第19話 覚悟の光
突然の暗闇の中、奏雨は答えを出せずにいた。
目の前で倒れている律。
そして、その原因を作ったさららの魔法。
関係のない誰かに魔法をかけ、意識を奪うという行為を、さららが躊躇なく行ったことに、奏雨は衝撃を受けていた。これが正しいことなのか、間違っていることなのか、彼の内なる倫理観が激しく問いかけてくる。
その様子を見て、さららはゆっくりと、しかしはっきりと手話で「ごめんね」と伝えた。
その言葉と共に、彼女の瞳にためていた大粒の涙が、一筋、頬を伝って流れ落ちた。
その涙は、彼女がどれほどの覚悟と痛みを抱えているかを物語っていた。
そして、さららは、その小さな背中を闇の中へと向け、一人で店主を探しに行ってしまった。
奏雨は、その場に立ち尽くし、彼女の後ろ姿を見ていることしかできなかった。
やがて、店のレジの方向から、さららの魔法を使用したときに聞こえる、あの「零れ星の音」が微かに響いてきた。少し遠くにいるからか、その音は、以前聞いたときよりも小さく、そして、どこか不安定に感じられた。それは、まるで感情の波がそのまま音となって現れているかのようだった。
その不安定な音を聞いた瞬間、奏雨の顔に覚悟を決めた表情が浮かんだ。あんなにも心中は揺れ動き、涙を流しながらも、さららは最善であろう選択をし、たった一人でこの大きな試練に立ち向かっている。その彼女を、この場で少しでも支えることができるのは、自分しかいない。奏雨は、そう強く感じた。
奏雨は、迷いを振り切るように自分の端末のライトをつけた。その光が、暗闇の中で小さな希望のように揺れる。そして、彼は迷いなく、店の出入り口へと向かうのだった。
店の出入り口にたどり着くと、そこには既にさららの姿があった。彼女は、降り続く雨の中、じっと空を見上げていた。奏雨は慌ててさららに駆け寄る。
さららは、奏雨の突然の出現に驚いた様子で、手話で「どうして?」と問いかけてきた。奏雨は、迷わず端末を見せる。そこには、彼の率直な思いが綴られていた。
「魔法の音、かなり不安定だった。こんな状態の星宮、一人にできない。」
その文字を読んださららは、苦しそうな、しかし感謝に満ちた笑顔で、再び手話で「ありがとう」と伝えた。その表情は、奏雨の存在がどれほど彼女の心を支えているかを物語っていた。
二人は並んで、降り続く雨空を見上げた。雨はまだ止む気配を見せず、雷鳴も時折遠くで轟いている。
さららは、ゆっくりと腕を真上にあげ、その手のひらを空にかざした。
彼女のブレスレットがそれを支えるように光りだす。
手のひらから、細く、しかし確かな一筋の光が空まで届き、厚い雨雲の中に吸い込まれていく。
奏雨の耳には、さららの「零れ星の音」が響いてきた。その音は、ブレスレットのせいなのか、いつもよりわずかにくぐもって聞こえるのが気になった。
それでも、以前のような不安定さはなく、強く、そして安定していた。
十数秒もの間、光は天に向かって届けられたが、現状は変わらないように見えた。雨は降り続き、雲は厚いままだ。
「ダメか……」
奏雨がそう思った、その時だった。
光を中心に、厚い雲がブワッと大きく晴れ始めた。まるで、空に巨大な穴が開いたかのように、青空が顔を覗かせ、光が差し込む。
さららの表情が、安堵と達成感で緩んだ。
彼女はもう一度、覚悟を決めたような、しかし確かな笑顔を浮かべる。そして、大きく息を吸い込むと、”んっ”と小さく息を止めた。すると、空に伸びる光の筋が、さらに太く、力強く輝き始めた。その光に導かれるように、雲はあっという間に四方へと散り、瞬く間に空は晴れ渡った。
雨も止み、雷鳴ももちろん止まった。
さららはゆっくりと腕を下ろす。彼女は、疲労と達成感に満ちた表情で、奏雨の方を見た。奏雨もまた、彼女の魔法の力と、その覚悟に圧倒されながら、さららを見つめ返していた。
二人だけの時間が、わずかに流れる。
そして、さららがはっとした表情を見せた。端末に声を吹き込む。
「律くんと、おじいちゃん起こさないと!!」
奏雨も、その言葉にハッとして、我に返ったようにさららと顔を見合わせた。安堵と、少しの焦りが二人の間に広がる。
そして、二人は連れ立って、再び店内へと戻っていった。
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