通学中の電車内でクラス一の快活美女が、毎日隣の席に座って来るらしい
さばりん
第1話
ガタン、ゴトン。
地元を走る電車に揺られながら、
黒板に板書されたのを書き写したノートを眺めながら、今日も車内で黙々と授業の復習を行う日々。
これが、大河の変わらぬ通学風景である。
クラスで友達と駄弁って、授業を受けて帰宅する。
そんな何気ない平凡な日常を繰り返す日々。
唯一、他の生徒と違う事と言えば、家が学校からめちゃくちゃ遠いという事。
電車を二回乗り継ぎ、県境も二回跨ぐのだ。
通学に掛かる所要時間は、なんと驚異の三時間。
もちろん、入学時に学生寮や一人暮らしをすることも考え、当然両親からも進められた。
けれど、大河は最終的に実家から電車で通うことを選択。
結局、地元が好きだったのが通学する最後の決め手だった。
長閑で豊かな自然残る、湖に面した田舎町。
毎日通学で三時間は苦痛だけれども、地元から乗れば確実に座って通学できるし、電車内で軽い朝食を摂ったとしても、厳しい目を向けてくる人はほとんどいない。
そんな温かい空間を手放すのが、大河は惜しかったのだ。
大河は効率化を図り、三時間通学時間を有効活用して勉強に充てている。
往復合計6時間、社会人の労働時間にも肉薄する通学時間を、授業の予習・復習に費やすことで、高校の高いレベルの授業にも付いていくことが出来ていた。
隣県の高校へ通学している奴は聞いたことあるけれども、二つ県を跨いで通学している奴は聞いたことがない。
恐らく、日本全国を探しても、通学にここまで時間が掛けている高校生は大河くらいしかいないのではないだろうか。
※通学三時間かけている人、ここに求む
くだらないチラシ広告を頭に思い浮かべつつ、大河は再びノートへ目を通す。
そんな大河にも、毎朝目を疑う光景がある。
それは、大河が乗り込んだ駅から二つ目の
ホームに電車が停車して扉が開くと、大河が座る席から一番近い扉に同じ制服に身を纏った女子生徒が乗り込んでくるのだ。
クラスメイトである
肩甲骨辺りまで伸びる金色の髪、きめ細やかな白い肌。
膝丈よりかなり短めのスカートを靡かせる姿はまさに妖精みたいに美しい。
品行方正、運動神経抜群。人当りもよく、溌溂でクラスの元気印みたいな存在。
持ち合わせた美貌やスタイル、明るい性格も相まって男子からの人気も高く、周りからはクラス一の美少女としても名高い。
そんな園加は、眠そうに細い目を瞬かせながら、ゆらゆらとした足取りで大河と向かいの席に座り込む。
クラス一の人気者が、大河と同じ電車を利用して通学しているという事実。
昨年まで、園加の姿をこの電車で見かけたことはなかった。
つまり彼女は、今年からこの電車を利用して、学校へ通学しているという事になる。
親の転勤とか、色々園加にも折り入った事情があるのだろう。
深く詮索することはせず、大河はノートに視線を下ろした。
園加が背中からリュックを下ろした直後、電車の扉が閉まり、ガタっと音を立てながら次の駅に向けて出発していく。
睡魔が限界を迎えたのか、園加は腕を組みながらスヤスヤと眠りについてしまう。
園加と大河は同じクラスではあるものの、まともに話したことはない。
大河からすれば園加は雲の上の存在なのである。
ただ教室の端から、彼女を眺めるだけ。
なので、車内で遭遇したとはいえ、話しかけることもなければ、挨拶を交わすこともない。
ただ、普段元気印のような美少女の寝顔を、こうして電車の中で拝むことが出来るのは、秘かな特権だったりする。
スヤスヤ眠るクラス一の美少女をただ見守りながら、ノートへ視線を下ろして勉強に勤しんだ。
◇◇◇
電車に揺られること約一時間。
路線の終着駅であり、一つ目の乗り換え駅『
ここからまた、別の電車に乗り換えて学校へと向かっていく。
大河は席を立ち、電車を降りようとしたところで、ふと向かいに座る園加の様子が目に映る。
園加は目を閉じたまま、スヤスヤと深い眠りについていた。
女の子の寝顔を覗き見るのはあまり良くない行為だと分かっていても、その洗礼された顔立ちは、まるで毒リンゴを食べて眠りについてしまったシンデレラのよう。
目を覚ます様子は一ミリもなく、このまま放置して置いて行ってしまったら、乗換の電車に間に合わない。
それどころか、今乗っている電車が折り返して、地元へと戻って行ってしまう最悪の結末を迎えるだろう。
目を覚ました時には時すでに遅し。
学校へ遅刻も確定で、園加は絶望を味わうことになる。
流石に可愛そうだったので、大河はトントンと園加の肩を叩いて起こしてあげた。
「平野さん。終点に着いたよ」
「ほぁ……?」
大河が声を掛けると、間延びしたような可愛らしい声を上げて、しぱしぱと目を瞬かせる園加。
艶のある髪、長いまつ毛、潤んだ唇、きめ細やかな肌。
寝起きの園加に見つめられて、大河は吸い寄せられてしまいそうになってしまうのを、生唾を飲み込み何とか踏みとどまった。
数秒間の沈黙の後、状況を理解したのか、園加がバっと目を見開いて飛び起きた。
「うわぁ!? 嘘!? もう終点!?」
「うん、乗り換えだよ」
「急がなきゃ!」
そう言って、園加は足の間に置いていたテニスラケットの入ったリュックを背中に背負い、慌てた様子で乗り換え改札口へと向かっていく。
実は、月宮駅での乗り換え時間は10分ほどあり、ホームもすぐ向かい側にあるので、そこまで慌てる必要はなかったりする。
電車から駆け降りた園加は、ピタっと立ち止まり、こちらを振り向いて朗らかな笑みを浮かべた。
「起こしてくれてありがとうね、遠藤君!」
感謝の言葉を口にして、園加は駆け足で乗り換えホームへと向かっていく。
その姿を見送り、一人電車内に取り残された大河は、呆然と立ち尽くしたまま園加の姿を見送りつつ――
「俺の名前、憶えててくれたんだ」
と、そんな独り言をボソっと呟いた。
クラス一の美女が、教室の陰でひっそり佇んでいる大河の名前を憶えてくれていたことに驚いたのである。
(今日はなんだかいいことがありそうだな)
朝から美少女の寝顔と笑顔を独占することが出来て、少し誇らしい気持ちになりながら、園加の後を追うようにして、乗り換え改札口へと向かっていく大河であった。
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