第18章 放課後の気配

【読者の皆さまへ】

 お読みいただき、誠にありがとうございます。


 ・この小説はカクヨム様の規約を遵守しておりますが、設定や世界観の関係上「一般向け」の内容ではありません。ご承知おきください。


 ・[残酷描写][暴力描写]があります。


 ・短編シリーズ始めました(2025年8月16日より)

https://kakuyomu.jp/works/16818792438682840548



 ・近況ノートに、主要キャラクターイラストや相関図を用意しています。イメージ補助にお役立てください。


※最新の相関図(近況ノート)※「キャラごとのキャッチフレーズ」付き!

https://kakuyomu.jp/users/kyotobond007/news/16818792437582060358



※コンセプトアート

https://kakuyomu.jp/users/kyotobond007/news/16818792436008553928


※コンセプトアート総合目次

https://kakuyomu.jp/users/kyotobond007/news/16818792437366460945


 ・感想、考察、質問、意見は常に募集中です。ネガティブなものでも大歓迎です。


 以上、よろしくお願い致します。




【本編】 

 私立あかつき学園の運動場。

 夕日があかつき市を橙に染めようとしていた。


「亮!ダッシュだ!」

「そんなんじゃ、東京スパイダースに入れねえぞ!」


 サッカー部の掛け声とボールの跳ねる音が響く。


「ふぅ……。」

 亮はピッチ脇でスパイクの紐を締め、ストレッチを終える。汗と土の匂いが、仲間との連帯を呼び戻す。

「ひなたと京子ちゃん……大丈夫かな……」

 

 だが、頭の片隅には裏庭の小河佑梨──Dの怯えた顔がちらつく。

「生きてる…なのに……なぜD?」

「よう、亮。今日も張り切ってんな」

「大海!」

 亮に声をかけたのは、羽柴大海はしば たいがだ。

 身長180センチのゴールキーパーが近づく。

 陽に焼けた赤いパーマヘアが揺れ、夕陽に光る。


「お前こそ。昨日のセービング、全国レベルだろ」

 亮が返す。

 大海がニヤリと笑う。

「マジ? 惚れたか?」

「冗談だ。そんな顔してるしな……」

 二人は拳を軽くぶつけ合う。

「亮。本当に俺たち、腐れ縁だよな」

「ああ……この学園に来て、ずっとだな」

「この三年間、お前は凄かったよ。今や東京スパイダースのテスト待ちだもんなあ……」

「大海……たまたまだよ」

「ストイックだねえ……冴姫に似てるよ……」


 大海の視線がテニスコートへ変わった。

「おっ……冴姫だ!」

 亮は朝の出来事を思い出す。

(とりつく島もなかった……あの態度……)


 冴姫の白いユニフォームが眩しく映る。

 

 ――へそ出しのコンプレッションタイプのタンクトップ。


 ――短めのテニススコート。


 ――テニスラケットにテニスシューズ。


 学園制服のボディコンシャスな装いとは違い、露出度はかなり高い。


 亮が大海に問いかける。

「随分な違いだな……」

「お前と同じストイックなんだよ。身体が熱くなるからだそうだ」

「身体の冷却……パフォーマンス優先なんだな……」

「そういうこと!」


 亮と大海はサッカーコートから、フェンス越しにテニスコートへ視線を向ける。

「……大海……明智さん……」

 亮が呟く。

 大海が首を傾げた。

「ん?」

「サーブ、荒れてねえか?」


 テニスコートには、冴姫の指示が飛ぶ。

「そんなのじゃ勝てないよ!後50本!」

「はいっ!キャプテン!」

「打倒!白影高校」

「はいっ!」

 

 その様子を見て、亮が呟く。

「けど……明智さんらしくないな……」

 大海が応じる。

「確かにな……指示ばっかりで、スマホばっか見てやがるな……」

「家の事が心配なのか?」

「わかんねえ……俺にも、カナにも何も言わねえからな……」

 

 今、テニスコートの隅でスマホを握る姿は孤立している。

 亮の目が細まる。

「何かあった?盗難車の?」

 大海の顔が曇る。

「……誰にも言うなよ?冴姫んとこ……怪しい男が出入りしてたらしい……」

 亮が息を飲む。

「盗難車の?」

「詳しくはわかんねえ。冴姫の父ちゃんの明智モータースの……営業車の盗難……警察じゃないとすると……保険屋じゃねえかなあ……」

「……保険屋?」

「けど、カナが言うには……ちょっとそれっぽくないってよ……訳がわかんねえ……」

 

 亮の脳裏に、様々な記憶がよぎる。

 

 霧島橋、盗難車、排水溝のバッヂ。「ファウンデーションfoundation」の刻印。裏庭の佑梨――


 全てが繋がりそうで、霧に包まれる。

「それ……小河さんの事件と関係あるだろう?何も聞いてないのか?

 大海が肩をすくめる。

「わかんねえ……冴姫に聞いても『なんでもない』の一点張りだぜ?らしくねえよな……」

 

 テニスコートで、冴姫がサーブを打ち始めた。

「いくよ!皆!」


 ――シュン!ボサッ……。


 ネットにボールが当たり、コートに落ちる。


「……キャプテン…………?」

 

 部員の声が途切れた。

「……」


 フェンス越しに、亮が無言で冴姫を見つめていた。

「……集中……出来てないな……」


 冴姫の伏せた目。彼女の部員を鼓舞する声は枯れ、別の世界にいるようだった。

 大海も困惑の表情を浮かべている。

「冴姫……」


 サッカーコート、テニスコートに静寂が漂う。

 その静寂の中、別の声が響いていた。

 

 ――のぞみ副キャプテン、今日は休みっすか?

 

 ――うん、図書館でテスト勉強だって。

 

 ――陸上全振りだからな、あの人は……勉強は、図書館の主頼りだしな……。


 亮の耳が動く。

「陸上部か……あの延藤のぞみえんどう のぞみって……」

 大海が応じる。

「知ってるだろ?有名人だからな……バケモンだよ」

「運動部なら……知らない奴はいないよな……確かに」


 ……ブルルルル……

 

 大海が亮に声を上げる。

「亮?スマホッ!」

「……ひなた……か?」


 亮はスマホを手に取り、画面に目をやる。

 それは予想通り、ひなたからのメッセージだった。


 ――部活終わったよ! 図書館にいくよ〜!


 ――京子も一緒だよ!早くね!

 

 亮の口元が緩む。

「……相変わらず早えな……ひなた」

 亮の視線が校舎の暗がりに向いた。

 そして、内心で思う。

(俺も行くよ!ひなた!待っててくれ!)

 

 大海がボールを放る。

「亮、行くぞ!」

 亮が頷き、スマホをそっと置き、駆け出した。

「ああ、いくぜ!相棒!」

「相棒って、言うな!腐れ縁だろ?!」

 亮はボールを蹴り、ピッチ中央へ駆ける。

「いくぜ!」


 夕日の橙が、校舎の影を伸ばそうとしていた。


 だが、亮の心には灯がともる。

(ひなた……俺もそっちに行く。お前の求めている真実……俺と……絶対に見つけようぜ!)

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