第1章「霧島橋の異音」

【読者の皆さまへ】

 お読みいただき、誠にありがとうございます。


 ・この小説はカクヨム様の規約を遵守しておりますが、設定や世界観の関係上「一般向け」の内容ではありません。ご承知おきください。


 ・[残酷描写][暴力描写]があります。


 ・短編シリーズ始めました(2025年8月16日より)

https://kakuyomu.jp/works/16818792438682840548


 ・近況ノートに、主要キャラクターイラストや相関図を用意しています。イメージ補助にお役立てください。


※最新の相関図(近況ノート)※「キャラごとのキャッチフレーズ」付き!

https://kakuyomu.jp/users/kyotobond007/news/16818792437582060358



※コンセプトアート総合目次

https://kakuyomu.jp/users/kyotobond007/news/16818792437366460945


 ・感想、考察、質問、意見は常に募集中です。ネガティブなものでも大歓迎です。


 以上、よろしくお願い致します。


【本編】

 夕暮れの私立あかつき学園。

 音楽室の窓から、バイオリンの音が漏れていた。いつもと違う、不安を誘う響きだった。

 

 廊下に足音が響く。

 足音の主は、ひなただ。

「ふう……」

 歩きながら汗を拭う。

 水泳部の練習を終えたばかり。

 茶髪のショートカットが揺れる。

 髪は少し濡れており、制服の袖は半袖に仕立て直されていた。


 ――キィィィィィン……。

 

 音色が空気を震わせる。

 ひなたは思わず、音楽室前の廊下で足を止める。

「この音……は……?」

 音楽室の扉の隙間を覗くと、1人の黒髪のツインテールの少女が弓を滑らせていた。

 背丈はひなたとさほど変わらないが、顔立ちには幼さが感じられる。


 ――キィィィィィン……

  

 覚えのある不穏な音が耳に入る

「綺麗な音……けど……プールで……」 

 ひなたの共感力が、異様な響きに引っかかる。

「なんか……背筋が冷えるわ……練習後だからかな……」


 ――キィィィィィン……


 隙間から見える少女は演奏を続け、穏やかな顔。

「気のせい……かな……」

 ひなたは肩をすくめた。

「けど……なんか胸がざわつくわ……どうして?……」

 ひなたは自身が何を感じてるのかわからず立ち止まっていた。


 脳裏が白夜のような白に包まれ、時間が止まる。


 ――すみません……もしもし?


「ハッ!……はい!」 

 ひなたは驚いて。顔を見上げる。

 そこには黒い作業着を着た男が立っていた。

 ソフトリーゼントの黒髪。

 背が高く、180cmくらいだろうか、サングラスをしていた。

 名札が左胸に見える。


 ―ウィザードクリーニングサービス:土橋恭二―

 

 彼が静かに口を開く。

「すみません……ここの廊下……清掃したいので……空けてもらえませんか?」

「あっ……はいはい!すみませんでした!」

 ひなたはそそくさと校門に向かう。

「参ったわね……」

 

 少しして校門に到着した。

 すると、1人の少女がひなたに近づき、恐る恐るつぶやいた。

「ひ……なた……」

 彼女は同じ水泳部で、ひなたの親友、土師京子はぜ きょうこだ。

 黒髪のロングヘアに、白いヘアピンをつけている。

 頭頂部でシニヨンにしているが、後ろ髪も長い。

 まるで、顔を隠そうとしてるかのようだった。

 背丈は158センチと平均的な高校二年生だ。


「京子!遅れてごめんね! 一緒に帰ろ!」

「ひなたが……言うなら……」

 ひなたの笑顔に、京子は小さくうなづいた。


 2人は校門を出ると、そこは学園の西を流れる霧島川が見えた。

 橋の欄干に触れた指先が、ひやりと冷たかった――川霧が肌にまとわりつく。

 京子がつぶやきをもらす。

「橋……長いね……」

 学園の出入りには、この橋を必ず通る必要があるのだ。

 ひなたが笑顔で答える。

「もう二年も渡ってるよね……この橋を……」

 空は暗くなり始め、他の生徒たちの姿はなかった。

 

 ひなたは音楽室を思い出す。

「音楽室のバイオリン……なんか……落ち着かない音……」

「ひなた?」

 京子が首を傾げる。


 突然、叫び声がこだました。

「助けて!」

 バイオリンケースを持った少女が橋を猛ダッシュしてきたのだ。


「……あの娘!」

 ひなたが身を乗り出す瞬間、黒ワゴン車が追い込む。

 ナンバープレートこそあるが、暗がりがその確認を阻んだ。


 ――キィッ!

 急ブレーキが鳴り、直後に少女は宙を飛んだ。

 そして、水飛沫を上げ、川にその身は沈んでいく。

 ワゴンは猛スピードで逃走。


 ひなたの共感力が、ブレーキの不自然なタイミングにざわつく。

「何か……変……」

 京子が震える手でスマホを手にする。

「ひなた……救急……呼ばないと……!」

「それじゃあ!間に合わない!」

 ひなたは叫んだ。そして、欄干を跳ぶ。


 ――バジャーン!

 

 水泳部のスタートダッシュ、柔軟な体が川に吸い込まれる。冷水が肌を刺した。


 そして、水中で少女の身体、バイオリンケースに指先が触れた。

(死んでる……そんな……)

 動きはない。血が川面に広がる。

 

 しばらくして、救急隊が到着した。

 警察のパトカーも到着し、検分が行われる。

 動かない少女は引き上げられ、ストレッチャーに乗せられ、白い布でその身を隠されていた。


 ひなたは川岸で震え、濡れた制服が重い。

「ひなた…だ……大丈夫……?」

 京子が不器用な言葉をかけ、抱きしめる。


 ひなたの耳に、少女の音色の幻聴が響く。

 不穏なあのバイオリンの囁き。

「あの音…ただの音じゃない」

 二人は川岸を離れ、橋の上に戻っていた。

 

 京子は検分が続く現場をじっと見ていた。

 誰も、少女の名前すら知らなかった。ただ、冷たい川と機械的な作業だけが、静かに流れていた。 

「ワ……ワゴンの……ブレーキ跡、変……急に止まって、ぶ……ぶつけた感じ」


 ――カシャッ!カシャッ!

 

 京子は震える手でスマホを取り出し、現場を撮影する。


 ひなたの共感力が、事故の違和感を掴む。

「あのバイオリンの娘……明らかに何かに追われてた…それにあの音……!」

 京子が頷く。

「私が……車の事……警察に……ひなたが言うなら……画像……撮ったから……」

 ひなたの瞳が燃える。

「あの音、それにこれって……」


 夜の霧島橋、サイレン音と川の流れだけが響いていた。

 ひなたは、少女の音色を脳裏に刻んでいた。

「ただの事故じゃない……きっと何かある!」

 ひなたが決意した。夜の霧島川の波音が、心に響いていた。



【後書き】

 お読みいただきありがとうございました。

「私立あかつき学園 命と絆とスパイ」

 はっきり言って[タイトル詐欺]ですw

 読み進めるほど“本気のリアル”が襲ってきます――。


 初見さん!感想!質問!考察大歓迎!

 お気軽にどうぞ!

 今後もよろしくお願いします。

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