配送記録:非存在性ショップ

店主

【収蔵品番号:No.014《顔のない信仰者たち》】

◆送付元:第五補完施設・第13収容区

 文書番号:PF5-13-014


【搬出記録】


品名:油彩画(キャンバス)/仮題「信仰者」

搬出日:2025年6月20日(金)午前9時47分

搬出責任:保管班K-12


記録事項:

裏面に鉛筆書き「信仰者」と記載

同箇所に、手書きのメモ用紙(貼付)が確認される。作成者不明、剥離不可

搬出直前、収容室内にて局所的ノイズ(25Hz帯域)を3.4秒間観測

搬出許可(異常性確認なし)


備考:影響報告例として以下の事例がある

・絵画正面注視時に平均2.3秒の視線固定反応(試験対象4名)

・観察後、「顔が思い出せない」「目が乾く」等の一過性訴えあり


※長時間の正対・無言注視を避けるよう記録職員に通達済

※本個体保管時、裏面に手書きの紙片が貼付されていた。作成者不明。現在も絵画本体に付属。




【手書きのメモ用紙】

かの者らは声なき祈りを捧げ続けていた。

顔を持たぬが故に、眼だけを神に差し出したのだ。

どうか、正面から見ないでください。

必ず、正面から見ないでください。



【非存在性ショップ 店主の日誌】

2025年6月20日(金)午後5時32分

午前中、誰も来ていないはずの裏口の足元に木箱が置かれていた。送り状はなく、ただ店の名前だけが書かれていた。

箱は古びていて、釘も甘い。開けるのに工具はいらなかった。

中には一枚の絵、紙の束、そして絵の裏に貼られた黄ばんだメモ。

絵の裏には「信仰者」とある。タイトルなのか、皮肉なのか。

描かれているのは、顔を持たない人影たち。数十、いや百を超えている。皆、頭巾をかぶり、視線だけがこちらを見ている気がした。

正面から見てはいけない、という警告があったが──これはもう既に“見られて”いるのではないか、という感覚がずっと消えない。

これは偶然の届け物ではない。どう考えても“始まり”だ。

けれど、このまま置いておくわけにもいかない。箱に戻す気にはならなかったし、裏口に捨てる勇気もなかった。

だから結局、額に入れて、店内の奥に展示した。値札もつけた。


売れるとは思っていない。でも、売るしかない。

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