第28話 彼の休息、彼女の支え

自室の天蓋つきベッドで、臣が静かに眠っていた。

顔色は青白く、目元には微かな隈が浮かび、疲労感がにじみ出ている。

しかし、その表情は穏やかで、深い眠りについているようだった。


部屋は広々としており、壁一面に並んだ書物や、窓際に置かれた一人掛けのソファが、彼の知的な一面と、落ち着いた生活を物語っている。物は多いが、きちんと整理されており、全体的にシンプルで洗練された印象を与えていた。


トントン、と控えめなノックの音が部屋に響く。

やがて、ドアの隙間からおそるおそる


「ただいまぁ」


と、優しい声が聞こえてきた。


臣は、薄く目を開けて視線だけで彼女の姿を確認すると、またゆっくりと目を閉じた。

その口元に微かな笑みを浮かべ、


「おかえりなさい」


と穏やかに応える。


彼女は、心配そうに臣の部屋へとゆっくりと足を踏み入れた。

そして、ベッドに近づきながら、そっと声をかける。


「大丈夫?」

「問題ないよ」


臣はそう答えるが、目は閉じたままだ。

その声には、微かな疲労の色が感じられた。


彼女は、ベッドサイドへと歩み寄りながら、問いかける。


「今日は、たしか他校の学園祭に行くって……そこで具合悪くなっちゃった?」


彼女は、臣が最近、出かけることが増えたことに気づいていた。臣は返事を返さない。その沈黙が、彼女の不安を募らせる。


そして、彼女はベッドサイドにそっと腰を下ろした。

臣の表情をじっと見つめ、確信したかのように再び問いかける。


「もしかして、力?をたくさん使ったから?」


彼女は、臣が特別な力を持っていることを理解していたが、その力が具体的に何に使われているのかまでは知らなかった。しかし、彼が大切なことのためにその力を使っているのだろうと、深く信頼し、見守っていた。


臣からは、やはり返事がない。


彼女は、臣の閉じた目を見つめながら、言葉を続けた。


「最近、急にたくさん使うようになったよね?なにか大変なことでもあるの?」


そして、そっと臣の手を握りしめた。

彼女の手は、優しく、温かかった。


「私は、臣くんが元気でいてくれたらいいのよ。幸せでいてくれたらいいの。そういう時間をたくさん作って、共有して、積み重ねていきたいの。」


彼女の言葉には、臣への深い愛情と、彼を心から案じる気持ちが溢れていた。

臣は、握られた手に微かに力を込めた。


「それは僕も同じだよ。君とたくさん幸せでいたい。」


そして、一息ついてから、ゆっくりと続けた。


「だから、今が頑張り時なんだ。僕も男だよ。こういう人生でやらなければならないことは、ちゃんと、やる。心配かけてごめんね。」


彼の声には、決意と、彼女への謝意が込められていた。

彼女は、その言葉に、臣の手の甲を少しつねった。


臣が「いたっ」と小さく声を上げると、彼女は拗ねたように、しかし愛情を込めて怒った。


「いつも言葉ばっかりで、行動がともなってないからお仕置き!!」


臣はハハハっと、心から楽しそうに笑った。

そして、ゆっくりと目を開ける。

その瞳は、彼女への愛情に満ちた眼差しで、彼女の存在が彼にとってどれほどの癒しとなっているかを物語っていた。


彼女は「もう!」と頬を膨らませてベッドサイドから立ち上がると、


「お夕飯、体にやさしいもの作りますからね!!それまでちゃんと寝てなさいね!」


と言って、部屋から出ていってしまった。

その背中からは、臣への深い愛情と、彼を支えようとする強い意志が感じられた。


臣は、窓の外を見た。夕日が地平線に落ちようとしており、空は茜色に染まっている。その温かい光を浴びながら、彼は再び目を閉じた。静寂と、彼女が残していった温かさが、部屋全体にじんわりと染み渡っていくようだった。

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