第37話 星の系譜

森本教授は、まず一冊目の本をパラパラとめくった。それはとても大きな本で、表紙には何の装飾もないが、手に取るとずっしりとした重みがある。


「これはね、宗教関係なく、昔の人が描いた絵が沢山掲載されている本なんだけど……見てごらん。」


そういって、とある画像が載っているページをさらら達に見せた。そこには、写実的でありながらも素朴なカラーの絵が描かれている。若い女性が、短い杖をフラスコに入った紫色の液体に向けて振っている様子だ。その姿は、まるで料理をしているかのようで、どこか日常的な光景に見える。しかし、フラスコの中の非日常的な液体と、小さい頃絵本で見たような魔法使いの杖が、それがただの科学実験ではないことを示唆していた。


「とある魔法使いが魔法を使用している姿の絵と言われているものだよ。魔法はね、昔からこのように絵が残されるくらい身近なファンタジーだったみたいだ。でもね、面白いのが、昔のどの魔法について記載されている書物にも、ごく一握りの人間しか扱うことができない特別な力だったと記載されていることが多いんだよ。ファンタジーのはずなのに、共通認識があるのが、君が気になっている宗教の魔法を取り扱っている部分で面白いところだ。」


さららは、その絵を食い入るように見つめながら疑問を口にする。


「具体的には何をしている様子なのでしょうか?科学実験のように見えますが……」

「するどいね。これは薬の調薬風景らしい。」


森本教授は、すぐに疑問に答えてくれた。そして、話を続ける。


「魔法にもね、色々な種類があると昔の人は考えていたようだよ。」


そういって、また別の本を森本教授は開く。

それは、一冊目とは異なり、無機質な表紙の、より専門的な論文集のような見た目をしていた。


教授はページをペラペラとめくると「あったあった……」と呟き、さらら達側が見えやすいように本をテーブルの上に置いた。今度は画像や挿し絵が一切ない文字だけのページだ。その一部分を指でなぞりながら、


「ここなんだけど『魔法には人によってそれぞれ使用条件があるが、大きくわけて昼属性と夜属性に別れている』と記載されている。」


さららは小さく呟いた。「昼と夜……」


「うん。どうやら、使用条件が日中に限られる場合が昼属性、逆に夜に限られる場合が夜属性ということらしい。」


さららは「なるほど……」と言ったあとに、質問すべきか迷うような様子で少し間をあけて尋ねた。


「それって、もし、星の力で魔法を使用する人がいた場合はどうなるんですか?」


森本教授は感嘆の表情で目を見開いた。


「君は本当にするどいね。それはこっちのページに記載されているんだけど……」


そう言って、ページを数ページ戻す。そしてとあるページで止まった。


「ここに、記載してあるから読んでごらん?」


と記載箇所を指で指した。

さららはそこを若干前のめりになって、落ち着いたトーンで音読をする。


「『例外的に太陽、月、星の力で魔法を使用するものがいる。この3つの力は昼夜や環境を問わず使用することができるため、この力を使用できるものは魔法使いのなかで最も強い存在である。ただし、太陽は昼属性、星は夜属性である。月は唯一両方の属性を持つ力である。』」


ここまで読んで、さららは口をつむんでしまった。自分の使用している星の力の魔法が、まさか魔法使いの中で最も強い力だと判明してしまったからだ。彼女の表情は驚愕と困惑に満ちていた。


奏雨もまた、さららの持つ力が思ったより強い力だったことに驚きで目を見開いた。

森本教授は、二人の反応を気にする様子もなく話を続ける。


「このとおり太陽、月、星は使用条件がない、最も強い力とされているんだ。魔法の大まかな設定はそんなところかな。」


さららはハッとして、森本教授に質問をする。


「この、太陽、星、月の力ってどれくらいの人が持っていたと記載されているんですか?」


森本教授は「そうだなぁ。」と天井を仰いで記憶を辿るように考えた。


「一つの力に対して、一人ずつ扱える人物がいたみたいだよ。でも、転生者が魔法が衰退することがわかったとき、この3つの力を一人に集約してとある人物が背負ったと聖書関連の文献に記載されているね。」

「それってどんな人ですか?」


森本教授は別の本をペラペラとめくる。

その顔は、まるで探していた宝物を見つけたかのように楽しそうに輝いている。そして、とある画像が載っているページを差し出してきた。


「これが大きくて見やすいね。このオミって人だよ。」


そこには、分厚く、宗教に関連するものが記載されていることがわかる煌びやかな表紙の本が開かれ、そのページに描かれた人物の姿があった。無表情な大人の男性で、30代くらいに見える。さららは青年の姿の臣しか見たことがないが、その面影をハッキリと感じた。紛れもなく、文化祭で対峙したあの臣の姿が、今、目の前に広がる古の文献の中にあった。

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