止めたことに罪悪感を抱いているようだ。
「あの状況じゃ、ああするしかなかったと思うよ、異世界だからって無闇に人を殺すのも良くない。あれでもし仮に、ちょっとでも関わりのあった【赤牙の狼】のメンバーが殺されてたらと思うとね。ただ、これからは人と戦うことも増えるかもしれない、もしかしたらクラスメイトとも。こんな世界だし、万が一の時に動けるように、人を殺せる覚悟だけは持っておいたほうが良さそうだね。」
「だな。」
「そうだな。」
「そうだね。」
「ん。」
みんな決意新たな顔をしていることを確認して前を向く。
「リン、モンちゃんからの伝言。現状、王都までの道のりに特に障害はないって。前にテイムしたウマに乗っていけば1週間ぐらいで着くって。」
アイリスからの連絡を聞きつつ、門に到着したので、ウマを出す。
「ありがとうアイリス、じゃあウマAからウマD召喚っと。」
目の前に現れたのは、前にモンちゃんに紹介された時に見たでかい馬っぽい魔物だった。
全員こっちに向かって頭を下げてる。
「おぉ、すごいな!さすがリン、かっこいい馬もだせるのか。俺は馬には乗ったことないんだが、乗れるのか?鞍みたいなのもついてなさそうだが。」
セイシロウがもっともなことを聞いてくる。
「それなんだけど、この間ナナと一回乗ってみたら、僕らのステータスなら鞍がなくても全然大丈夫だったよ。むしろ走ってもそんなにスピードは大差ないと思うから、走れる人は走ってもいいんじゃないかな。」
パーティでは俺のステータスがスキルのせいで突き抜けているが、俺以外のパーティメンバーのステータスも魔物を倒したりしてレベルが上がったことでかなり上がってきている。
加えてセイシロウ達は筋トレで力や耐久を、ナナは勉強と瞑想や魔法行使で魔法効率やMPなどを、サヤは何やってるか知らないが敏捷が上がってきている。
「お、じゃあ俺は走ろっかなぁ、一応鍛えときたいし。」
「俺も当然走るぞ!馬は気になるが今度乗せてくれ。」
「私も。」
「私はじゃあ魔力鍛えるために空飛んでみよっかなぁ。疲れたら馬貸してリン君!」
ナナ空飛べるのか、、、
俺も空飛んでみたいなぁ、モンちゃんへの要望リストに追加しておこう。
「じゃあとりあえず僕だけ乗るから、ウマAだけでいいや、、、ごめんねありがとう。」
ウマ達を収納して、いざ王都へ出発する。
お世話になった町へお辞儀しておく。
町の名前はシナエラというらしい、また帰ってくるからね。
ちなみにパーティメンバー以外の移動方法だが、心紋はいつも走ってるし、アイリスは飛んでる。
はたから見たら、結構早い馬に乗ってる俺を囲んで同じスピードで走る人たちと、その上を2人が飛んでる意味不明な図が出来上がってる。
すれ違う人達は驚愕の表情を浮かべている。
それから走ること1日。
みんなの顔には少し疲労が出てはじめていた。
ナナはもう飛ばずにウマBに乗っている。
途中で出てきた魔物と戦いながらだから疲れているのだろう、むしろみんな異常な体力だ。
俺はというと、近づく魔物は心紋とアイリスが全部一瞬で倒してくれるから、ウマに乗りながら意思疎通スキルでテイムモンスターの視界を見て情報収集という名の暇つぶしに明け暮れていた。
「今日はこの辺で野宿しようか。キャンプみたいなものだね。」
ウマを止めてみんなに指示する。
「キャンプかぁ、楽しみだなぁ。何食うー?さっき倒した牛みたいなの美味そうだったよなぁ。」
牛みたいなのっていうのは、さっきレンが倒していた魔物だ。
レンは最近できるようになったらしいめっちゃ速い居合い斬りの一撃で倒していた、なんかスキルに技術を加えるとスピードがあがるとかなんとか。
魔物は超鑑定すると、レッサーミノスという名前で肉は焼けば人間でも食べられるらしい。
美味しそうな名前だ。
「食べられそうだから食べてみよっか。出すね。」
収納スキルで収納していた魔物をとりだす。
キャンプ道具一式もついでに取り出して、ふと、魔物の捌き方なんて知らないことに気づいた。
どうしよう。
ダメ元でモちゃえもんに聞いてみるか。
意思疎通スキルでモンちゃんを呼び出す。
(モンちゃんモンちゃん、今魔物を解体して食べようと思ってるんだけどさぁ。魔物の死体を解体できるような魔物っていたりしない?)
(モキュモキュッ!)
アイリスが近寄ってくる。
「いるって。」
「いるんかい!」
魔物を解体する魔物って自分で言ってて変だと思ったのに。
「昨日テイムしたばかりのやつだって。リンがトラ?みたいって言ってたやつ。名前はまだだから付けれるって。」
「あー、あいつか、なるほどなぁ。」
モンちゃんからは定期的にテイムモンスターの承認依頼がくるからちょいテイムモンスターは増えている。
たしかに、昨日テイムした中にはトラみたいなネコみたいな、人間ぐらいのサイズの魔物がいた。
さっそく呼び出す。
「ニャ!」
でかい二足歩行のトラみたいななのが跪いてる。
低い声だけど、ニャって言ってるから猫なんだろうか。
「急で悪いんだけど、この魔物を食べやすいように解体できたりする?」
「ニャ!」
猫さんはさっそく取り掛かってくれた。
自前の包丁みたいなので、見事な手捌きで肉を解体していく。
魔物とは思えないほど丁寧な仕事だ。
食べる側のことを考えているとしか思えない手捌き、これは才能があるどころではないぞ。
「ニャッ」
仕事を数分で終えた猫さんが肉を並べてこちらに跪く。
「すごいよ!もしかして料理もできたり!?」
「ニャ、、、グルゥ」
料理はさすがにできないみたいだ。
そりゃそうだ、魔物が捌けるだけでも意味わかんないのに料理はさすがにおかしい。
「じゃあ一緒に料理しよう!教えるよ!才能あると思うんだ!」
すぐに猫さんと一緒に料理を始める。
「リン君テンション上がってるね。私も手伝うよ。」
レン達とキャンプの用意をしていたナナも来てくれる。
「日本の料理が食べられるかもだからね!そりゃ上がるよ!そうだ、一応聞いておくけど君は料理とか魔物の解体が好きなのかな?」
「ニャ!ニャ!」
おぉ、めっちゃ好きそうだ。
「よし、じゃあ君はこれから専属の料理猫になってくれ!そして名前は、ネコ料理長だ!」
「ニャー!」
そしてその夜、俺たちは最高級の牛肉みたいな味で腹一杯になって大満足のまま眠りについた。
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