第25話 文化祭〜演劇〜

文化祭二日目。

今日は一日中、学内にある立派な劇場での演劇発表の日だった。


全生徒が劇場に集まり、学年を縦割りにしたグループごとに趣向を凝らした劇が披露される。さららが出る演劇は、その日のトリを飾ることになっていた。


奏雨と律は、劇場二階席の最前列に陣取って観劇していた。律は時折、船を漕ぐように眠たげな表情を見せていたが、奏雨は思いのほか楽しんでいるようだった。広く見渡せる舞台は、演者たちの細やかな表情までしっかりと見える距離だ。舞台上の精巧な装飾、きらびやかな衣装を纏った演者たちの動き、そして劇中にコロコロと変わる表情。耳が聴こえなくても、まるで人間観察をしているかのように、舞台全体を真剣な表情で見つめ、物語の世界に没入していた。


やがて、いよいよさららが出る演劇が始まる時間が来た。劇場内がゆっくりと暗転し、観客たちのざわめきが次第に静まっていく。


演劇の内容は、あの日にさららからある程度聞いていたため、他のグループの劇よりも理解できる部分が多かった。そして、満を持して、ついにさららが舞台に現れる。


奏雨は、その姿に思わず目を奪われた。


さららが演じるのは、まさに魔法少女の役だった。彼女の衣装は、深い紫と黒を基調とし、所々にあしらわれたゴールドの刺繍が、舞台のライトを浴びて鈍く輝いている。ふんわりと広がるパニエスカートは、可愛らしさの中に神秘的な雰囲気を醸し出し、フード付きのマントは重厚感を添えていた。大きな杖の先端には、宝石を模した煌びやかな石が埋め込まれ、一目で魔法を使う者だとわかる。それでいて、彼女自身の持つ可愛らしさと、どこか大人びた雰囲気を兼ね備えた、さららにぴったりのデザインだった。メイクも施されており、特に目元が強調されているが、それはさららの持つ端正な顔立ちの良さを最大限に引き出していた。


客席からも、


「かわい〜」

「あれ、一年生だっけ?」


などと、ひそひそ声が上がり、舞台上のさららに熱い視線が注がれる。舞台用のライトを全身に浴びながら、さららは一心不乱に、しかし堂々と演じていた。その姿は、観客の目に、そして奏雨の目に、ひときわキラキラと輝き、眩しいほどだった。



演劇は順調に進んでいった。物語がクライマックスに差し掛かり、激しい戦闘シーンが始まった。舞台上では、転生者、騎士、弓使い、そして魔法少女であるさららが、女神を背後で守りながら、それぞれの武器を手に激しく戦う。観客達も息をのみ、固唾を飲んで舞台の行方を見守っていた。


さららが演じる魔法少女が、持っていた杖を大きく頭上へと突き上げた、その時だった。


奏雨の耳に、今まで経験したことのないほど大きく、鋭いチリチリ音が鳴り響いた。それは、金属が擦れ合うような、耳の奥深くを震わせるような強烈な音で、奏雨は思わず両手で耳を強く押さえ、はっと顔を上げて辺りを見回した。


舞台上では、さららが台詞の魔法の呪文を唱え始める。


「フラッシュ!」


その言葉が劇場に響いた瞬間、舞台上から放たれたまばゆい白い光が、劇場全体を一気に包み込んだ。それは、目に焼き付くような閃光で、観客は皆、反射的に目を閉じ、劇場内は驚きの声が上がるよりも早く、白く染め上げられた。

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