サイバー通販回想録

印西牧の原終点

ボッタクリ傭兵

OP

 父さんが死んだ。


 眠るように息を引き取った。


 享年およそ70。


 死因はよくわからない合併症。


 生体強化をしなかったから老衰なのかもしれない。



 俺が生まれるとき、父さんは俺に変な能力を与えてくれた。

 名前は通販ストア


 父さんが「自分のと違うが昔使ってた通信販売のwebサイトとそっくりだ」って言ってた。



 父さんは喫茶店を経営していた。


 だが出しているメニューは普通じゃなかった。


 今、俺はその喫茶店を引き継いで運営している。


 物心ついたときから店の手伝いをしていたので運営自体は問題なくできた。


 でも、父さんが居ない喫茶店は、とても、さびしい。



「あーにやってんですか店長てんちょ。おやっさんの事は残念でしたけど今は注文の消化をしてくださいよ。」

「バイト……肉親が死んでショックを受けない奴は人間じゃないよ。」

「ミャハ。物心ついた時にゃとっくに孤児だった俺にゃわからねえ感覚だぁ。」

 そう言ってバイト職業バイト名前が追加の注文票を寄越してくる。




 俺が生まれるずっと前。


 グローバル企業と呼ばれた組織が各国の執拗な課税に反抗して戦争を仕掛け、それはもういろいろな物を落っことしあって世界は荒廃した。


 国境はすでに無く、あるのは古くからの地名と企業同士の小競り合い。


 国が保証していた預金の数字は意味をなさなくなって久しく、時代は金本位制に近い状態となっていた。


 とはいえ金が貴重というわけではないので金貨や銀貨を使うだとか希少な金属を使用した貨幣を使っているわけではなく、各都市を支配している企業が独自の貨幣を設定し住民はそれを利用している。

 紙幣や加工しやすい銅貨がメインで使われているがそんなことはどうでもいい。


 それに金本位制に近いと言っても他の都市、つまり他社の貨幣は基本的に利用出来ない。

 同じグループの企業であったり、協業している都市であれば金との固定レートで間接的に利用できることもある程度なのだ。



 ちなみに喫茶グラントウチのあるダーインキミア・シティはリブラという単位を使っているのだが、どういうわけかあらゆる都市で使えるという基軸通貨とも言える扱いを受けている。


 本来であれば元の企業体由来であるエンからダーインキミア・エンを使うべきなのだろうけど、色々と治外法権の都市だからしょうがねえよって常連さんは言っていた。



「注文のエメラルドマウンテン上がり。」

「ホイホイ。」


 エメラルドマウンテンのコーヒーは年イチくらいの間隔で来ていた父さんの古い知り合い、ブール爺さんの好物だ。


 好物なのはいいんだけど、コーヒーと紅茶は父さんがずっと入れてたからどうやっていたのか教えてもらってない。


 エメラルドマウンテンという豆自体、通販ストアの中に沢山あってどれがどれ使うのかがわからないし、コーヒーの入れ方も通販ストアで動画として見ることができるので知ってはいるが果たしてどれが正しいのかが不明だ。



「……深すぎる。親父さんのとはやはり違うな?ヴァリアント。」

「しかたないでしょ。父さんコーヒーと紅茶だけは触らせなかったから。」

「ならとっとと覚えろ。俺の舌がおかしくなっちまう前にな。」

「爺さんねんイチで来るから覚えるの何十年後になるかわかりませんよ……セットの練乳パン上がり。」

「ホイホーイ。」


「おう、これこれ。懐かしい。あの飄々としたツラが思い浮かぶぜ。」

「懐かしいって、父さんとはずいぶん長い付き合いだったんだね。」

「ハハ、聞いて驚け。最古の知り合いだぞ、俺は。」

「へぇ、聞いたことなかったな。ブール爺さん、父さんが子供の頃からの知り合いなんだ。」

「違うわ阿呆。常連の中では最古だって事だよ。あいつの子供時代なんか知るかい。」

「んじゃあいつ頃どうやって知り合ったのさ。」

「そうだな。ありゃ30年は前のことだ……」

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